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◇2◇


 一ノ瀬空(いちのせそら)一ノ瀬翼(いちのせつばさ)の祖母は変人と呼ばれている。


 その原因は彼女の発言と行動にある。


「あたしゃ、悪い奴を倒すのが使命なんだよ」


 そう言って、地元で有名な教育ママの家庭に殴り込みに行ったことがあったらしい。


「あたしゃ、無敵さ。誰にだって負けやしない」


 そう言って、スコップ片手に山に行き、熊と戦ったことがあったらしい。


 どれも近所で流れる噂らしいが、実際に空と翼は例の教育ママが苦情を言いに我が家に来たことがあったらしいし、泥だらけになって祖母が山から帰ってきたこともあった。

 だから、空と翼の両親は祖母の奇行に手を焼いていたし、ウンザリしていた。

 翼自身、両親に迷惑をかける祖母を快くは思ってなかった。


 しかし、空は違った。


 祖母が話す偽りだらけのお話も、予想のできない行動も、いつもキラキラと瞳を輝かせていた。

 家族の誰も近づきたいとは思わない祖母の部屋もよく訪れていた。

 空がヒーローになりたいと騒ぐようになったのは十中八九祖母が原因だろう。


 そんな破天荒という言葉を擬人化したような祖母でも老いには勝てなかったらしい。

 空が中学校一年生、翼が小学校四年生の時には身体に不具合が生じたり、病気にかかったりと入退院を繰り返すようになっていた。態度は相変わらずのホラ吹き婆さんの名が恥じぬ変わり者っぷりだが、時折痛そうに歪める顔やさらに痩せ細っていく身体を見てもう長くはないなと空も翼も感じ取っていた。


 そして、空が高校生、翼が中学生になった夏に静かに息を引き取った。


 突然の不慮の事故で亡くなったわけでもない。前々から予兆はあった。もちろん悲しくはあった。葬式の時は空は大泣きしたし、翼だって泣いた。

 だが、祖母の死を引きずることなく当たり前のように受け入れている自分たちがいることも確かだった。

 むしろ、よくあの歳まで元気に過ごしたなとか、すごい人だったなとかといった、清々しい気持ちにすらなった。人が亡くなったというのに不謹慎な考えだと非難されそうだが、棺に眠る祖母があまりにも気持ちよさそうに寝ていたからというのもある。生きている時は強烈なまでに良くも悪くも存在感があり、死ぬ時は後腐れなく潔くこの世を去った。


 それが、空と翼の祖母だった。


 翼にとっての祖母はそれで全てだった。しかし、空はそれだけではなかったのだろう。

 祖母の影響を色濃く受けていた空。彼女は祖母からあるものを託されていた。



 それが、顔も知らない誰かからの手紙だった。




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