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愛も変わらぬ地球人  作者: 沖 元道
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第三話 世界トップレベルの科学者

 大学付属の研究所の応接室の中で、五十代半ばの男が古賀咲良と打合せをしている。男の名前は今村(いまむら)賢一郎(けんいちろう)といい、巨大ドームの実現を支えた軽量で強固な新しい材料物質を世界に先駆けて開発した科学者である。

 咲良はドームの竣工式の式次第を今村に説明し始め、今村はじっと聞いていたが、咲良の説明が終わるとつぶやいた。

「この巨大ドームで都会は益々便利になって人口がさらに集中すると思うけれど、田舎はどうなっちゃうかねえ……」

「地方にある観光資源や、農業や漁業といった産業は今後とも重要ですが、そのために地方に人が大勢住む必要はありません。必要最小限の人間と十分な数のAIロボットがいれば問題ありません」咲良は真面目な表情で答えた。

「いずれ地方では、人間はいなくなりロボットだけ、ということになってしまうのかなあ……ちょっと不気味な気もするよね」

 今村は少し暗い表情で言ったが、咲良は明るい笑顔で答えた。

「地方はロボットしか住まない場所になってもおかしくはないと思います。それが不気味かどうかは感じ方の違いだと思います」咲良は少し沈黙してから続けた。「でも、田舎に住み続けたいと考える人は、今後ともいなくならないと思います」

「でも、そういう人は少数派だよね?」

「はい。本当に少数派だと思います……」咲良は、兄喜世志のことを思い浮かべながらそう答えた。


 その頃、宇宙省が入るビルの中では、惑星の調査を担当している部署の一人の担当者が、準惑星キミワロンの近くに送った無人探査機から送信されてきたデータを見ながらつぶやいていた。

「一体何なんだ、この物質は……色が黒から赤に変わりつつある……そして、固体だったものが流動体になってきた……」

 キミワロンの大きさは地球とほぼ同じで、千年周期の大きな楕円軌道で太陽を回っており、現在、太陽に最も近づきつつある。千年近くの間太陽から遠く離れているため極寒の環境と思われていたが、地表の温度が予想よりも高いことが判明していた。そして、太陽に近づくにつれて地表を覆っていた物質に変化が起き始めていることも観測されていた。

「高度な生命体がいるはずはないが、自然現象だけでは説明ができない……」

 担当者がそうつぶやいた瞬間、無人探査機からの通信が途絶え、その代わりに次のようなメッセージを受信した。

〈地球人の皆さん、こんにちは。私たちは、あなたたちが『キミワロン』と名付けた星の住人です〉

 メッセージが表示されたモニター画面に、担当者たちの目は釘付けとなっている。

〈私たちの星は、元々は地球の双子星として太陽の反対側にありました。しかし、三億年前、私たちはある目的を持って、太陽を回る軌道を今のように千年周期に変えました〉

 次々に送られてくるメッセージに、宇宙省の担当者たちは身じろぎもせずメッセージを見つめている。

〈軌道を変えるために、重力をコントロールする装置を使いましたが、その詳しい説明は省略します〉

 担当者たちは驚きの声を上げた。

「重力をコントロールする装置? そんなものを持っているというのか?」

「信じられない……」

〈私たちは、千年ごとに地球を訪れ、数万年前からは、あなた方の祖先と交流し続けてきました。しかし、これまでは、私たちのことを正しく理解してもらうことはできませんでした〉

 宇宙省の担当者たちの中には、興奮して震え出す者や、うっすらと涙を浮かべる者も出始めた。

〈今回は、地球人の皆さんは、私たちが何者であるかを理解する知識を持っているに違いないと考えています。あなたたちが私たちの星の近くまで無人探査機を送ってきたからです〉

 宇宙省の担当者の一人がつぶやいた。

「探査機からの通信は途絶えたままだ……」

〈今回の訪問では、実りあるコミュニケーションができることを期待しています。すでに地球上の数十か所に降り立ち、各国で地球人の皆さんと個別にコミュニケーションを始めようとしています〉

