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自分の価値観だけが全てじゃない

 赤髑髏盗賊団壊滅から2日が経ち、シン達はアカードの屋敷へ訪れていた。応接室でアカードを待っている時間ですら少し気が重い。それもそうだ。赤髑髏盗賊団は壊滅させたが、その団長と幹部を1人取り逃してしまったからだ。

「ああもう。僕のせいだ…。僕が毒に気がついていれば……」

「そんなことは無いよシン君。むしろ君達がいてくれたおかげで壊滅までできたんだから君達が責任を感じる必要は無い」

 いつの間にかアカードがドアの側に立っていた。アカードはソファに腰を下ろし話を続ける。

「そんなことよりも君達を呼んだのは契約の事だったね。もちろん守るよ」

 契約とは1ヶ月前に遡る。シンがアカードの計画を知った日の出来事だ。


「大丈夫ですよ。僕も手伝います」

「いや、しかし……」

「それなら僕はアカードさんの計画を手伝う。成功したらその代わりアカードさんは僕の計画を手伝ってもらう。これなら対等です。どうですか?」

 アカードは俯きしばらくして了承する。


 時は戻り現在。

「契約は赤髑髏盗賊団壊滅が条件条件だからね。2人逃げられたが壊滅には変わりない」

「ありがとうございます」

 シンはアカードに計画と作戦を伝える。時にアカードの助言を借り、完璧なものに仕上げる。作戦会議は半日にも及び空は日が傾き始める。

「私ができることは善処しよう。ところでシン君はこれからどうするのだい?」

「これから東北に進み央都を目指します。あそこは人が集まりますのでもっと情報や協力者を探します」

「なるほど、それはいい考えだね。馬車を出そうか?」

「いえ、大丈夫です。道中すぐに馬車で通れない道になりますので歩いてでも問題ないです」

「そうか。それならいいが。何はともあれ気をつけてくれよ」

 今夜はもう遅いからアカードの屋敷に泊まり翌日早朝に出発した。


 央都はその名の通り大陸の中央に位置する都だ。その地理上大陸の至る所から人や物が集まり王都に流れる。別名、交易の都。しかし、央都があるのは盆地だつまりここから山道を通り山岳地帯を抜けなければいけない。道中1つ街がある。そこで登山装備を買わなくてはいけない。まずは道中の街目指し歩いていく。村々を経由しながら2週間がすぎた頃、予想外の大雨がシンたちに降り注ぐ。村が近くにあるため、崖道を急いで駆け抜けていく。しかし、いつだって問題は不意に訪れる。崖のギリギリを走っていたカイルの足元が崩れたのだ。おそらく雨で緩んでいたのだろう。カイルはそのまま体勢を崩して転落してしまう。

(ミツッ!!!!)

 咄嗟にミツに切り替え崖から飛び込みカイルを抱え込む。地面までは数十mほどの高さだ。幸い、落ちる先には木が生えている。ミツは崖肌を蹴って落下位置を調節し、着地する。枝がクッションになっているとはいえ数十mの衝撃はなかなかに痛い。体のあちこちに傷もできている。

「あっぶねえ…。大丈夫カイル?怪我はない?」

「シン兄ごめんなさい俺のせいで……」

「いや無事なら良かった。僕も崖は危険だよと注意をしなかったのもあるし、大丈夫だよ」

 にしても数十mの高さのこの崖はまだこの先も続いている。これはルートを変更するしかなさそうだ。

 崖沿いに進んでいると横穴を見つけた。中を覗くと、かなり奥に続いているようで洞窟に繋がっているのかもしれない。シン達は横穴の中で雨宿りをすることにした。しばらく雨が止むのを待っているがなかなか止む気配が無い。

「なかなか止まないな……」

「そうですね……」

 2人の間に重めの空気が流れる。この原因を作ったカイルも気まずいのだろう。

「それにしてもこの横穴…なんかすごい引き込まれるっていうか呼ばれてるっていうか…そんな気配しませんか?」

「カイルもそう思う?実は僕もそんな気配してたんだ……雨止みそうにないし、探検でもする?」

 急遽、勇者探検隊が結成した。穴の奥へ進んでいくと案の定洞窟になっていた。しばらくして広い空間に出た。多方向に穴が伸びているが引き込まれる方向は決まっている。さらに歩いていくとまた広い空間に出る。どうやら行き止まりになっているようだ。この空間を探索していると、端っこの方に祠のようなものを見つけた。祠の中を覗くと中には水晶のような透明な石が入っていた。しかし琥珀に閉じ込められた蚊のように中に何かが入っている。シンとカイルは顔を合わせ頷く。シンが恐る恐るその水晶に手を伸ばす。が、何も起こらない。祠の中から取り出し観察する。

「何なんですかねこれ…?」

「さあ…?何を祀っているんだ?」

(……)

「ん?カイルなんか言った?」

「何も言ってないよ?」

(封………解……)

(ミツが何か喋ってる?)

(いや?私でもないよ?)

