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神は気まぐれ

 2078年、地球。世界は大きな停滞を続けていた。停滞とは技術革新が起きていない事を意味する。最後に技術革新が起きたのは2030年頃のVR技術に関する事だ。それ以降人類は停滞し続けて半世紀が経とうとしていた。


 どこか分からない薄暗い場所。男が椅子に腰を下ろしてモニターを眺めている。時折、笑みを浮かべたり険しい表情をしたりしている。その様子は何かを楽しんでいる子供のようだ。しかし、険しい表情になってからしばらくが経つ。

「なるほどねぇ。うーん、これはどうしようか。」

 さながら困った様子で呟いていたが、それはすぐに笑みに変わった。そして、手元のキーボードのようなもの(制御盤だろうか)を操作し始めた。

「そろそろ始めようか。この変化でどう結果が変わるのか。楽しみだね。」

 手元の操作が終わったらしく、男の口には笑みが溢れていた。


 5月。別れと出会いの春が過ぎ去り新緑が芽吹く季節だ。意識の片隅で機械的に鳴り響く音を認識する。携帯端末のアラームの音だ。しばらくして携帯端末に手を伸ばしアラームを止める。

「おはよう」

 誰に言うのでもなく呟いた。時間を確認したら6:00を示していた。ベットから降り、ストレッチと屈伸運動をした後、スポーツウェアに着替えて早朝のランニングに行く。30分くらいして戻ってきて朝食を食べる。テレビを付けニュースを確認しながら食べる。これが朝のルーティンになっている。ふと、気になるニュースを見つけた。それは実験施設の爆発事故に関する事だった。

 ―全世界共同実験施設NEWHOOPで、本日日本時間未明に爆発事故がありました。NEWHOOP所長のフルゴラ・アーテナー氏はこの件について……―


 NEWHOOPとは全世界共同の研究施設であり世界中のあらゆる学問と学者がここに詰まっている。地球上に存在する最も賢い施設だ。元々は民間の研究施設で、ひっそりと研究を続けていたのだが、初代局長のベンジャミン・アーテナー氏の頭脳を全世界は高く買っていた。各国がベンジャミン氏の競売をしている中、ベンジャミン氏が各国に放った一言は「お前ら仲良くしろよ」だった。そうして各国共同という形でベンジャミン氏の研究施設は買収されて他の分野の学問も創設して世界最高峰の研究施設となった。しかし昨年10月、ベンジャミン氏は心臓発作で倒れて、そのまま亡くなってしまう。世界各国はこのベンジャミン氏の死に落胆したが、すぐさま希望の矛先を時期局長でベンジャミン氏の娘でもある、フルゴラ・アーテナー氏に向けた。


「また爆発事故?今年に入って三回目だが大丈夫なのか?フルゴラの代になってから多いけど本当に大丈夫なのか…」

「多分大丈夫じゃないから私たちがいるんだろうね」

 眼下から声がした。声のする方へ目を向けるとそこには小人(?)のようなものがいた。

(はて、僕はいつの間にVRゲームをしてたんだっけ?……いやまあ、VRゲームなんて言って現実逃避はしたくないんだけどな。で、何こいつ?新種の哺乳類?とりあえずこれあげてみるか)

 小人に食べかけのヨーグルトを少しあげてみた。

「わーい。私、ヨーグルト食べたかったんだよね。やったー!……じゃなくて!何なの?私の扱い野良犬!?もっと他に反応あったよね!?」

(何こいつ。よく喋るなぁ…。めんどくさ。)

「おいおい、『何こいつ。めんどくさ。』みたいな顔するなっ!」

「お父さんやお母さんは近くにいる?」

「迷子じゃねーよっ!もっと他に聞くことあるでしょ!」

「……で、君は何なの?」

「ようやくそれを聞いてくれたね。じゃあ答えてあげよう。聞いて驚くなよ!私は異能の種!君に異能力を授ける存在なのだっ!!」

 何か訳の分からない事を言い始めた。とりあえず捨てようかな等と考えていると、相手も察したらしくやめて捨てないでと叫んでる。

「異能力とはどういう事か、詳しい説明を聞きたい」

「まず、異能力の前に現状の説明をするね。あ、現状っていうのは今の地球の事ね。地球は今現在、技術革新が起きなくて半世紀が経とうとしてる。それを面白くないと思った神が人類に…」

「待て待て待て。神が出てくるの?神話の話してる?」

「先にこっちの話をした方が良かったかな?実はこの世界って作られた世界なんだよね。いわゆる、シミュレーション仮説ってヤツ。もちろん作られた世界なら作ったやつがいて、それがさっきの神ってこと。分かった?」

