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第九話 自称騎士


「戻ってきたぞ!?」


 攻略限界時間を迎え、俺たちは迷宮内から扉の前に転移させられた。

 今回、迷宮に挑戦したパーティーは五組。

 しかし、戻ってきたのは四組。

 先に引き返したのでなければ……。


「A級のバスチアンのパーティーがいないぞ!?」

「全員、A級のパーティーだぞ……?」

「一人も帰還できなかったのかよ……?」


 周りの反応を見るに、一組は未帰還らしい。

 まぁ、俺たちも危なかったしな。

 どれだけ実力があろうと、一つのミスで全滅するのが迷宮だ。


「リネアのところも攻略できなかったのか……」

「あの呪印憑きがいたら無理だろ……」


 周りの野次馬の声が聞こえてくる。

 しかし、俺はそれを無視した。

 元々、興味がないというのもあるが……。

 明確な殺気が自分に向けられていたからだ。

 リネアたちが周りの冒険者たちを睨むが、俺の視線はこちらに向かってくる一人の剣士に注がれていた。

 冒険者のようだが、着ている鎧は国に仕える騎士のようだ。しかし、国の紋章はない。

 神経質そうな青髪の男で、二十代くらいか。

 背は高いが細く、あまり強そうには見えない。

 とはいえ、その殺気だけは本物だ。

 どうも俺は相当、彼に恨まれているらしい。


「リネア様、ご無事なようでなによりです」


 俺を見ていた男は、リネアの前に進み出ると一礼してそう言った。

 その男を見た瞬間、リネアが露骨に顔をしかめる。


「バジル……」

「心配しました」

「……やめてくれるかしら? 私はあなたの主君でもなければ、姫でもないわ。一度、パーティーを組んだだけ。付きまとわないで」

「私はあなたを心配しているだけです。危険な迷宮への挑戦、私ならあなたの力になれます。こんな呪印憑きのG級冒険者を連れていくくらいなら、A級冒険者の私を連れていってください!」


 そう言ってバジルと呼ばれた男は俺を指さし、ひどく殺気の籠った目で俺を睨んだ。

 よほど殺したいと思っているらしい。

 なかなかギラついた殺気だ。

 普通、ここまでの殺気は出せない。執念を感じる。

 しかし。


「リネア、つまりこの人はあなたの追っかけですか?」

「そうね。私の騎士になりたいみたい」

「そんな騎士様になりたいなら国に仕えりゃいいだろうに」

「人には人の事情があるんだよ」


 リネアがため息を吐き、ミシェルが冷たい視線をバジルに向ける。

 ジャンはバジルを睨み、ガロンがそれを諫めた。

 だが、バジルはそれが聞こえていないようだ。

 ずっと俺を睨んでいるし、殺気は膨れあがる一方だ。

 全部俺のせいといわんばかりの殺気だな。


「リネア様! なぜこんな奴を!?」

「バジル、テオは私の大事な幼馴染で、パーティーメンバーよ。侮辱は許さないわ」

「都市全体がその話で持ち切りです! あなたたちは幼馴染だから目が曇っています! 足手まといを迷宮に連れて行けば……死が待っていますよ!」

「忠告ありがとう。けど、それを判断するのは私たちよ。あなたでも、都市の人でもない。話が終わりなら帰るわね?」


 そう言ってリネアはバジルの横を通り抜けようとする。

 そんなリネアの腕をバジルが掴んだ。


「リネア様!」

「放して! 一度、パーティーを組んだ縁で許してあげるから、どこかに行って。私は幼馴染を馬鹿にされるのが一番嫌いなの」


 バジルの手を振りほどき、リネアは怒ったまま歩いていく。

 その後をガロンたちも続く。

 最後に俺がバジルの横を通る。

 その時、バジルがボソッとつぶやいた。


「……うだ……」

「うん?」

「決闘だ! 呪印憑き! お前に勝って、私がリネア様のパーティーメンバーにふさわしいことを証明してみせる!!」


 バジルは血走った目で俺を睨む。

 殺気がさっきより少しだけ収まった。

 それは殺意が減じたわけじゃない。

 さきほどまでは殺したいと願っていた。

 けれど、今は冷静に、俺をどう殺そうか考えているのだ。

 さて、どうしたものか。

 決闘を受けたとしても、勝敗に関わらずバジルは納得しないだろう。

 かといって、決闘を受けなければ、この殺意の行き場がなくなる。

 放置すれば面倒なことに。

 なんて考えていると、バジルが一歩踏み込んできた。

 剣を抜く気だ。

 しょうがないとばかりに杖を構えたが、その前に戻ってきたリネアがバジルの間合いに入ってきた。

 バジルが剣を抜く前に、リネアは剣を抜き放ち、バジルの喉に刃を近づけた。


「私の幼馴染に……近づかないで」

「わ、私は……」

「あなたの意見になんて……興味ないわ」


 そう言ってリネアは剣を収めると、俺の手を掴んで引く。


「いいのか?」

「いいのよ」


 リネアの言葉を聞き、俺は心の中でため息を吐く。

 チラリと後ろを振り返ると、バジルが憎悪の目線を俺と……リネアに向けていた。

 ああいうプライドの塊みたいなタイプは面倒だ。

 対処しなきゃ暴発しかねない、そんな危うさが彼にはある。

 とはいえ、始末したらリネアが疑われかねない。

 とりあえず、A級冒険者程度にできることはたかが知れているか。

 あとで、側近の誰かに動向を探らせるとしようと思い、俺はバジルから視線を外したのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何というか、バジルが可哀想。 主人公が、G級なんて極端な等級の偽り方をしないで幼馴染達と釣り合いの取れた等級で正体を偽れば、無用の嫉妬を受けずに済んだし、彼も諦めが着いたでしょう。 自分は気…
[一言] 疑われかねないからといって始末しないのは余計に面倒な事になりそうですが… 中途半端に済ませるのは一番ダメでしょうね。
[良い点] 何か面倒くさそうなキャラが出てきましたね。最後にはリネアにも逆恨みしていましたし。 明らかに自分より弱そうなテオにしか向かっていっていませんし。今回は実力主義の冒険者、ということでその考…
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