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責任の無い仕事は無い

 この街に滞在して2ヶ月ほどが過ぎた頃、貯金は金貨20枚を超えていた。そろそろ、次の街へ移動してもいい頃だろうと考えながら依頼掲示板を眺める。ふと、目に止まる依頼を見つけた。次の目的地の街までの護衛任務だ。その依頼書に手を伸ばすともう一本の腕が伸びてきた。隣を見ると冒険者のグループが同じ依頼を受けようとしてたところだった。

「何だい君は?この依頼は僕が引き受けるため他を当たってくれないか?」

「いやいや、僕もこの依頼に用があります。あなたこそ他を当たってみたらどうですか?」

 両者の間で火花が散るような雰囲気にになっているがそれを破ったのは後ろにいた彼の連れだった。

「あ、でもこの依頼の募集人員5人ですよ!ちょうど私たちで5人じゃないですか!」

 そんなわけで、共同で依頼を受けることとなった。依頼内容はとある豪商の荷馬車の護衛だ。豪商が依頼主なだけあってかなりの報酬額な上に人数分の報酬が支払われるようだ。報酬額は金貨20枚。5人分で金貨100枚だ。しかもランクを問わないとのことだから超が付くほどの好条件だ。

「……まあいいだろう。Aランクのこの僕がいるんだ。君たちは楽にしたまえよ。ん?よく見れば君は噂の魔人族の少年じゃないか!こんな平凡な連れなんかじゃなくて僕のところにおいでよ。その方が君の力をきっと役に立てる」

 勧誘をしてきた。しかも露骨な挑発のおまけ付きだ。シンが断ろうとしたが、

「シン兄を平凡だと侮っていたらいつか後悔するぞ!俺はお前の仲間にはならないからね!」

 カイルはべっと舌を出す。彼は悔しそうに顔を歪めるがすぐに引き締め、その場から立ち去る。

「カイルよく言った!おかげでスカッとしたよ。ありがとう」

「本当のことを言っただけですよ!シン兄は本当にすごい人何ですからもっと堂々としてもいいんですよ」

 シンの実力ならおそらくSランクに到達できるだろう。それなら彼も敵ではない。しかし、シンは謙遜をする。

「僕のいた国では、驕る者久しからずという諺がある。要するに傲慢な者は長続きしないというものだ。あいつもいつか痛い目を見るだろうね」

 次の日、依頼書に指定されている場所に行く。既に依頼主が荷馬車を止めて待機している。シンは依頼主に挨拶をし、今回の依頼の詳細について確認する。この荷馬車は傍から見ればただの行商で特に襲う必要も無いが、商品の中に一つだけ価値の高い宝石が紛れ込んでいる。今回通るルートでは、最近追い剥ぎなどの報告が相次いでいる。シン達は万が一のために、この宝石を護送すればいいとの事であった。シン達は用心棒ではあるが荷馬車に用心棒が乗っていれば追い剥ぎにバラしてるようなものだから変装用の行商人の服を渡される。荷馬車の後ろで着替え終わる頃に彼らも現れた。集合時間ギリギリだった。依頼主がもう一度説明を服を渡す。着替え終わって出発する。


 目的地の次の街までは1ヶ月の道のりだ。その間の食事は依頼主が出してくれる。シン達は交代制でこの荷馬車の見張りをするのがこの依頼の主な仕事で、非常時には荷物を護り追い返す。追い剥ぎの報告場所が多いエリアが複数存在していて、どこも周りの見晴らしが悪い場所だ。中でも、目的地直前の森では特に多い。ここを越えれば依頼は達成したも当然だろう。条件も報酬も悪くない。だが、シンは一つだけ納得のいかない事がある。なぜ彼は見張りを怠けているのか。連れの女の子と雑談に耽っている。休憩中ではなく勤務中にだ。シンと交代の時間がやってくる。

「おい、交代の時間だ。雑談をするなら休憩中にやれ」

「どうせ追い剥ぎなんて現れないだけだろうし、別に現れたところで僕なら余裕だよ。それなら雑談をしていてなんの問題があるんだい?」

 両者は睨み合い交代する。ため息を吐き見張りをする。しばらくしてペアの女の子が口を開く。

「あの……うちのヴェルランがすみません。でも、実力は確かなので、襲われても問題は無いと思います!……あ!私はカミラって言います。もう1人の子はジュリアって言います。1ヶ月ですがよろしくお願いします!」

