表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/72

◆少年の独白2◆


 姉がヒーローをやめたのは中学三年生。まだおれがいじめなんてものを知らなかった時。

 いつも会うたびにしつこく言っていた「あたしはヒーロー」という言葉。

 中学三年生の始業式から家に帰ってきた時、その言葉は別のものへと変容した。


「ヒーローなんていない」


 その時は「やっと自覚したのか」と納得したのと、「嘘つき」と裏切られた気持ちになったのを覚えている。

 かつて掲げていた希望も理想も、おれたちにみせていた夢も結局はその程度だったんだ。と、感じたのだ。


 姉は中学に入って、笑われ、現実を見て、自分が恥ずかしくなったんだ。


 弱虫め。嘘つきめ。


 その後から姉はただの人に成り下がった。へらへらと日々を過ごすようになった。むしろ前より無気力になった。

 無意味に学校に行かなくなってサボったり、勉強をやらなくなったり。

 生きた屍だ。

 へらへら、へらへら。意志のない笑顔をつくるだけで、見上げることもしなくなった。


 ああ、でも、問題はその後だ。

 姉は迷惑極まりない遺物をおれに残したのだ。


「ヒーローを目指していた頭のおかしい奴の弟」


 どうやら中学でもヒーロー活動をしていた姉は悪目立ちし過ぎたらしい。

 その称号が、中学に入学した時からおれを苦しめた。

 見事に弱虫なおれはいじめのターゲットにされたのだ。

 おれ自身は何もしていないのに。

 姉がヒーローなんてものに目指さなければこんなことにはならなかった。


 おれは姉が憎い。

 今の苦しみは姉がつくったものだから。


「……行ってきます」


 また今日が始まる。

 震える気持ちを抑えて、吐き出しそうになる思いを抑えて玄関のドアノブを回す。


「行ってらっしゃーい」


 聞こえてくるは憎い姉の声。ヒーローではなく、普通の女子高生になり下がって呑気に暮らしている嫌な奴。

 消えてしまえばいいのにと心の中で呟いて、おれは外に出た。

 早く一日が終わってしまえ。


 今日も鎖に繋がれて、鳥は空を飛べない。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