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5.仮装大賞!?

 未来の王妃を決める(?)コンテスト参加を決意した数日後――わたしは自室でメイドさんたちに取り囲まれている。

 無事に参加届が受理されたわたしは、準備のために、変装をしているのだ。

 

 ――そう、『変装』。


「あの、このかつら、本当につけないとだめなのかな?」


 わたしの頭の上に乗っかっているのは、本来の髪色とも長さとも違う、栗色のかつら。かぶると、少し窮屈な感じがする。


「私達も、本来の聖女様のお姿でご準備して差し上げたいのですが、規定なのでお許しください」


 数代前、好色の王がコンテストの内容を完全に無視して、単純に好みのお顔で優勝者(王妃)を決めたらしく、コンテストも、その後の王室事情も大荒れになったらしい。それ以来参加者は顔を隠すことが義務付けられるようになった、とか。


「それに、ある程度の身分関係なく、広く皆が参加できることが売りのコンテストなので、身分の高い方々に忖度する出来レースでは、つまらないでしょう。家柄でなく、しっかりとその人物本来の能力を見定めることもこのコンテストで重要なんです」


「それじゃあ、大勢の女の子たちが殺到するなんてことはないの?」


「第一次審査は書類選考で、実はもう審査が終わっています。ここである程度の家柄は振り分けられているんですけどね」


「そう、なの」


 その話が本当なら、わたしはきっと「聖女」枠で顔パスしたんだろう。


「何事も()()()()の限度というものがありますからね。まあ、過去には完全なる平民の女性が王妃となられた時代もありますし、書類選考できらりと光るものがあって参加できている者もいるでしょう。平たく言えば、何でもあり、です」


「……その辺、結構大らかなんだね」


 ドレスも、支給された皆同じものを着用するということで、無難な紺色のワンピースを着せられた。


「では、最後に仮面を選びましょうか?」


「か…めん……」


 確かに、視界の片隅には入っていたけれど、改めて確認すると、ずらりと並んだ仮面たち。この怪しい仮面を自分がつけなければいけないというのを、考えないようにしていたかもしれない。

 

「ええ? 絶対つけなきゃいけないの?……怪しい人だよねこれ」


 仮装パーティー感が一気にでて、どうも気が乗らない。


「今更根底から覆して悪いけどさ、可愛くて王様の好みなら、それはそれでいいんじゃない? こんな姿形を偽ってコンテストをやったって、王様も選びにくくてしょうがないよね?」


「うっ、本当に根本から攻めてきますね」


 それでも手練れのメイドさん達は怯まない。


「最近はこの仮面で個性をいかに出せるかが重要になってきていますし、何なら気になるパーツを隠すことで美人見えを狙えるとの噂もありますよ」


「……それで美人に見えてて、素顔出したらがっかり、みたいのショックなんだけど」


「大丈夫です! 聖女様は十分お美しいですし、最終的に決勝まで勝ち残れば顔出ししますし!」


 みんなが熱くなるほど、わたしは冷静になってくる。そもそも、レイヴァル様を自ら突き放しておいて、どんな顔をして参加すればいいのか。「面白そうなので、参加しちゃいました、ははは。」とでも笑えば、「そっか~」とでも流してもらえるようなことなのか。ここまで来ちゃって今さらやめるとも言い難い状況だけど……


 ……ん、じゃあ、仮面は逆に救いの手となる??十中八九脱落するだろうし、そっとフェードアウトすれば、レイヴァル様と接触することもないだろう……


「あああっ! ユーナ様の思考がまずい方向に行ってる気が!!」


「ちょうどいいところに、シオウ様!!」


 そこへたまたま通りかかったのは、シオウだった。


「聖女様の仮面を選んでいるのですが、どのデザインがいいか迷っているんです。シオウ様はどう思われますか?」


 忙しいであろうシオウだったけど、わざわざ足を止めて、わたしの部屋に並べられた仮面をゆっくり見渡した。


「そうですね……完全に顔を隠す必要があるのならば、この頭巾などどうでしょう?」


 シオウに薦められるまま身に付けた頭巾により、わたしの顔どころか性別すらも分からなくなった。


「うーん、ちょっと……いや、ものすごく怪しいよね、これ」


「別に、完全に身を隠すことを目的としているわけではないですからね」


 これ、どう見ても黒子だ。メイドさん達も、微妙な顔つきだ。


「そう、ですか。敵に素性を明かさないという点では良いかと思ったのですか。では、こちらの面などどうでしょうか」


 次にシオウが手渡してきたのは…特殊マスク……ゴリラらしき生物の被り物だった。


 ……っていうか何で候補にこれがあるんだ。そして無駄にクオリティが高い。 


「……シオウ、ふざけてるよね?」


「相手を怯ませる、という点では良いかと思ったのですが……お気に召しませんか。どういう基準で選択していいのか分かりかねるのですが。では、これは?」


 シオウが次に選んだのは、どこか和の雰囲気を感じさせる、狐の仮面だった。


「あ、こういうの昔お祭りで売ってたかも。なんだか懐かしい(っていうかここまでで一番普通)」


「では、これに決定で」


「いいですね、これで決定」


 本当に良かったのか、みんな疲れたのかは分からなかったが、満場一致で狐面に決定した。


 ……この姿でレイヴァル様や審査員のみなさんに好印象を与えることはできるのだろうか? ……まあ、バレずに終わればそれでいいか。


 鏡に映ったわたしは、自分らしい部分がほとんど隠され、誰だかわからない姿で立っていた。こうやって何も話さずにいるだけなら、おしとやかなご令嬢に見えなくもない……だろうか?


「……」


「? どうしたのシオウ?」


 いろいろ考えていると、シオウにじっと見られていた。


「聖女様は、進む道を定められたのですね」


「……? そんな大げさなものでは」


 シオウはそこでふっと微笑んだ。めったに見ることのない、レアな笑顔だ。


「聖女様、お時間です」


「それでは、私も仕事に戻ります。聖女様の成功を、お祈りしております」


「う、うん。ありがとう! シオウ」


 呼びかけに答えて、わたしは部屋から踏み出した。

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