 このカミラって子は彼ことヴェルランとは対称的に礼儀正しい。それを知りシンの苛立ちは収まる。

「対価を貰っているのだから責任ある行動をするのは当たり前だろう。……ってこんなことを君に言ってもしょうがないですね。すみません。僕はシンです。連れはカイル。こちらこそよろしくお願いします」

 荷馬車は順調に進み、いくつかの村を通過し折り返し地点を超えた頃。昼間の見張りはしんとカイルだった。カイルは交代時間となり代わりにヴェルランの連れの一人、ジュリアが見張り位置に座る。正直、ジュリアは内気気質なためシンは苦手だ。ふと気になった。ヴェルランとカミラの関係は幼なじみだ。これは前にカミラから聞いた。しかしヴェルランとジュリアは幼なじみなどではない。最近になって一緒に活動し始めたとカミラは言っていた。

「ジュリアさん。ひとつ聞いてもいいですか?」

「は、はい…なんでしょうか……」

「どうしてヴェルランと一緒に行動してるんです?初対面でも嫌なヤツだと分かるのに」

 ジュリアは少し困った様子を見せたが、すぐに戻し

「さ、最初はヴェルランさんから声をかけて来ました。『君、カワイイね。良かったら僕と一緒に活動しようよ』って。私は、そ、その1人では役に立たないのでヴェルランさんの力を借りることにしたんです……」

(怠慢な上に女たらしかよアイツ)

(シンが嫌いなものを詰め合わせたような人物像だね…。あと2週間だし我慢しなよ)

 残り2週間の辛抱だと気を保って見張りを続ける。遠方には湖が見え水面がキラキラと光っている。冬空は晴れ渡っていれ日が当たって気持ちがいい。こんな日は昼寝をしたいなどと考えながら交代の時間になり、その日の番は終わる。

 残り1週間を過ぎた頃に事件は起こった。それは一瞬の出来事だった。その時間の見張りはシンとジュリアだ。夜間の休憩中、他の3人と依頼主は寝ている。現在地は目的地付近の森だ。シンは森の異変に気づく。

(なんだろう。何かがいる気がする。森の動物か?4、5匹いるか?)

(にしては、何だか統率の取れた気配がするよね。等間隔に配置されてるみたいな……)

 ここで気づいた。もう既に敵に囲まれていると。そしてこれをスムーズにできるよう手引きした者がいる。その手引きした者は襲撃時に見張り役になっていた方が楽だ。つまり、手引きした者はジュリアだ。ここまで考えたところで本能が避けろと告げた。咄嗟に前方に飛び後ろを振り向くとジュリアがシンにナイフを突き刺そうとしていた。

「な、なんで今の避けれたの…?やっぱり私は役になんて立たないんだ…。で、でもあの人ためには失敗なんて出来ないよね……」

 周辺の茂みからゾロゾロとジュリアの仲間が出てくる。プランAはシンを気絶なりなんなり無抵抗状態にすることだったんだろう。それが出来なかったためプランBに移行したようだ。シンはカイルに呼びかけようとするがジュリアが懐に入ってきて切りつけようとする。すぐに人格を切り替え、こっちも氷のナイフで応戦するがすぐに砕けてしまう。

「カイル!カミラさん!依頼主さん起きて!!あとヴェルランも!敵襲だよ!!」

 一同がミツの叫びで目を覚ます。事態を把握できてないようで困惑している。

「罠だよ!嵌められた!首謀者はジュリアさん!カイルはそっちの方の敵をお願いっ!」

 ミツはジュリアと対峙し、カイルは他の敵を。カミラさんは依頼主を守って、ヴェルランは未だに爆睡中だ。

「ヴェルランはいい加減に起きろっ!」

 カミラがヴェルランを起こし始めたがなかなか起きない。ヴェルランは1度眠ると全く起きないのだ。

「あ、あの…よそ見をしてても大丈夫…ですか…?わ、私が言うのもアレですが…身の心配をした方がい、いいんじゃないんですか…?」

 伏兵のひとりが飛びかかってきたが蹴りつけて反撃する。伏兵は膝を付いて倒れ呻いているところを、顎を蹴り気絶させる。腕に焼印が押されているのに気づき驚く。その焼印は赤髑髏盗賊団のマークをしていたからだ。彼らには後ほど尋問をしなければならない。

