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第十五話 聖龍姫



「しつこいな……!」


 ティーエの手を引きながら、俺は入り組んだ路地裏を走る。

 路地裏をさっさと抜けようとしたら、早々に追手が俺たちを見つけてきた。

 見る限り、それなりに強い。冒険者の強さで表すならA級からAA級くらいか。

 騒ぎにしたくないからか、遠距離魔法攻撃を仕掛けてこない。

 ただ、それだけだ。

 少しずつこちらとの距離を詰めて、殺る気満々だ


「あの……はぁはぁ……そろそろ、息が……!」

「もう少し頑張って! こっち!」


 そろそろ追手が追い付いてきそうなタイミングで、俺は路地裏から大通りに出るルートを選択した。

 人込みに紛れる作戦だ。

 まぁ、ティーエは目立つからそんなに時間は稼げないだろうけど、あのまま追いつかれるよりはましだ。

 あいつらの動き的に目立つことは避けている。

 たぶん、ギルドが動き出したのは察しているんだろう。

 自分たちだけがティーエを見つけているというアドバンテージを崩したくないんだ。

 だから俺はティーエを連れて、人込みに入った。

 人の波をかき分けて、目的地へたどり着いた。


「はぁはぁ……ここは……?」

「宿屋さ」


 大通りに面している宿屋。

 そこに入り、俺は迎えに出てきた店主に財布を投げた。


「上の部屋を貸してください」

「え? ちょっ、こんなにいただけません!?」

「迷惑料です。追ってくる奴がいたら、上に通してください」


 財布には一部屋借りるには十分すぎるお金が入っている。

 買い出し用にアリスがたくさんのお金を持たせてくれたからだ。


「あ、ありがとうございます! では……ごゆっくり! お楽しみください!」


 何を楽しめというのか。

 ここはそこまで高級宿じゃない。

 男と女が急いで部屋を取ったら、そういうことだと勘違いするのも無理はないけれど。


「何か楽しいことでもあるんでしょうか?」

「さぁ? 楽しくないことが起きることは確かだけどね」


 そう言って俺はティーエを部屋に入れる。

 そして。


「ベッドの上から動かないで」


 言いながら部屋の構造をチェックする。

 窓は一つ。

 路地裏につながっている。

 部屋の大きさはほどほど。数人で暴れるには不十分だ。


「あの……」

「なに?」


 部屋のチェックをしながら、俺は返事をする。

 それに対してティーエはベッドの上にちょこんと座りながら質問してきた。


「お名前をお聞きしていませんでしたので……」

「テオドール。テオでいい」

「では、テオ様とお呼びしますわね」


 名前を聞けたことが嬉しかったのか、ティーエは満面の笑みを浮かべる。

 暢気な子だ。ある意味、図太いともいえるけれど。

 そんなティーエにため息を吐きつつ、俺は相手が部屋に入ってきたときを想定して、いくつかの罠を用意する。


『弱撃魔法――レベル2――フラジャル』


 床にフラジャルをかけることで、大して丈夫じゃない床の一部が脆くなる。

 それを複数個所。

 そのまま俺は自分の装備である白い杖に強化をかける。


『強撃魔法――レベル2――ストレングス』


 物体への強化。

 それがストレングスだ。

 それによって、俺の杖はそれなりに丈夫な杖へと変貌する。

 それと同時に階段を上る音が聞こえてくる。


「ティーエ、俺を信用できるなら……何があっても動かないでほしいんだけど」

「はい。わかりましたわ。テオ様がそう仰るなら」


 そう言ってティーエはニコリと笑う。

 出会ったばかりの男を信用するのは、あまりにも脇が甘い。

 ただ、今のティーエには俺を信じるしかない。

 それがわかっているからこそ、一緒に覚悟を決めてくれたのかもしれない。

 そう思い、俺は扉に対して意識を集中する。

 少しの間の後。

 扉を破って男が三人、部屋に入ってきた。

 しかし、部屋は大きくない。

 一人が先に真っすぐ突っ込んでくる。

 ただ、俺に対して踏み込んだ瞬間。

 床が抜けた。

 足を取られ、男の動きが止まる。


「なっ!?」

「残念」


 その隙を逃さず、杖で顔面を思いっきり殴る。

 その後ろから、二人が左右に回り込んでくる。

 しかし、俺から見て右に回り込んだ男は、床が思いっきり抜けて、体が床にはまってしまう。


「くそっ!?」

「俺がやる!!」


 残った男が俺に向かってくる。

 ナイフを取り出し、俺を攻撃するが、それを俺は杖を使って弾く。

 そして、反撃として上から杖を振り下ろした。

 男はナイフじゃ無理だと判断したのか、両腕を交差させて、杖を受け止める。

 いい判断だが、読みやすい。

 力比べが俺の狙いだ。


『弱撃魔法――レベル1――ロウアー』


 膝に向かって弱体化の魔法を放ち、相手のバランスを崩す。

 突然のことに男は目を見開くが、その間に俺は腹部を殴り、男と距離を取って杖をフルスイングした。

 防御もできず顔面に一撃を貰った男は、そのまま部屋の隅に吹き飛んでいく。

 その頃になると、床から抜け出した最後の男が俺に近づいていた。


「このっ!」


 男は俺の杖を蹴り飛ばし、俺に近接戦を仕掛けてきた。

 徒手になった俺もそれに応じる。

 所詮、杖を使う魔導師。

 近接は弱いという判断だろうが。

 それも残念。


「格闘のほうが得意だぞ、俺は」


 男の繰り出した拳を避け、そのまま掴んで関節を極める。

 動けなくなった男の足を払い、空中に男を浮かす。

 そのまま強化した膝蹴りを男の顔面にお見舞いした。

 特別、武術を習ったことはないが、ずっと一人で迷宮に挑んできた。

 自然と格闘術くらいは我流で身につく。

 魔力が制限されたからといって、そういう技術がなくなるわけじゃない。

 人間離れしたモンスターが相手より、よほど人間のほうが今の俺にとっては与しやすい。

 ましてや、舐めてくれるならなおさらだ。

 だが。

 膝蹴りを受けた相手の言葉が俺の動きを止めた。


「〝聖龍姫〟を……やれ……!」


 倒れながらの言葉。

 聞き間違えかと思ったが、その隙に最初に殴った男が火の魔法をティーエへ放った。

 防ぐには距離がある。

 だが、ティーエは俺を信じて動かない。

 それを見て、俺は咄嗟に影を使って、魔法を防いだ。


「影……だと……?」

「運が悪かったな」


 言いながら俺は三人の心臓を影で突き刺した。

 目撃者は消すに限る。

 ただし。


「お互いに……秘密があるみたいだな?」

「そのようですわね……」


 ティーエが驚いたように目を瞬かせながら呟く。

 しかし、ティーエはすぐに笑顔を浮かべた。無邪気な笑顔を。


「でも……助けていただき、ありがとうございました。テオ様」

「やれやれ……」


 暢気な言葉に俺はため息を吐くしかできなかった。

 もしも、こいつらの言うとおりならば。

 ティーエは〝聖龍教〟の巫女。

 すでに現世を去った聖龍と交信し、その力を使うことができる聖龍教の最重要人物。

 〝聖龍姫〟だ。

 たしかに死ぬわけにはいかない人物だろうな。


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[一言] リネアは負けヒロインなん?
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