05 診察
熱は引かぬが意識は鋭敏という症状だった私は、直接クロイ先生と対話し治療法を問うた。
「精神的なものですからエリクサー改は聞きませんよ」
元より若返りは御免だったのでエリクサー改以外の治療法を欲していた私は、その言葉に安堵した。
「それでは他の治療法は」
「さっきも言ったとおり精神的なものなので、精神を鍛えるのが一番でしょう」
「と言うことは二番以降もあると」
「他人からの強制的な精神改造に抵抗が無いのでしたら、すぐにでも」
そんなのに抵抗が無い人がいるならお目に掛かりたい。
「いかがしますか」
「精神を鍛える方法をぜひっ」
鍛えるべきポイントを知るには精神探索を受け入れなければならない。
私は、ベッドに横になってクロイ先生に身を任せた。
診察を終えたクロイ先生は、治療法をたった一言で告げた。
「できるだけ、甘やかされてください」
以下は、診察の結果をまとめたものである。
原因:愛情不足
幼少時からの慢性的な愛情不足から自身を守るために心に壁を作って他人からの肉体的・精神的接触を拒む傾向あり。
ただし、個人が必要とする愛情の量にはもちろん個人差があるため、必ずしも患者への家族からの愛情が不足していたというわけでは無いことに注意。
※むしろこの患者は過剰に愛情を欲するタイプ(通称:甘えん坊さん)である可能性が非常に高い。
治療法:甘やかすこと
精神の正常な働きを阻害している心の壁を壊すこと。
この患者の心の壁は特に強固であるため、通常以上の甘やかしが必要と思われる。
※その際に患者の激しい抵抗が予想されるが、構わずに甘やかし成分を投与し続けること。
経過観察:態度や言葉遣いに注意すること
治療行為の経過と共に患者の日常生活に変化が訪れますが、おおらかな気持ちで見守ってあげることが患者と周囲の人たちの今後の良好な関係を築く上での重要なポイントとなるでしょう。
※再三注意点としてあげられていますが、この患者の属性が『甘えん坊さん』であることに充分に留意して治療に臨んでください。
※※治療・施術に関する実行後のクレームは、当方では一切受け付けておりませんことをあらかじめご了承ください。