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病院の隣にある、花に囲まれた東屋のある公園。
平日は病院通いの老人たちが心を安め、家族の付き添いで来た子供たちが遊ぶ場。休日は病院のお見舞いや、憩いの場として老若男女問わず人々が訪れる。
空は隣の病院が営業する時間少し前に東屋を訪れた。まるでこれから家族のお見舞いに行くかのように、待ち合わせするかのように。
夏の太陽を想起させるパステルカラーの黄色のワンピースを身に纏い、空は彩夢を待っていた。
お互い顔も知らない。知っているのは名前と、東屋の椅子の裏に手紙が貼ってあることと、手紙のお返しは一輪の花ということだけ。
だから空は一輪の花を片手に、東屋に近づいて来る女性を待っていた。空が手紙の受け取り手であると気づいてもらうため。
心臓はセミの鳴き声を上書きしてしまうほど五月蠅く、汗が額から零れ落ちた。ああ、これじゃあせっかくの化粧も台無しだ……と、心の隅で思いながらこれから来るかもしれない人物との対面に手が少し震えていた。
ギュッと、思わず横に置いていたトートバッグを抱きしめる。
頭がぼんやりとするのも、汗が止まらないのも夏の暑さだけじゃない。
しかし、まだ何時に来るのかも、そもそも来るのかさえも分からないのに最初の段階でこんなに緊張していたら身が持たないのでは? と、空は苦笑いを浮かべる。
緊張で無性に詩音や翼に会いたくなる。二人はこの公園のどこかの雑木林の裏でこっそりと空を見守ってくれているらしい。
緊張を紛らわせるためにために二人がどこに隠れているのか予想してみようか? などと、意識を別へと向ける。
だからなのだろう。
「あの、すみません。ちょっとその椅子の裏を確認したいんで、失礼してもいいですか?」
空に声をかけてきた人物の言葉を飲み込めず、すぐに反応できなかったのは仕方のないことだったのかもしない。
「えっ、あっ、はい。ごめんなさい。今どきます…………え?」
慌てて空は立ち上がり、声をかけた人物が椅子の裏を確認できるように距離を取る。
しかし、今、何と言った? 椅子の裏?
何も考えず後ろからの声に従ったが、そんな要望をしてくる人はそうそういない。心当たりがあるのはたった一人。
空は振り返る。かつて自分に頑張る勇気をくれた手紙の相手がいるかもしれないから。
その人は見覚えのある便せんを持っていた。ピンクと黄色の可愛らしい花柄の便せん。それは手紙の相手だと証明する数少ない証。
憧れていた人。
会いたかった人。
放って置けなかった人。
「あなたが彩夢さん……?」
だけど、声が震えてしまうのは、戸惑ってしまうのは、目の前にいる彼女は……いや、彼は、空が思い描いていた人物とは大きく異なっていたからだ。
寂しがりやな繊細で儚い女子大生……ではない。
「はい。俺が彩夢です。って、キミなんで俺の名前知ってんの?」
ワックスで盛られたであろう茶色い髪。たれ目に軽い口調。
チャラいという言葉が似合いそうな男性。そう、彩夢は男性だった。