「シミュレーション仮説や世界五分前仮説は論理的で理解できるが、地球の技術革新が起きないからってなぜ、神は異能力を獲得させようとするんだ?そこがよく分からないのだが?」

「神曰く、『そっちの方が面白そうだから』らしいよ。」

 それを聞いて呆れた。しかし、考えをすぐに直した。自分が作ったものなのだから自分が何をしようと勝手なのは確かだ。となると、神がいたずらにこの世界を壊すとかしないのか不安になる。この異能力に関しても面白そうという行動原理だから十分に有り得る。

「あ、この世界を壊すとかそんな事はしないそうだよ。それにこの世界を作ってるコンピューターも壊れることは無いそうだから世界は永続できるよ。」

「なるほど。異能力とは具体的に何なのか説明が欲しい。」

「異能力は主効果と副効果に分けられて主効果は特異な能力を獲得して、副効果は主効果に耐える肉体を獲得する。君の主効果は物質の温度を下げる能力だね。副効果は筋力を何十倍にしたり、強靭な皮膚を生成したり色々だね。ちなみに、この異能力は君専用で他の人には使えないようになってるよ。」

「君のというのに違和感を覚えるが他にも異能力を持った人間がいるのか?」

「もちろんいるよ。一人だけじゃつまらないからね。って理由で全世界からランダムに10人を選別したって神は言ってた。でもなんか、ランダムなはずなのに日本人に偏りすぎたって言ってたな。」

 超人な上に異能力を持った可能性のある人間が他にもいると考えると、護身用程度には持っておくのが賢明な判断だ。

「自分以外の異能力者がいつどこで暴動を起こすか分からない。もしかしたら今どこかで起きているかもしれない。正直、異能力なんか無くても生きていけるからいらないけど、護身用として持ってた方が身のためかな。ところで、異能力はどうやって獲得するんだ?」

「ああ、それはね私自身を食べることですぐに獲得できるよ。よく噛んで食べること。30回以上噛んでね」

 突然のカニバリズム的思想が出てきたが、身体に取り込むことで身体機能を活性化させるのは実に効果的で、その中でも効率的なのが口径摂取だ。だから理にかなっているにはいるがなんかこう、もっとどうにかならなかったのか。

「ひとつ聞いていい?私はいつまで君呼びをすればいいのかな?そろそろ君の名前を教えてよ!」

「ああ、僕の名前はシン。氷川シンだ」

 ―氷川シン。年齢17歳。身長172cm体重58kg。公立高校に通う普通の高校生だ。成績は上の中。運動神経は上の下。ルックスは中の上。趣味は料理作り。母親はシンが幼い頃に亡くなっている。父親は外交官として海外で頑張っているためほとんど家にいない。性格は正義感は強いが頑張ることはしない。以上、氷川シンのプロフィール―

「僕のことは好きに読んでくれて構わない。逆に君の名前は何なの?」

「私は名前は無いよ。でも03って個体識別番号はあるかな。じゃあ、シンって呼ばせてもらうね!」

「03…めんどくさいし、ミツでいいや」

「めんどくさいって理由で私の名前を適当に付けるなっ!」

 朝食を終え、制服に着替え学校に行く支度を済ませ家を出る。この時はまだ、これから数時間後に起きる出来事を知る由もなくただ平穏な日々を過ごすのだと、シンは思っていた。


「米が無い…」

 学校から帰ってきて夜ご飯の支度をしようと思ってた矢先の出来事だった。米が無い。まあ基本的に米が無くてもご飯は食べられるのだが今日は違う。今日のおかずは生姜焼きなのだ。あの甘辛いタレを絡めた豚肉にはご飯がないといけない。これは日本国憲法で定められている。(※定められていません)故に米が必要なのだ。

「前回炊いた時に気が付かなかったの?」

「うーん。前回炊いた時どうしてたんだっけな。それよりも、米が無いとは由々しき事態だが。さて、どうしようか」

 自宅から近所のスーパーまでは約5kmほどある。途中、坂道を上るから余計にめんどくさい。自転車で米を買うためだけに行くのには生姜焼きと天秤にかけても、めんどくささが勝ってしまう。シェアカー(料金を支払えば無免許でも公道を走れる車)を使う手もあるが無駄にお金を使いたくはない。自宅周辺にはコンビニだけは何故か何件もあるから最悪そこで買うしかない。コンビニよりも近くにスーパー作ってくれ。シンは内心そう思い、コンビニで米を買うことにした。コンビニの米はスーパーに比べて高いのがやはり気になる。悶々としながら買い物を終えて帰路に着く。