「ジュリアさん。あなたも赤髑髏盗賊団のメンバーなの?」

「なんだか人が変わったみたい…。あ、あなたに教えられることは、な、何もないの…。ごめんなさい……」

 赤髑髏盗賊団とは30年ほど前から有名な盗賊団だ。赤髑髏は正式名称ではなく俗称でこの盗賊団が通った後は、血の海と死体の山が出来上がると言われていることから来ている。30年もの間、赤髑髏盗賊団が犯人と思われる事件は5000件を超えている。それなのに、赤髑髏盗賊団の詳細は不明という闇に包まれた組織だ。

(赤髑髏盗賊団の団長は随分と狡猾だな。冒険者の来る者拒まずという特性を利用して内部から犯行に及ぶとは…)

(もしかしたらここ最近増えていた追い剥ぎは赤髑髏盗賊団仕業なのかもしれないね……。とにかく、この状況を切り抜けないとね!)

 ミツは一気に間合いを詰めジュリアの腹に飛び蹴りを当てようとするが、ジュリアは右側に避けナイフを振りかざす。腕を掴んで軌道を変えるが、ジュリアはもう片方の腕にもナイフを忍ばせていて、掴んでいた腕を離し後方へ退く。カイルの方を確認すると、さすがに対多数戦闘は難しいようで苦戦している。ヴェルランは相変わらず起きない。冬は空気が乾燥しているためミツが得意とする氷の生成が出来ないため、ミツは格闘術を使わないといけない。一方相手はナイフを2本持っている。正直いって分が悪い。ヴェルラン早く起きろ。今度はジュリアが間合いを詰めてきて連続で突き攻撃をする。腕の軌道を変えナイフを奪おうとするがどうしてももう一本のナイフで阻まれる。膠着状態が続いた頃に救世主が現れる。ヴェルランが起きたのだ。カミラが状況を説明し、カイルに加勢するやいなや一瞬で敵を蹴散らしていく。1分ほどで全て倒しこっちにカイルと一緒に加勢する。

「どうしたんだいジュリア?どうしてこんなヤツらと一緒になってるのかな?もしかして脅されてるとか…!?」

「女たらし。それは違うよ。最初からジュリアは向こう側の人間だったって話だよ。手引きをしたのも彼女だしね」

「そんな……。ん?今僕のこと女たらしと言ったか?訂正してくれ。僕は女たらしなんかじゃない!」

「ヴェルラン。今はそんなことどうでもいいからシン兄の足は引っ張らないでよね!」

 3人の攻撃が次々と繰り出されジュリアは防戦一方だ。

「さすがにこれは想定外だよ……。うぅ…どうして私はいつも失敗するの……。あ、あの……この状況は厳しいので…に、逃げていいですか…?というか逃げます……」

 ジュリアは踵を返し、一目散へ逃げていく。カイルが追いかけようとしたが静止する。夜の森じゃ追跡は困難で見失うのがオチだ。そこら辺に倒れてる雑兵から情報を聞き出した方が賢明だ。シンは倒れてる雑兵の手足を縛り腕を確認すると案の定赤髑髏盗賊団のマークが入っていた。依頼主は荷台の宝石の無事を確認する。被害は無く1人を除いて赤髑髏盗賊団メンバーを確保。結果的に護衛はできたが謎の喪失感に包まれ今回の任務は達成した。捉えたメンバーの身柄は冒険者組合に引き渡されるそうだ。依頼主が各々に報酬を支払う。本来ジュリアが受け取るはずだった分は4人で均等に訳1人金貨25枚の成果だ。

「今回は僕の連れがすまなかった。このことは詫びよう」

 意外にもヴェルランが謝ってきた。彼にも負い目を感じる部分があるのだろう。

「いやいい。結果的に護衛はできたから問題ない。僕の方こそすまなかった。非常時はヴェルランの方が優秀だった」

 お互いはお互いに謝罪し自分の悪いところを認める。これはなかなかできることではない。両者は別れシンは宿屋を探す。冒険者組合周辺で探し周っていると人目のつかない路地から人が出てきてカイルとぶつかり倒れる。

「ああ、すまない。急いでたものでね。立てるかね少年?」

「あ、ありがとうございます……」

 その人は去り際にシンの横を通りかかった時

「少年の変装魔法は少々荒いぞ。もうちょっと丁寧にかけることを奨める」

 と耳元で囁いた。シンは驚いてしばらく硬直していたが我に返り後ろを振り返るとそこにはもうその人の姿は無かった。

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