 担当者たちは気味悪そうに周囲を見回した。

「彼らはどこに来ているというのだ……」



 巨大ドームの竣工式の当日。

 東京に降り立って日本人の若者の姿になったキミワロン人は、しばらく前からこのドームの中にある百階建ての新築のビルの屋上に一人で立っていたが、ドームの天井に遮られて直接は見えない太陽の方向を見て表情を曇らせた。

――あっ、これは……。

 キミワロン人は屋上から非常階段を駆け下り、九十九階のフロアーで行われている竣工式の会場に入った。

 咲良がリーダーを務めるチームが準備を進めてきたこの竣工式では、数百名ほどの出席者たちが、今村博士のプレゼンテーションを聞いている。

「この新しい材料で建設が可能となった巨大ドームによって、東京を中心とした大都市の成長と繁栄は永遠に保証されることになるでしょう」

 今村博士の締めの言葉を聞いて、出席者たちは大きな拍手をし、生活産業大臣は大きくうなずいた。

「今村先生がノーベル賞候補だという噂も当然のことですね」大臣は、演壇から下りてきた今村博士に近づき声をかけた。「近い将来の今村先生の受賞を楽しみにしています」

「それはどうも。恐れ入ります」今村博士は生真面目な顔で、大臣の言葉を軽く受け流した。


 その同じ時刻。

 宇宙省の中で人工衛星を管理している部署の担当者たちが顔色を変えた。

「通信が途絶えた……」

「まずい! このままでは、落下位置をコントロールできない!」

 地球の周りには常に無数の人工衛星がひしめき合っており、寿命が尽きたものは各国で責任をもって回収または廃棄することが国際ルールとなっている。今日も、古くなった三個の人工衛星をまとめて日本近海の回収エリアに落下させるため、担当者たちは軌道修正の指令を送信し続けている最中であった。

「落下を止めることはできないのか?」担当者の一人が叫んだ。

「無理だ。すでに落下高度に入っている」

「二個は地上に到達する前に燃え尽きるが、残りの一個は確実に地表に到達する……」

 担当者の間では緊張が走っている。

「通信が途絶えた原因が判明しました。太陽の異常爆発により、強力な電磁気嵐が発生したためです」

「そんな馬鹿な! 電磁気嵐への対策は十分のはずだ」

「これまで経験したことのない、我々の想定を遥かに超えた規模と威力の電磁気嵐が、今地球を襲っています」

「通信が途絶えた時刻から推測した落下位置はどこになる?」

「もうすぐ判明します……」担当者が机上のモニターを凝視している。「東京です……」担当者が恐怖に歪んだ顔でつぶやいた。

「東京のどこだ! 正確に言え!」

「ここからは三十キロほど離れた場所です……例の巨大ドームが建設された地点です」

「何だと! 関係者に至急連絡しろ!」

「はい!」

 

 竣工式でのプレゼンテーションを終え、会場の後方で立ちながら参加者たちを眺めている今村賢一郎に、若者の姿のキミワロン人が近づいて声をかけた。

「今村博士。今回開発した物質の化学構造式を教えていただけますか?」

 今村は、近づいてきた見知らぬ若者が、突然、専門的な質問をしてきたことに驚いたが、手持ちのパソコンを近くの机の上に置いて操作し、一枚のスライドを見せた。

「これが、ご質問の構造式です」今村はそう言って、若者の顔を見た。「かなり複雑で、理解することは難しいかもしれませんが……」

「ちょっと、失礼」キミワロン人はそう言うと、今村のパソコンの上に手を乗せて、スライドに修正を加えた。

「この構造式の物質の方が、さらに軽くて強固なものです」キミワロン人は、修正したスライドを指さしながら、控えめな表情と丁寧な口調で言った。「今後の研究の参考にしていただければ幸いです」

