10 一心同体
ようやく、平穏な生活に戻れました。
ノルシェもアイネもちょっとだけ反省してましたが、すぐに元通り。
いや、ちょっと変わったかな。
ノルシェは、前より少しだけツンツンした感じが減りました。
まあ『乙女』関係が絡むといつも通りの鉄壁の潔癖乙女になっちゃうんですけどね。
それがノルシェの良いところ。
アイネとは、自然と名前で呼び合えるようになりました。
まあ、高熱看病の時にあんなことやそんなことまでされちゃったので、今更って感じですかね。
もちろんアイネを看病できるリベンジの日を楽しみに待ちますともさ。
マクラは、なんかうちのメンバーで一番お母さんな気がしてきましたよ。
それでも、リノアさんが帰るときは泣いてたもんな。
あんなふうな癒しの最終兵器にはなれないけれど、
自分なりにお母さんがんばるからね。
そういえば、そろそろ里帰りしないとね。
マクラパパも魔導通信機越しのマクラ声だけじゃ、ね。
それから、チームモノカでお鼻つまみが流行りました。
あれは元々はアイネ一家に伝わる伝統的なおしおきだそうです。
個人的にはご褒美にしか見えなかったのですが。
ちなみにマクラはまだ一度もお鼻つまみされていません。
なんでこんなに良い子なんだろう。
そんなある日、
突然、転送おじさんことメイジさんが尋ねて来ましたよ。
「ご無沙汰です」
本当、ご無沙汰ですね。
「今日は回覧板を届けに来ました」
回覧板?
「広域指名手配犯一覧とも言いますね」
なんか嫌な予感。
「大丈夫ですって、今すぐどうこうして欲しいってもんじゃないですから」
ぴらぴらと一覧をめくるとっ、
「黒井チェル?」
犯罪者っすか!
「あぁ、その娘はちょっと違うんですよ」
??
「昔、とある王家でお世継ぎ騒動があったんですよ」
ほう。
「うちの王様って全然子供できないんだけどどうしよっか、みたいな」
ほほう。
「で、当時超一流の名医って呼ばれていたクロに依頼が来たんですよ」
ほうほう。
「あいつ頑張っちゃって『完璧精力剤』ってのを作っちゃって」
完璧?
「効果が抜群な上に絶対妊娠する精力剤ですって」
絶対っすか。
「王様、頑張りすぎちゃって半日でコロリですわ」
コロリって。
「もっと困ったのが、正妃側室メイドも入れてお世継ぎが11人お産まれってことです」
サッカーかよ。
「クロは全力で依頼こなしただけなのに王家からは指名手配ですわ」
なんか酷いっすね。
「実はクロと僕って召喚者として同期なんですよ」
あらま。
「もし会ったら、よろしく言っといてください」
えーと。
「それじゃ、また」
どもです。
相変わらずのメイジさんですが、問題はクロイ先生のこと。
「私は先生のこと、報告しないからね」
「それで良いと思いますよ、悪い人じゃ無さそうでしたし」
たぶんクロイ先生は悪い人じゃ無いんだよな、周りが勝手に踊っちゃうのが悪いんだよ。
何となく、天才魔導具技師のアリシエラさんのお言葉が頭に浮かぶ。
『銃が危ないのってその銃の責任じゃなくて、引き金を引いた人の責任じゃないですかねっ』
「そういえば、診療費っていくらだったの」
アイネ、聞いてないの?
「お母さん、お手紙っ」
ありがとね、マクラ。
黒井チェル先生からのお手紙でした。
経過観察で近々行きますって、
どうしよう。
メイジさんには知らせたほうが良いのかな。
で、多数決で知らせないことになりました。
多数決で全員一致なんて、さすがはチームモノカ、全員一心同体。
もしかしたら、クロイ先生のおかげかも、ね。
あとがき
リヴァイスという世界は、ひとりの少年がプレイしている仮想現実ゲームです。
彼は長い時間この世界を旅するうちに『鏡の賢者』と呼ばれる存在になりました。
お供のメイドさんは『伝説のメイド』と呼ばれております。
ここで暮らしている人々はいわゆるAIですが、それなりに大変なこの世界を楽しく生きているみたいです。
リヴァイスの物語は、そういう人々のあれやこれやを短編として紹介するものとなりそうです。
iPadのメモ帳につらつら溜め込んでいたショートストーリーや小ネタをひとつの世界にまとめようとしたら、こういう設定になりました。
整合性や何やらいろいろアレですが、お話しがまとまり次第投稿したいと思っております。
楽しんでいただけたら幸いです。