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プロローグ

はじめましての人は、はじめまして。

お久しぶりの人は、お久しぶりです。


タンバです。


今回はカジュアルな暗躍モノをテーマに、新作を書き始めました。

しばらくの間、お付き合いいただけると幸いです。





「はぁはぁはぁ……!!」


 息が切れる。

 長い距離を走ってきたせいか、横腹が痛い。

 足も痛い、体中が痛い。

 それでも走る。

 走らなきゃ死ぬからだ。


「はぁはぁはぁ……もう、走れない……テオ……」

「頑張れ! もう少しだ!!」


 手を繋いでいる少女を励ます。

 それは自分に言い聞かせていた言葉でもある。

 空から現れた災厄により、街は無残に破壊された。

 防衛など不可能。

 とにかく逃げるしかなかった。


「テオ! リネア!」


 もう走れないと言う少女を引きずるように走っていると、小屋の傍にいる女性がいた。

 金髪の美しい女性。

 俺の恩人。


「アリアーヌ様!! 街が!」

「大丈夫よ! さぁ、入って!」

「お母さまぁ!!」

「よく走ったわね、偉いわ。リネア」


 アリアーヌ様は娘のリネアを抱きしめる。

 そして小屋を開いた。

 中には三人の子供たちがいた。

 俺の幼馴染たち。

 何か起こった時。

 ここに来いとアリアーヌ様に教えられていた。


「さぁ、テオ、入って」


 リネアを中に入れて、アリアーヌ様は俺も中に入れようとする。

 だけど、俺は足を止めた。


「先にアリアーヌ様が……」

「私はあとでいいわ」

「そういうわけには……」


 なんだか変だ。

 いくら俺が子供だからって、アリアーヌ様が先に入らないのはおかしい。

 ここは身分の高いアリアーヌ様専用に用意された特殊な避難場所。

 俺が頑なにアリアーヌ様を先に入れようとしていると、アリアーヌ様はそっと俺を抱きしめた。


「ありがとう。テオは本当にいい子ね」

「アリアーヌ様……?」

「みんなを頼んだわよ……」


 そういうとアリアーヌ様は俺を抱き上げ、そのまま小屋に放り投げた。

 まさかと思って、扉の方を見ると、アリアーヌ様は自分は入らずに扉を閉めてしまった。


「アリアーヌ様!!??」

「この小屋の防御魔法は外から発動させなきゃいけないの。その分、性能は折り紙付きだから安心してちょうだい」

「駄目です! アリアーヌ様も中に!」

「誰かを待ってる時間はないわ。あなたたちを守れるのは私だけ……リネア、友達を大切になさい。きっとあなたの人生を豊かにしてくれるわ」

「お母さま!! お母さま!!」


 リネアが扉に近づき、何度も叩く。

 それでもアリアーヌ様は扉を開けない。


「……どうか無事でいてね」


 その言葉の後、小屋が激しく揺れた。

 その揺れはしばらく続く。

 小屋の中で、何もできず俺たちは肩を寄せ合って泣くことしかできなかった。

 そして振動が収まったあと、小屋の扉がゆっくりと開いた。

 恐怖と期待が入り混じった気持ちの中で、ゆっくりと外を覗く。

 そこにはアリアーヌ様はいなかった。

 それどころか見慣れた街の姿もなかった。

 街はほぼ壊滅。

 周りにあるのは瓦礫の山。

 すべてが変わり果てた街の空。

 百メートルを超す黒い巨龍が悠然と君臨していた。

 すべてこいつのせい。

 怒りに任せて、俺は近くにあった小石を握って、投げつける。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 けれど、子供の力では黒龍には届かない。