 この声の主はどこにいるのか辺りを見渡すが誰もいない。

(封印を解け!)

 そうハッキリと聞こえると、どこかの空間に飛ばされた。周辺を見るがカイルの姿は見つからない。

「小僧、何しにここへ来た。我が封印された古竜だと知ってか?」

 目の前には体長10mにも及びそうな大きさの竜が威厳を放って立っていた。

「いや、たまたまここに辿り着いただけだ。それより僕の仲間はどこへやった?」

「たまたま?……フハハハハハ!!面白い小僧が来たな!!この我を知らずしてここに来るなどとんだ恐れ知らずだ!安心しろ。ここはお前の精神世界…心の中というやつだ。お前の仲間は現実世界の小僧のそばにおる」

「なるほどそれならいい。ところでお前は誰だ?どうやってここから出る?教えてくれ」

「そう焦るな小僧、順に説明してやる。我はウィオレンティア、人間からは古竜と一括りに呼ばれておるがな。ここから出る方法はな……無い!!」

 サラッと重要な事実をぶっ込んできたこの古竜さんもとい、ウィオレンティアさんはゲラゲラ笑っている。

「ここは精神世界だ。故にここから出ることは精神の死を意味する。もちろん死にたいのなら好きに出ていくがいい。我の体はとうの昔に朽ちている。だが我は死にたくは無いのでなここにいる」

 なんと自分勝手な古竜……恐ろしい子!

「ところで小僧。後ろにいる()()は何だ?」

 シンの後ろからミツがピョコっと出てくる。シンは面倒くさそうにため息を吐き。自分の状況を説明する。説明し終わるとウィオレンティアは高らかに笑いしばらくして笑い終えると

「面白い!面白いぞ小僧!!我は小僧が気に入った!その結末を見るためならお前に協力してやる。我の力を存分に振るうがいいぞ!!」

(めっちゃ上から目線だな……)

(めっちゃ上から目線だね……)

 ウィオレンティアはまた高らかに笑っている。確かに竜族を味方に付けられるのはかなり大きい。だからこの取引は悪くない。しかし釈然としないシンとミツはお互いの顔を見合わせる。

 そろそろ現実世界へ戻らないとカイルを心配させたままだ。シンは意識を体に戻していく。


 カイルが呼ぶ声で意識がハッキリする。シンが目を覚ました事にカイルは安心したようだ。

「シン兄、どうしたの?石を見つめたままずっと固まったようでしたよ?」

「どのくらい呆けてた?」

「ほんの2、30秒の間でしたけど…大丈夫なんですか?」

「うん、大丈夫問題ないよ。心配かけてすまなかったね」

(精神世界では10分近くの感覚だったんだけどな……。体感と実際ではかなりズレてくるのか?)

(精神世界は深層意識のさらに向こうだからね。かなりズレてくると思うよ。その当の本人ウィオレンティアは寝てるみたいだし……。でも、これから楽しくなりそうだねっ!)

 目標のひとつに竜の巣に行くことが増えた。竜の巣への生き方はウィオレンティアが知っているだろう。とりあえずこの洞窟から出て村にたどり着かなくては。ウィオレンティア曰く、シン達が通ってきたのは裏道らしく、正規ルートから帰れば村のすぐ近くに出られるそうだ。洞窟内を進みながら正規ルートの道を見つけ、その道を歩いていく。前方の方に微かな光が見えた。

「あ!出口だ!やったねシン兄!」

 洞窟から出るとすっかり雨は上がっていた。ずっと暗い洞窟にいたため、昼下がりの陽光が気持ちいい。周辺を探索してみるとすぐに村が見つかった。村人にあいさつをして宿屋を探す。広場の真ん中に銅像が建てられていた。近くで見てみると村の英雄と書かれていた。

「英雄ってことはこれは60年前の勇者サマなのかな?」

「にしては銅像が比較的新しい気がするが……」

 英雄像を眺めていると後ろからおじいさんに声をかけられた。

「これはこれは旅の者ですかな?こんな小さなな村にお越しいただいたのにこの村には何も無くてね…あるのはこの英雄像と英雄の話ぐらいしかなくてですな」

「そのお話をもう少し聞いてもいいですか?」

「もちろんですとも」

 おじいさんの家で英雄の話を聞くことにした。

「この英雄はな今から約30年ほど前に現れた青年で……」


 現在より60年ほど前、勇者一行が魔王を倒し大陸に平和をもたらした。大陸を支配したことにより新たな街や村が急激にできていった。この村もその時にできたものだったがそれから30年後、突如この地に竜がやってきて暴れ始めたのだ。そこにたまたま居合わせた青年が竜と死闘を繰り広げそして勝った。その後竜は封印され洞窟の奥深くの祠に祀られた。これが英雄とその功績だ。そして最後におじいさんはこう言い放った。

「その英雄は今はこう呼ばれている。()()()()()()()()()とな……」

 話の最中で竜が出てきた辺りからおかしいなとは思っていたが、唐突に出てきた名前に驚きが隠せなかった。

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