「この物質の合成も試みたが、結局失敗したものだ」今村が驚いて大きな声を上げた。その大声に驚いて、近くを通り過ぎた人が今村の方を振り返った。

「そうですか……摂氏二千度の高温と無重力の環境が必要ですが、そういう環境でも合成できませんでしたか?」キミワロン人は穏やかな口調で尋ねた。

「そんな難しい実験環境は簡単に実現できるものではない。君はその環境を実現してこの物質の合成に成功したのか?」今村はさらに声を大きくした。

「私ではありませんが、私の仲間は合成できます」キミワロン人は笑顔で答えた。

「この物質の開発に成功したという研究論文は見たことがないぞ!」今村は興奮し、叫ぶような声をあげた。

「地球上ではないということだと思います」

「どういうことだ?」今村は急に声を低めた。「あんたは宇宙人だとでもいうのか?」

「私は、あなたたち地球人がキミワロンと名付けている星の住人です」キミワロン人は相変わらず笑顔のまま、穏やかな声で答えた。

「キミワロン? あの千年周期で太陽の回りを公転しているという星のことか?」

「そうです」

「冗談だろ? 何もない暗黒の極寒の星だという話を聞いたことがある」

「それは、誤解です」

「あなたは、本当にその星の住人だというのか?」今村は再び声を大きくして尋ねた。

 キミワロン人はそれには答えず、急に黙り込んだ。

 そして、頭の中で別のキミワロン人と会話を始めたが、その会話は目の前にいる今村には聞こえていない。

――太陽の異常爆発が起こった。電磁気の大嵐がもうすぐ地球に届くぞ。

――もう届いている。幸い数億年に一度のような大規模な嵐ではなく、数百万年に一度程度の中規模の嵐のようだ。

――その通りだ。しかし、地球人たちがこの規模の電磁気嵐に上手く対処する能力があるか分からないので、よく観察してくれ。

――了解。地球人たちは電磁気嵐を体で感じることができないようで、今のところ皆落ち着いている。何事も起こらなければ良いのだが……。

 今村は、黙り込んでいるキミワロン人をしばらく見ていたが、もう一度声をかけた。

「あなたは、一体何のために地球に来たというのだ」

 その時、もの凄い爆発音とともに建物が大きく揺れ、竣工式会場の参加者からは大きな悲鳴が上がった。

「なんだ?」今村は周囲を見回した。

 続いて停電が起き、参加者の中からさらに悲鳴が上がった。

 すぐに非常電源が作動して薄暗いながらも明かりがついた。

 その時、古賀咲良が今村に駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか? ノーベル賞候補の先生を負傷させるわけには絶対にいきませんので、慌てずにお願いします」

「心配ない」今村は落ち着いた表情で答えた後、咲良に尋ねた。「何が起こったのだ?」

「分かりません」

「ところで、私より、この男、このキミワロン人の方が、すごい物質を開発している」今村は、隣にいるキミワロン人を指さして興奮気味に言った。

「博士、何を言っているのですか?」咲良は怪訝そうな表情を浮かべた。

 その時、窓の近くにいた人から声が上がった。

「あの建物から火が出ている」

 咲良は急いで窓に駆け寄り、外を見た。

「まさか……」咲良は絶句した。

 巨大ドーム全体が停電しているため、人工太陽の明かりも消えており、非常用の電源のパワーだけのため夕方のような薄暗さとなっている。その中で遠くの一点だけが明るく照らされている。その明かりはドームの天井に開いた穴から差し込む太陽の光だ。そして、その太陽の光の下で炎上している建物は、この巨大ドーム内の環境を快適に保ち人々の様々な活動を支えるための膨大な電力を賄っている原子力発電所だ。

 その時、咲良の携帯電話が鳴った。生活産業省からの電話だ。

「人工衛星が制御不能になり、巨大ドーム付近に墜落する見込みだという連絡が宇宙省から入った」電話の相手の声は緊迫している。

「すでに落下したようです……」咲良は重苦しい声で答えた。「しかも、原子力発電所を直撃したようで、ドーム内が停電しています」

「何だって!」電話の相手は大声で言った。

「これから避難します。また後で連絡します」咲良はそう言うと電話を切った。


――電磁気嵐の影響を受けて、地球人たちは人工衛星のコントロールに失敗したようだ。君のいる東京に落下するらしい。

――今、目の前に落下した。

――君は無事か?

