第十七話 撃退法
ギルドがティーエを探しているのだから、探している冒険者と接触すればいい。
それが一番簡単な解決策だ。
しかし、相手の追手はそれなりに手練れ。
下手な人間にティーエを預けると、詰みになりかねない。
そういう事情で、俺とティーエはギルドハウスを目指しつつ、逃げ回っていた。
「テオ様……テオ様なら逃げ回る必要はないのではありませんか?」
「冒険者テオドールはしがない付与魔導師なんだ。正体がバレると困る理由もある。だから、逃げる」
「ですが……このままだと逃げきれませんわ」
ティーエは少し不安そうに周囲を見渡す。
追手が着々と俺たちへの包囲を狭めつつある。
このままだとギルドハウスに入る前に、俺たちは敵に補足されるだろう。
けれど。
「どうにかする。どうにもならなきゃ……どうにかしたように見せる」
「どうしても正体を隠したいんですわね。あなたほどの方が、なぜそんなことを?」
「……幼馴染に強くなってほしくてな」
「強くなってほしいから、正体を隠すんですの?」
「ああ、俺の正体を知れば誰もが頼る。今の君が良い例だ。大丈夫だとどこかで安心してしまう。真の強者は限界を超えなきゃなれない。俺がいると……幼馴染は限界にぶつからない。ぶつかれない」
「納得できましたわ。けれど、関与しないという選択もあったのではありませんか?」
「傍にいなきゃ守れない。見守るだけでいい世界なら見守るけれど……この世界はそこまで優しくない」
聖龍騎士は傍にいてすら、ティーエを守りきれてない。
聖龍姫であるティーエには特別、黒龍教も戦力を傾けるからだが、狙われているという点では高ランクの冒険者もティーエも差はない。
まぁ、ティーエを襲撃した連中が黒龍教という証拠はないが……こんなことするのは奴らくらいだ。
「走るぞ」
「はい」
周りを見渡し、追手の視線が外れた瞬間。
俺はティーエの手を引き、走り始めた。
向かう先は迷宮都市の広場。
そんなところに行けば、いい的だが、いつまでも路地裏に引きこもっていると埒が明かない。
どこかで勝負に出なくちゃいけない。
それは追手側も考えていたらしい。
先ほど、人込みに入った時は無理をして追ってこなかったが。
「さすがに追ってくるか……」
「どうしましょう?」
「走るだけさ」
そう言って俺はティーエを連れて、全力で広場を走り抜ける。
後ろからは追手。
何事かと人々が振り返るが、気にしている暇はない。
だが、向こうのほうが速い。
俺たちの前に一人が回り込んでくる。
そして追手は剣を抜いた。
だが。
『光撃魔法――レベル3――オーラ』
左から飛んできた光の球が追手を吹き飛ばす。
まさかの方向からの攻撃で、対応できなかったんだろう。
「やぁ、ミシェル」
「追われているということで間違いありませんか?」
「そうそう。しつこくて」
「では、撃退といきましょうか」
横にいるティーエには何も触れず、ミシェルが杖を構えた。
撃退という言葉を使ったが、俺もミシェルもそこまで戦闘に向いているわけじゃない。ミシェルが吹き飛ばした追手も、もう立ち上がっている。
そいつを合わせると追手は四人。
さすがに数が多い。
しかし。
『地撃魔法――レベル5――ロックウォール』
俺たちと追手の間に巨大な岩の壁が出来上がった。
その瞬間、俺はティーエの手を引いて走り出した。
ミシェルは何も言わず走り始めている。
「撃退するのでは!?」
「状況が変わった」
ここらへんは阿吽の呼吸だ。
さきほどまで本気で戦う気だったが、戦う奴が別にいるなら支援に回ったほうがいい。
「おい、テオ!? なんだ!? その美人さんは!?」
「いろいろあって……」
「手なんて握って! 羨ましいな! おい! そうだろ!? ガロン」
「僕はそうでもないかなぁ。美人とデートして、襲われるのはちょっとねぇ」
「そんくらいいいだろ、別に。追手の十人、二十人くらい。美人はそれだけ人気なんだ」
「はいはい。ふざけてないでさっさと片付けるわよ」
俺とミシェルが下がる代わりに、ジャンとガロン、そしてリネアが前に出てくる。
ここを目指したのは、ミシェルがここにいるとわかっていたから。
そして、近くには三人もいるとわかっていたから。
これで何の問題もなく撃退できる。
「悪いな、みんな。巻き込んで」
「別にいいわよ。ただし……何があったか詳しく聞かせてもらうわよ? テオ」
ニッコリとリネアが笑う。
なんか笑顔が怖い。
まぁでも、とりあえず。
「あいつら片付けたあとに話すさ。まずはあいつらだ。諦めてもくれないみたいだし」
俺は追手の方に目を向ける。
突然の乱入を受けても、追手は撤退しない。
ここで仕留めないと終わりだとわかっているからだろう。
もう騒ぎは大きくなっている。
ギルドに入られたら、冒険者がすべてティーエの味方だ。
さすがにそれは避けたいんだろう。
けれど、ここにいるパーティーはデビュタント最強のパーティーだ。
そう簡単に突破はできないぞ?