◇彼らは、彼女たちは、沢山の想いがこもった言の花々を咲かせた◇
詩音は絵本を読み終える。
先ほど十分と言えるくらい泣いたはずなのに、視界が涙で滲んでいた。
初めてあの絵本を読んでもらった時の同じワクワクやドキドキが蘇って嬉しいに決まっている。だけど、涙が止まらなかった。
真っ先にこの気持ちを伝えたい人はもういないのだから。
顔を上げると紫苑の花々が目に映る。母が遺した思い出のひと欠片。
思わず詩音は笑った。思い出が詩音の涙を拭ってくれた。
そして、温かな手が詩音の手を握った。今も一緒に時を刻む人。
まだ悲しい気持ちは消えないけれど、もう、大丈夫だった。
夜空のカーテンが少しずつ閉じてゆき、太陽が姿を現す。
詩音は母に、忘れようとした過去に、過去もそしてこれからの未来も一緒に過ごす大切な人たちに向けて呟く。
「ただいま」
想いが込められた言花の花束を抱え、自身の言花を、過去の花を咲かせて、詩音は微笑んだ。
日が昇る。秋の風が暑さをさらっていく。
……もうすぐ思い出を詰め込んだ夏が終わる。
言花の猫と再会した少年少女たちは、自分たちの力で言の花を咲かせることができる。
もう、自分たちの力で想いを伝えることができる。
だから、今日もまた彼らは、彼女たちは、沢山の想いがこもった言の花々を咲かせた。




