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4.燃える闘魂?

「――というわけでして、近隣国の建国記念式典に、王様と聖女様にもぜひ参加してほしいとの招待が届いていますが、どういたしましょうか?」


 現在、わたしはお城の会議室にいる。少し離れた席にはレイヴァル様の姿も。今日はわたしにも関係がある議題があるということで、参加しているのだけれど。


「しかし、今の国内が落ち着かない状況では、私も聖女様もここを離れるわけにもいかないでしょう。誰か代役を立てるのがいいと思います」


 レイヴァル様はいつも通り穏やかな表情で、提案した大臣さんに答えた。


「あのー……、わたしは行ってみても、いいかな……なんて、ちょっと思っただけです。また、別の機会にでも!」


 今までの経験上、レイヴァル様はこのような発言を快く思っていないはず。一瞬首をもたげた好奇心を振り払い、わたしは慌てて訂正した。――のだけれど……そこで返って来たのは思わぬ言葉だった。


「別に、構わないのではないですか? それが聖女様の希望となれば、私がお止めすることでもないでしょう。どうぞ、参加してきてください」


「は、はい……」


 なんだろう、レイヴァル様の表情も声の調子もとっても優しいのだけれど……素直に喜べないこの感じは……?


「そう、ですね! では、式典には聖女様が参加されるということで、返事を出しておきます」


 提案した大臣さんも何かを察したように、早口にこの議題を終わらせた。


 ――あの日……レイヴァル様と話した日から、わたしは相変わらず何だかんだと忙しくしている。レイヴァル様とは、もちろん落ち着いて話せていない。忙しいには忙しいのだけど……理由はそれだけではない。今のように何かしらの集まる機会に同じ空間にいても、レイヴァル様と目が合うことはなかったし、挨拶ぐらいはしても、それ以上関わることもない。

 無視されている……というわけではないけれど、以前から比べると関係はすっかり変わってしまった。あまり深く考えないようにはしているけど、名前を呼ばれることもなくなったし。おそらく、完全に呆れられ、見切りをつけられたのだと思う。当然と言えば、当然。自分からこうなるように行動したのだから、しょうがない。

 ……それでも、気持ちは全く晴れない。わたしは目の前のことをこなしてはいるけれど、何をしても身が入らない日々を過ごしていた。


 他の国に行くって、こんな事態でなければものすごく楽しみなことなんだけれど。勝手に行って来いって突き放された感があると、素直に喜べないな……。



 今日も一人、部屋でくさくさしているところに、慌てた様子のリリィが勢いよく扉を開けてやって来た。


「り、リリィ!? どうしたの? 息をきらせて……」「ユーナ様! 数年ぶりの『ミス・フェアリアコンテスト』が開催されるそうですよ!!!」


 緊急事態かと身構えたところに、何だか気の抜ける発言。なんと返答していいのか困る。


「あ、そう……」


「もっと、テンション上げてくださいよーっ!!」


 ……なんだろう? 美人が集う、楽しいお祭りかな?


 わたしが質問する前から、リリィは食い気味で説明しだした。


「この国で最も才能あふれる、素晴らしい女性を決めるという名目のコンテストなんですが、本来は王太子様の婚約候補を決めるために始まった伝統ある会なんです。過去にも、優勝者は王妃様となられた実績が数多あるんですよっ」


「ふうん……?」


「ユーナ様、他人事ですね……。現在、王太子のお立場にいらっしゃる方がおりませんので、王様のお相手を決めるためのコンテストですよ?」


 それって、レイヴァル様の、ってことだよね……。あれ、以前にレイヴァル様は婚約者がいらっしゃるような話をしていなかったっけ? その中に好みのタイプがいないから、やっぱりもっと候補者を広げたい、とか?

 わたしの脳内では、水着姿の美女がずらーっとステージに並んでいる姿が再生された。


「昨年度は先王様のこともあって開催されなかったんですが、今年は現国王……レイヴァル様のお許しがあって、無事に開催されることとなったんですよ! こ れ は! 王妃となる方を見定めるためのコンテストだと国中が盛り上がっています」


 国中が騒ぎになるほどの一大イベントなのか。……わたしは知らなかったな。まあ、今のレイヴァル様はそういう大事なことはわたしに教えてくれなさそうだけど。

 一瞬チクリと胸が痛んだ気がするが、深く考えないでおこう。


「ユーナ様は……王様とそれは仲良くされているのだと思い込んでいましたが、違うのですか?」


「それは……」


 わからない。わからないから、わたしは何も返事ができない。それでも……レイヴァル様がコンテストの優勝者と仲良く並んでいる姿は、あまり想像できない。わたしが答えかねている様子を見て、リリィの元気も少しだけなくなったように見えた。


「ユーナ様、ここ最近明らかに落ち込んでいらっしゃいますよね?」


「わ、かる?」


 リリィは静かにうなずいた。


「何があったか詳しくはお聞きしません。でも、いいんですか? このままだと王様はどなたか別の方を選んでしまうかもしれないんですよ?」


「う……それはなんだか、嫌かもしれない……。でも、わたしが止められることではないし」


「だったら、参加しましょう! コンテスト!!」


「は!? わたしが??」


「そうですよ、このまま試合終了でいいんですか? 戦わないユーナ様は本当のユーナ様なんですか?」


「う、うん。なんだか最近自分らしくないなとは思ってはいたんだ。でも、さすがにコンテスト参加はどうなのかな? それで万が一婚約なんて想像もできないし……」


「万が一とはなんですか!! 最初から、トップを狙っていかない人間に、勝利の女神は微笑みませんよ!? どうするかは、優勝してから考えればいいじゃないですか! 少なくとも、私達メイドは、ユーナ様の幸せを願っていますよ!!」


「あ……ありがとう!!」


「じゃあ、登録してきますね!!!」


「お、願いします!!!!」


 そのまま、リリィにがっしと両手を握られる。リリィの猛プッシュにより、半ばやけくそになったわたしは、自然な流れで『ミス・フェアリアコンテスト』に参加することに決まっていった。

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