――大丈夫だ。

 キミワロン人は、頭の中で仲間と交信している。

 会場内はすでにパニック状態で、参加者からは多くの悲鳴が上がっており、人々はエレベーターに殺到している。しかし、エレベーターはすべて停止しているため、人々は非常階段に向かって走り出した。

 その時、生活産業大臣が咲良に駆け寄ってきて怒鳴った。

「どうなっているんだ!」

「人工衛星が落下したようです。すぐに避難しましょう」咲良は大臣にそう言うと、今村の方を向いて言った。「今村先生もこちらへ」

 その時、突然サイレンが鳴りだし、自動音声のアナウンスが流れた。「火災が発生しました。全員このビルから避難してください」それと同時に、スプリンクラーが作動して消火剤を噴射し始めた。

「火災だと? 本当に火災が起こったのか?」今村が咲良に尋ねた。

「分かりません。パニックの中で誰かが間違えて火災通報装置を押したのかもしれませんが、急いで避難しましょう」

 咲良は、パニックになっている人々を安全に非常階段へ誘導し始めた。

「今村先生も早く!」咲良は、少し離れた所から大きな声で呼びかけた。

「君も一緒に避難しよう」今村はキミワロン人に声をかけた。

「地球人は、火災の熱への耐性を持っていないのですか?」キミワロン人は冷静な声で尋ねた。

「火災の熱への耐性? そんなものはあるわけないだろう」今村は、何を言っているのか、という表情だ。

「日常生活の中で火を使い始めてから長い期間が経っているのに、未だに熱への耐性もないのですか?」

「君たちはあるのか?」

「当然です」

「それはすごいな。では君はここにいても大丈夫だろうが、私は避難するぞ」

「そうですね、避難しましょう。でも階段を下りるより、あそこから飛び降りた方が早いですよね?」キミワロン人は、窓を指差して言った。

「飛び降りるだと? 君は死ぬつもりか?」今村はあきれたような表情だ。

「あなたたち地球人は、高いところから飛び降りる能力もないのですか?」キミワロン人は再び驚いた表情で尋ねた。

「そんな能力はない」

「高層建築物を作って日常生活で利用していながら、そんな基礎的な能力もまだ身に付けていないのですか?」

「残念ながらその通りだ」

「でも、地球上の生物でいえば鳥や昆虫のような人間より原始的な生物ですら持っている能力ですよね?」

「それはそうかもしれない……しかし、ないものはない――」今村はそう言って、非常階段へ向かって駆け出し、キミワロン人も今村の後を追った。

 すべての人を非常階段へ送り出したことを確認した咲良も、最後に非常階段へ向かった。


 九十九階の会議場から必死の思いで非常階段を通ってようやく地上に降りた人々は、巨大ドームの外へ通じる出口に向かって走ったが、その扉は閉ざされており開かない。ドーム全体のコントロールシステムが損傷を受けたようだ。