 力なく失速して落ちていく小石を見ていると、黒龍の赤い目が俺たちのほうへ向いた。

 原始的な恐怖が体を支配する。

 殺される。

 そう思っても……。

 吠えることを止められなかった。


「必ず……お前を討つ……いつか必ずお前を討ってやる……!!」


 今すぐ殺されるかもしれないのに、呆れた言葉。

 けれど。


「私も……討つ!!」


 背後からリネアも吠えた。

 その後に幼馴染たちも続く。

 声の限り、俺たちは吠えた。

 それを聞いたからか、それとももう興味がないからか。

 黒龍はゆっくりと雲の向こうへと飛び去って行った。

 残されたのは廃墟と化した故郷と。

 すべてを奪われた子供たち。

 そして。

 あの黒龍を必ず討つという強い意志だけだった。




■■■





 青く澄み渡った空、緑豊かな木々、動物たちの鳴き声。

 そして――巨大モンスターが闊歩する音。

 自然豊かではあるが、楽しむ気になれないのは、ここが人類にとって過酷な土地だとわかっているからだろう。

 歪な台形のような〝アティスラント大陸〟。

 ここは人類が住むには適さない大陸だ。

 元々、この大陸に人類はいなかった。俺たちの先祖は長い漂流の末にこの大陸にたどり着いたのだ。

 しかし、この大陸の支配者は〝モンスター〟たちだった。

 人類では太刀打ちできないモンスター。

 それでも人類は知恵を振り絞り、長い年月をかけて戦う術を手に入れた。

 そして大陸の西側を人類の生存圏とすることに成功した。

 だが、〝西側〟だけだ。

 今、俺がいる大陸の東側には多くの資源や自然に恵まれている。

 当然、その環境を求めて強力なモンスターは東に集まる。

 本命は東側。

 人類が長い年月を費やして打ち倒した多くのモンスターは、東側のモンスターたちからすれば〝雑魚〟なのだ。

 だから人類は西と東を隔てる大山脈〝レムリア〟を越えることはおろか、近づくこともしない。

 のだが。


「へぇ、アダマント・バードか。珍しいな」


 空を見上げながら俺は呟く。

 空には大きな翼を広げる巨鳥がいた。

 その全身は、ダイヤモンドを上回る希少金属〝アダマント〟で覆われている。

 西側にも存在するモンスター、ロック・バードの最上位種だ。

 冒険者ギルドが設定する危険度はカテゴリー11。

 これはアダマント・バードの実力を正確に測ったわけじゃない。

 東側に存在するモンスターは基本的に危険度カテゴリー10以上と判別される。

 西側の常識では測れないからだ。

 とはいえ。実際、アダマント・バードは西側の人類にとっては脅威だ。

 体長は三十メートルを超えるし、その体を覆うアダマントは魔力を帯びているため、通常のアダマント以上に硬い。

 西側の人類では傷をつけることはできないだろう。

 実際、空を飛ぶアダマント・バードは周りを警戒した様子もない。きっと、この付近じゃあのアダマント・バードを襲うようなモンスターもいないんだろう。

 そんなアダマント・バードに対して、俺は右手を向ける。

 そして。


『影滅魔法――レベル11――シャドウ・ミーティア』


 空が黒く染まり、真っ黒な流星が降ってくる。

 それは猛烈な速さでアダマント・バードに迫ると、逃亡の隙も与えず、一瞬でその体を貫いた。

 絶対の自信を持っていた自分の防御。

 それを突破されたアダマント・バードは短い断末魔を上げて、地面へと落ちてきた。

 その死骸を俺は影に仕舞う。

 東側のモンスターは西側では貴重だ。山脈を越えてくることが滅多にないからだ。ましてやアダマント・バードは貴重な鉱石の塊のようなもの。

 売れば一生遊べる金が手に入るだろう。


「これでよし。とりあえずこんなもんか」


 呟いて俺は歩き出す。

 人類にとって東側は未知の秘境であり、ある種の地獄だ。

 高ランクの冒険者たちが大規模なパーティーを組んで、ようやく探索できる地域。

 しかし、それは俺には当てはまらない。

 東側は俺にとって〝猟場〟だ。ほとんどの者が東側に入ってこないし、東側のモンスターを討伐できないから、金には困らないで済んでいる。

 俺の名はテオドール。

 人類で唯一、単独で東側に入れる男。

 そんな俺の本名は知られていない。

 広く知られた名は〝淵王えんおう〟。

 この大陸に点在する不可思議で攻略困難な迷宮〝淵界迷宮ダンジョン〟をソロで四つクリアし、四つの固有魔法を手に入れた男。

 そんな俺には夢がある。

 東の最果て。

 空を支配する〝竜〟よりさらに上。人知の外に君臨する最強の〝龍〟を討伐するという見果てぬ夢が。

 しかし、今の俺でも一人じゃ討伐することはできない。

 それくらい〝奴〟は強い。

 だからこそ。

 一人でも強力な仲間が必要なのだ。


「さて……そろそろ約束の日か」


 アテはある。

 人類が到底かなうはずがない最強の龍に挑もうとするのは馬鹿だ。

 それでもその龍を討伐することを誓った者たちがいる。

 十年前。

 俺は幼馴染とそう誓った。

 子供の馬鹿げた誓い。

 けど、今でも俺は信じている。

 最強の龍。

 名は龍皇ヴェルシオン。

 奴を討伐するのは俺と……俺の幼馴染たちだ、と。



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