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3.情けない自分

 虹色の空。キラキラ輝く宝石みたいなお城。そして、これまた煌びやかな白い衣装を身にまとったレイヴァル様。その背中には……羽!?


「実は、私は妖精の国の王族の血も受け継いでいるのです。妖精の姫であるユーナさまを迎えに来ました」


 レイヴァル様(?)は、宝石にも負けないとびきりの笑顔で、優しくわたしの手をとり、口づけをした。


「へっ!? わ……わたし、どこからどう見ても人間ですよ?」


 その瞬間、レイヴァル様の笑顔が消える。


「……本当だ。ユーナさまはただの人でした。何をどうしたら見間違えたんでしょう」


「ご、ごめんなさいいいいいっ!!!!」


 ……


 ばっと起き上がったわたしは、自室のベットの上にいた。


 夢。当たり前か。……それにしても、どんな恥ずかしい思考回路をしてればこんな変な夢が見れるのか。でも、あながち的外れでもないのでは、とも思う。


「うう……」


 じっとりと汗をかいている。喉もからからで、重い体を何とか動かし、水を飲んだ。


 最近、寝ていてもレイヴァル様のことで悩んでいる気がする。その後もほとんど寝られなかったわたしは、朝の支度も早々に済ませてしまった。悶々としていた私は、朝食後すぐ、仕方なしに図書室に来ている。本を読んでいれば気も紛れると思っていたけど、さっきからずっと同じページでひたすら目がすべりまくっている。


 ……もう、だめかもしれない、自分。自然と大きなため息が出る。


 その時、声がかけられた。


「あ、いたいた。聖女様、王がお探しになってます……」


「あああっ! 用事があったんだっ! 大変!! 今すぐ行かなくては」


「え……あの」


「ごめんなさい! わたしはいないと伝えてください!」


 わたしを呼びに来た従者さんが返答する間もないまま、急いでその場を立ち去る。


 ……ということを、ここ3日ほど続けている。十分、分かっている。自分の行動がどれだけ愚かなことか。


 それでも。


 レイヴァル様の顔を見ても、今のわたしは頭が真っ白になってなにも話せないだろうことはわかっている。この前……レイヴァル様が言っていたことを徐々に頭では理解してくるも、感情は追い付いていない。自分が、レイヴァル様をどう思っているのかも、正直よく分からない。



 そんなわけで、わたしは半分パニック状態でレイヴァル様からのお呼び出しから逃げ回っているというわけだ。


 偶然会ってしまいそうな場所を極力避け、部屋に呼びに来られないようにその後も城の中をうろうろし続けた。いっそ、街に行って気分を紛らわそうか……。


 そんなことを思いながら歩いていると、気付くと幻獣騎士団の獣舎へ来ていた。


「あ、ラグレスさん。おはようございます!」


 久しぶりに見かけたラグレスさんは、タイガ達のお世話をしていた。


「聖女様、お早いですね」


「う……。まあ、散歩です。タイガ達元気かなと思って」


 この世界から魔法が消えて――、その影響は幻獣達にも及んだ。空を飛び、魔法を使っていた彼らの力も、同様に消えてしまっていた。「幻獣騎士団」自体が存続の危機となったようだけれど、レイヴァル様の意向もあり、現在は今までと同様の待遇となっている。

