◆少女の特別5◆
お父さんと離婚してからお母さんは前よりも一番をわたしに求めるようになった。
『一華、もう私にはあなたしかいないの。誰も支えてくれる人なんていないの。もう、わたしを裏切らないわよね? 私はあなたの幸せを思っているの。だから、一番になりなさい』
わたしの両肩を掴み、縋るようにわたしを見つめる母。母の手はあまりにも力がこもっていて、指がわたしの肩に食い込んで痛い。でも、この痛みはわたしがつくってしまったようなものだ。虚ろなお母さんの瞳にはきっとわたしは映っていない。
もしわたしが一番を取れるようになったら、お母さんはわたしをちゃんと見てくれるかもしれない。お父さんが戻ってきてくれるかもしれない。
そんな淡い期待もどこかで抱いていた。現実を受け止めたくなくて、夢を見てしまっていた。
一華という名前が、一番という呪いが、わたしを蝕む。
もう、詩音はわたしの隣にいない。
もう、病院に行くのも許されない。
心や休める居場所なんてなくて、頑張ることしかできなかった。
でも、もっともっと頑張らないといけないみたい。
一番に固執すればするほど息が苦しくなって緊張して遠ざかっていく。
下がる順位、取れなくなる賞状。
『もっと頑張りなさい、一華。頑張った分だけ数字が教えてくれるから』
頑張ってないからこんな数字になってしまうんだ。こんな結果になってしまうんだ。
ああ、頑張らなくちゃ。頑張らなくちゃ。頑張らなくちゃ。
……たまに、ふと考えてしまう。もし、詩音がわたしの隣にいてくれたら、どんな温かい言葉を伝えてくれるんだろうって。
胸元を強く握りしめる。
高校三年生になった今でも、わたしは彼女の影を追っている。




