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2.レイヴァルの想い

 今、わたしの体は壁に寄りかかり、目の前……触れるほどの距離にレイヴァル様の美しい顔が迫っている。ちらりと両脇に目をやると、わたしの体はその場から動けないように、レイヴァル様の両腕で壁との間にがっちりと捉えられている。


 これが……噂の「壁ドン」か!


 感動する暇もなく、わたしはうろたえていた。


 どうして……こうなったんだっけ?


 わたしは、ついさっきまでの記憶を呼び覚ましていた。



 ・ ・ ・



 レイヴァル様と楽しんだ祭りの夜――。二人で庭園を散歩していて、近い将来の話を語り合っていた。


「わたし、ひと段落着いたら、街でなにか仕事をしながら暮らそうと思ってるんです」


 わたしの一言に、レイヴァル様のただでさえ大きな目が、更に大きく見開かれた。


「……なぜ?」


 その時のレイヴァル様の声は、思ったよりも低く暗い気がした。


「この世界から魔法が消えた今、わたしの聖女としての役目は終えたと思うんです。いつまでもお城に居候するのも悪いので、わたしはただの一般人になって、街の仕事を探そうと……それはそれで気が楽かなって」


 レイヴァル様の瞳は揺れ、表情にはうっすらと怒りのようなものを感じる。やっぱり、聖女としての役目をきちんとこなさないことが許せないのだろうか? 


「もちろん、呼び出されたらいつでもお城にかけつけますよ。オーク村にも定期的に通っていろいろお手伝いしたいし、けっこう充実していると思うんです……け……ど」


 レイヴァル様の反応がないことに慌てて、早口で話しているところに、急な壁ドン。



 そして、現在に至る。ときめくどころか、こんなに恐怖を感じるものだったとは知らなかった。


「それ、本気で言っています?」


「え、はい……」


「……」


 数秒の沈黙の後、深い、深い……ため息。……なんだか、既視感。最近はレイヴァル様に呆れられることが多い気がして。……どうやらわたしは、いつもレイヴァル様の望んでいるような返答ができないらしい。それでも、どうしていいものか、何が正しい答えなのかわからず、無言でレイヴァル様の顔色をうかがう。

 そして、こんな時でも、レイヴァル様の整った顔が気になってしまう。金色に輝く瞳はここまで近くで見たことはなかったけれど、まるで宝石のようだし、お肌もうらやましい気持ちが起きないほど白くすべすべで美しい。でも……

 なんだか、以前より男らしい雰囲気になったと思う。背もすっかり越されて今のわたしは見下ろされているし、両側に伸びる腕は剣の練習の賜物か、細いながらも筋肉質な男性の腕そのものだ。


「……まさか、ここまで何も伝わっていないとは」


「は、はい!?」


 真剣な話の途中で余計な雑念に囚われていたため、わたしの声はひっくり返った。


「ユーナさまは、私のことを一度でも男として見てくれたことがありますか?」


 はい、今、正に思ってました。……などとは死んでも口にできない。……ん?


「え、レイヴァル様は男性ですよね……?」


 ええ!? まさか、あそこまで女装が似合うということは……実は女の子だった? いやいや、まさか、そんな。なにを混乱してるんだ自分は。


 そんなわたしの思いを察したのだろうか、レイヴァル様の表情にさらに陰が落ちた……気がする。


「冗談、ですよね~……」


 わたしが取り繕うように笑ったその瞬間……レイヴァル様の顔が更に目の前に近づくと……反応する間もなく、唇が重なった。


「ちょっ……待ってくだ……」


 慌てて距離をとろうとするも、後ろから頭を押さえられ、顔を動かすこともできない。そのまま、しばらく息もできないままレイヴァル様に口づけされていた。



「……はぁっ……」


 ……しばらく経って……何とか顔は離してくれた。それでも、体は身動き取れないようにレイヴァル様の腕の中にしっかりと抱え込まれて全く動けない。レイヴァル様にこんなに力があったとは……


「レイヴァル様……あの、離してもらえませんか?」


「いやです」


「……」


 えー……。どうしようかと困り果てていると、レイヴァル様が口を開いた。


「私がもっと成長してから、ユーナさまが気付いてくれたら、……とそんなことばかり願ってずっと待っていたのですが……このままだと年老いて死にそうです。もう、やめました」


「レイヴァル……さ、ま」


「私は、ユーナさまが好きです。もちろん、1人の女性として、です。ユーナさまにずっとそばにいて欲しい。ユーナさまでなければ嫌です」


「え……ええと」


 突然のレイヴァル様の告白……。優しく甘い雰囲気ではなく、追い込まれ、切羽詰まったヒリヒリした感じが伝わる。


 ずっと、年下で可愛らしい弟のような存在だと思っていた。それに、異世界の王様というものが余りにも自分の存在と遠すぎて……正直、自分にそのような想いを向けてくれていると気付かなかった。


 わたしは……


「ごめんなさい……何か言わなくてはいけないのはわかってるんですが……頭が真っ白で」



「……いえ。こちらこそすみません。強引な行動をとってしまいました」



 気付くと、わたしの体はレイヴァル様の腕から解放されていた。わたしを見て薄く微笑んでいるレイヴァル様の瞳はそれでも寂し気で――……。


 それ以上何も答えることができないまま、その夜は自室に戻った。

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