 その時、大きなサイレンと共に、ビルの外壁に設置された大きなスクリーンに警告文が表示された。

〈発電所の原子炉が爆発する恐れがあります。大至急、ドームの外に避難してください〉

 その警告文を見た人々は大きな悲鳴を上げた。

 そこへ、原子力発電所の担当者が息を切らしながら走って来て叫んだ。

「最悪の事態として、原子炉が爆発するかもしれません! 皆さん、ドームの外へ避難してください!」

「避難したくても、ドームの扉が開かない。どうなっているんだ!」近くにいた生活産業大臣が怒鳴った。

「今、救助隊がこちらに向かっています」生活産業省と連絡を取っていた咲良が、大臣に向かって言った。

 騒然としている人々を見ながらキミワロン人が今村に尋ねた。

「もしかすると、地球人は、放射線への耐性もないのですか?」

「ない……」今村は苦しそうな表情でつぶやいた。

「原子力を活用しておきながら……」キミワロン人はそうつぶやいてから黙り込んだ。

 その瞬間、発電所の原子炉は大爆発を起こした。

 人々は恐怖に歪んだ表情でその光景を見て、その歪んだ表情のまま、次々に倒れだした。目には見えない強烈な放射線が人々を襲ったのだ。

 そして、ドーム内には完全な静寂が訪れた――。



 咲良は暗闇の中に横たわっていた。しかし、身動きができない。

「誰かいる?」

 咲良が小さな声を出すと、隣で声が聞こえた。

「今村だ。古賀さんか?」

「はい。動けません」

「僕もだ」

 すると、第三の声が聞こえた。

「お二人とも無事だったようですね」

 先ほど一緒にいたキミワロン人の声だということが、咲良にも今村にも分かった。

「暗くて何も見えない。ここはどこだ?」今村がキミワロン人に尋ねた。

「私があなたたちに覆い被さっているのです。場所は先ほどいたところと同じです」

「何も見えないぞ。どいてくれ」

「あなたたちは放射線への耐性がないのですよね? 今私がどくと、他の人々のようにすぐに命を落とすことになります。このまま、別の場所に移動しましょう」

「どうやって」

 キミワロン人は何も答えなかったが、二人は地面から浮き上がった感覚を覚えた。

 しばらくすると、突然暗闇から解放され、二人は眩しさで何も見えなくなった。

 二人の目が明るさに慣れてきて、何かの乗り物の中にいることが分かり、そして、二人が近くにいたキミワロン人の姿に気づいたとき、キミワロン人は二人に話しかけた。

「ここは、放射線を通さないので安全です」

「ここはどこ?」咲良がキミワロン人を見ながら尋ねた。

「私が使っている乗り物です」キミワロン人は冷静な声で答えた。

「他の人たちは?」

「見ない方が良いかもしれません……」キミワロン人は神妙な顔つきだ。

「いえ、心配です。見せてください」咲良は責任感からはっきりとした口調で言った。

「分かりました」そう言ってキミワロン人が壁のパネルを操作すると、壁の一部が透明となり、外の景色が今村と咲良の目に飛び込んできた。

 薄暗い中で、地面の上には多くの人々が倒れているのが見える。皆表情は恐怖で引きつっており、口から血を吐いている人も多かった。

「何ということだ……」今村は茫然としている。

 咲良は、何も言葉を発しないまましばらく茫然と見ていたが、急に涙を流し始め、「ううっ……」と唸った後、吐き気をもよおし、うずくまった。

「あなたは放射線を受けても全く無事なのか?」今村がキミワロン人に尋ねた。

「全く無事というわけではありません。身体機能の一部が損傷を受けています」

「どうする?」

「この程度の損傷は、安静にしていれば数日で自然に治りますので大丈夫です」

 咲良はうずくまったまま動けないでいる。

「私の体のダメージより、古賀さんの精神へのダメージの方が大きいようです」キミワロン人は心配そうな表情だ。

 二人は咲良の側に屈み込んで様子を見たが、咲良は小刻みに震えながらうずくまったままだ。

「ここにいても気持ちが沈むだけでしょうから、場所を移りましょう」キミワロン人は今村に向かって言った。

「これからどこへ?」

「東京から離れた所にある森の中へ行きましょう」

 キミワロン人は二人に背を向けて、壁のパネルを操作し始めた。

「この男は地球人ではなく、本当にキミワロン人らしい……」今村は独り言のようにつぶやいた。「信じられないことだが、信じないと今起きていることが理解できない――」

 咲良は涙で濡れた虚ろな顔で、今村を見上げた。

 三人を乗せた球状の飛行体は、死の街と化した巨大ドームの天井に開いた穴から脱出し、空高く飛び立った。


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