 わたしのそんな思いを察してか、ラグレスさんがいろいろ話してくれた。


「幻獣達は、もともと魔法がなくても、他の動物たち以上の身体能力があります。それに、非常に賢いので、各地に出向いて復興の役に立っているんです」


 ラグレスさんがタイガを労うように優しくなでると、それに応えるように、タイガも嬉しそうに目を細めてじっとしている。


「それに、今後どのような立場に置かれようとも、もう、我々は家族のようなものですから、何事にも動じません」


「それは……よかったです」


 ラグレスさんの顔は晴れ晴れとしていて、わたしまで元気を貰えた気がした。


「ところで」


 タイガをなでる手を止め、ラグレスさんがわたしに向き直った。


「私の勝手な憶測で発言することをお許しいただきたいのですが……聖女様は思い立てば行動される、そういう方ですよね」


「え」


「今、何を迷っていらっしゃるのですか?」


 ラグレスさんの真っ直ぐな言葉に、頭をガンっと殴られた気がした。


「貴女が恐れているのは何ですか?」


「……何でしょう? 自分でも、よく分からないんです」


「道が見えないのであれば、感覚で進んでみるのも手かもしれません」


「そうですよね」


「……まあ、悩んでいる聖女様も、十分魅力的ではあります。思う存分、もがいてみればいいでしょう」


 そういうと、ラグレスさんの大きな手が、わたしの頭にぽん、と乗せられた。


 ちょっと面白がられているような気がしないでも、ない。


 それでも、ラグレスさんの優しさが嬉しい。そう、だよね。レイヴァル様と、ちゃんと向き合おう……!




 獣舎を後にして、1人決意している時だった。


「ぎゃっ!!」


「……」


 しまった……考えていた人が突然目の前に現れるとは……思わず叫んでしまった。


「れ、レイヴァル様……おはようございます……」


 目の前の顔は、怒りを通り越して、呆れている表情だ。きっと、いつまで経っても逃げ回っているわたしに、直接会いに来てくれたのだろう……。がんばれ、自分! ちゃんと話を――。


「……そんなに嫌でした?」


 ……。レイヴァル様からかけられた第一声。えっと。そう、だよね、ここまであからさまに逃げていたら、嫌がって逃げていると思われても仕方がない。


「い、いえっ! 決してそのようなことでは!!」


「では、なぜ避けるのです?」


「……そんな、避けてなんか……」


 続きを言おうとして、口ごもる。さっきまでの決意も、空気が抜けた風船のように一気にしぼんでくる。


「いえ……すみません。その……レイヴァル様の言う通り、思いっきり避けてました」


 無言でその場に立つレイヴァル様。わたしが言葉を続けないかぎりは、この場から逃れられないだろう。


「わたしなんてレイヴァルさまから見たらおばさんのようなものですし」


「……」


 ん……


「その、魔法もなくなって、聖女として全く役立たなくなったわけじゃないですか。グレンフェル家も取りつぶしになって後ろ盾も何もないただの一般人ですし」


「……」


「つまり……レイヴァル様は雲の上の人すぎて、わたしなんかとてもじゃないけれどつり合いが取れないと思うんです」


 なんだか……とっさに口から出る言葉はどれも違和感のある……



 そして。



 その瞬間の……怒りと悲しみが混じって揺れるレイヴァル様の瞳を……わたしは一生忘れられない。



「ユーナさまのお気持ちは、よくわかりました。……もう、我儘は言いませんので、ご安心ください」


 あ、今にも泣きだしそうな表情。それでも、レイヴァル様は口角を上げた。


 どこか遠くで、他人事のようにレイヴァル様の顔を見ている気分のわたし。それ以上は、何も言葉が出てこない。


 ここまですらすらと出てきた言葉も、自分を守る予防線、なのかもしれない。


 だめだ、()()()の話は慣れていないからどうしていいかわからない。


 ……ってこれも、言い訳か?


 ぐるぐるとまとまらない思考のまま黙っていると、レイヴァル様が立ち去った。その後、わたしはその場に張り付けられたように動けなかった。



 そこに立ったまま、しばらく時間が経つと、今度は別の感情が込み上げてきた。



 ……何を、やってるんだ自分は。



 余裕がないのは、自分だけだと思い込んで。


 誠実に、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれた相手に向かって、なんて言葉をかけてしまったんだろう。



 レイヴァル様はずっと待っていてくれたと言っていた。そこまで、想っていてくれた人に対して、自分がしたことと言えば、逃げ回ることと、言い訳をしたこと。



 ……今までで一番、自分で自分を嫌いになりそうだ。

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