 コンビニを出てから100mほど歩いた辺りでミツが口を開いた。

「ねえ、シン。誰かからの視線に気づいてる?」

「ああ、コンビニで買い物をしてる時には既にあった。ミツはその前から気づいてた?」

「いや、私もそのくらいで気づいた。おそらくソイツはコンビニに入る私を見て標的を決めたと思うよ」

「何のために尾行してるのか知らないけど、自宅を知られるのは少し厄介だな。撒くか」

 まっすぐに家に向かわず、路地を曲がったりするが、なかなか撒けない。そんなこんなで運動公園にに着いていた。どうやってコイツを撒こうかと考えていると、何故か体が危険だ、避けろと命令してきた。訳も分からず本能的に避けるとその刹那、シンのいた座標にはナイフが突きつけられていた。

「うぉ危な。……何するんですかあなた?」

 ナイフを持っていた犯人は黒いパーカーと帽子、サングラスにマスクと完全に顔を隠していた。背はそんなに高くない。自分よりも10cmほど低いから最悪ナイフを取り上げれば勝てる。しかし、ひとつの疑問が脳裏を過ぎる。その疑問は頭の中で徐々に確信へと変わっていく。

「なあミツ。人間が20mほどを()()()()()一瞬で近づけると思うか?」

「それは無理だと思うね。()()()()()()()()

 この襲撃犯はおそらく異能力者だ。すかさず、二撃目が入るが米袋で咄嗟にガードする。ナイフが米袋に突き刺さり取れなくなったのを見逃さず、米袋ごと襲撃犯を蹴りつけた。襲撃犯はよろめいて倒れ、シンは木の方へ逃げる。

「ミツ!朝は異能力とかいらないとか言ってたけど今はそんな事1ミリも思ってないからね!だから異能力くれ!!」

「もちろんだよ!私はそのためにあるんだからね!!」

 また後ろから嫌な予感がする。横に飛ぶ。自分のいた座標には今度は火球が放たれ、正面の木は幹を穿たれて燃えていた。どうやら、気に隠れても意味は無かったようだ。

 シンはミツを掴み口に入れる。口の中でイクラが弾けるような感触を味わい、正直吐きそうになったがそんな事は言ってられない。しかし、身体に変化が起きた感じはしない。

「ミツ!食べたけどどうすればいいんだ!?ミツ!!」

(そんなに叫ばなくたってシンの考えている事は心の中で伝わってくるよ。私たち異能の種は食べられると肉体は消失し、異能力者の別人格として機能するんだよ。ごめんね、これは言ってなかったよね。戦闘モードに入るから身体の主導権を渡してくれる?)

(え?あ、うん分かった。ってどうやるの?やり方知らないぞ?)

(心に思うだけでいいの。主導権を私に渡すぞって考えるだけだよ。)

 言われるがままに、主導権を渡す。瞬く間に身体の感覚が無くなるのが分かる。しかし、意識だけはハッキリとしている不思議な感覚だ。感覚が完全に無くなると、自分がどこか遠くへ行ってしまって自分じゃ無くなるような。でも、ハッキリと自分だと思えるような感覚で混乱していた。

「さあて、異能力を手に入れた事だしそろそろ反撃しちゃおうかなっ!私の主人は交戦を好まないからこのまま消えてくれると助かるんだけどな」

 襲撃犯はミツの話を無視し、火球攻撃をしてきた。ミツは対抗して地面から氷の壁を出現させ相殺する。

「やっぱりこうなるよね…。しょうがない、戦うか」

(ミツ、勝算はあるのか?)

(相手の能力が発火系能力なら五分五分ってところかな)

 襲撃犯は戦闘スタイルを格闘術に切り替えたらしく懐に飛び込んでくる。がミツは冷静に氷の壁を四面に出現させ閉じ込める。氷の壁を飛び越え両手に氷の槍を出現させ、空いた天井からぶん投げる。しかし火球で相殺され四面の壁も溶けてしまう。しかしミツは、水蒸気に隠れ視覚外からの蹴りを食らわす。襲撃犯は呻き声をあげて、後方に吹っ飛ぶがすぐに体勢を立て直し、両者は対峙をする。しばらく対峙した後、膠着状態を破ったのは意外なものだった。なんとミツの足元がまるで魔法陣のように光り始めたのだ。ミツは驚いたが、すぐに危険を察知してその場から離れようとするが何故か魔法陣の外に出られない。襲撃犯も魔法陣に火球を投げるが効果はないように見える。

(何これ!?新手の異能力者か!?)

(さあ、分からないけどこの魔法陣から早く出ないと何か不味いことになりそうだよね!)

 しばらく魔法陣は光り続け、そして消えた。シン身体ごと。

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