キラキラしたもの
注)本文中にある名称は実在の物・人・団体とはなんら関係ありません。
……固有名詞、出てこないですけど。
夏の暑い日、君が校庭を駆け抜ける。
私はそんな君の姿を目で追いかけるけど、キラキラ眩しくって見つめられない。
君が、私のそばにいてくれたらいいのに。
君が、私だけに微笑みかけてくれたらいいのに。
君が、私だけにこっそり弱音を吐いてくれたらいいのに。
ずっと前からそう思ってるけど、そんなこと言えなくて。
現実では、君は私ではない誰かのそばにいて、
君は私ではない誰かにだけ微笑みかけて、
君は私ではない誰かにだけ弱音を吐いてるんだろう。
私は君の隣には不釣り合いで。
こんなに好きなのに、彼には振り向いてもらえず。
神様って不公平だ。
君の姿を目で追いかけてたら、涙が溢れそうになった。
こっそり見てるしかできないの。
見てるだけじゃどうしようもないけど、見てるしかできない。
好きって言いたい。
◆◇◆
今日も暑いな。
そう思いながら、校庭を走る。
乾いた砂が舞い上がって、暑い空気と一緒に肺に入って息苦しい。
この時間になるといつも、校舎の窓からの視線を感じる。
薄汚れた校舎の壁も、太陽の光を反射してキラキラ眩しく見える。
いや、君がそこにいるからかもしれない。
君は、一体誰を見つめているのだろう。
その熱っぽい視線の先が俺だったらいいのに。
その微笑みの相手が俺だったらいいのに。
君は、俺が見つめ返すと目を逸らす。
君は、俺が微笑みかけると泣きそうな顔をする。
君は、俺が話しかけようとすると逃げてしまう。
きっと俺は嫌われているんだろうな。
君に好かれている男が羨ましい。
神様は不公平だ。
俺は君に嫌われたくないから、君の横顔しか見つめられない。
本当は君の顔を正面から見たいのに。
それすらできなくて辛い。
好きだって言いたい。
◆◇◆
突然の夕立、傘を持っていなくて昇降口で立ち尽くす。
こんなとき、君が私に声をかけてくれたりしないかしら?
そんな都合のいい妄想をしても、君は私の事なんて気にも留めないんだろう。
気配を感じて振り向くと、廊下の向こうに君が居た。
君が何か言いたそうにしたけど、怖くて逃げてしまった。
君は私から目を逸らし、そのまま傘を差して校門から出ていった。
他の人たちもどんどん下校していって、私一人が取り残された。
◆◇◆
君が傘を持っていなくて困っていそうだった。
俺のでよければ傘を貸したのに。
俺は余程嫌われているんだな。
傘を差してトボトボ歩く。
小さい傘でも、君と一緒に歩けたらよかったのに、
なんて妄想をしてみる。
君は小さいから、並ぶと俺の肩くらいだろうか。
どんどん雨足が強くなるので、君のことが心配になった。
ちゃんと彼氏が来て、傘に入れてもらえたんだろうか?
踵を返し、来た道を戻る。
「おい!」
豪雨の中、ずぶ濡れの君がトボトボ、こちらに向かって歩いてくる。
傘を持って君に駆け寄る。
「あ…。」
「なにやってんだよ!ずぶ濡れじゃないか!」
「……。」
俯いた君が微かに震える。
しまった、泣かせてしまった。
これでは益々嫌われてしまう。
傘に入れと肩を抱き寄せたくても、君が壊れそうでできない。
濡れた夏服に透けた下着の線が目に毒で、ドキドキする。
濡れた鞄からスポーツタオルを取り出して、君の肩に掛けた。
「ちょっと湿ってて汗臭いかもしれないけど、無いよりマシだろ!」
そのまま俺の傘も君に握らせて、俺は君から走って逃げた。
◆◇◆
君が私にタオルと傘を貸してくれた。
優しくて余計に泣けてくる。
彼女だけじゃなくて、こんな私にも優しくて。
タオルと傘をどうやって返そうか、途方に暮れる。
君の匂いがするタオルを肩に掛けたまま、君の後を追う。
まだ雨が降っているのに、傘も差さずに走っていった。
君が嫌じゃなかったら、相合傘が良かったのに。
そう思ったのも束の間、夕立が止んで、空が明るくなった。
雨が空気の汚れを洗い流して、清々しい。
君の家の前までたどり着いた。
ずぶ濡れの君が空を見上げている。
「あ、あの、傘、ありがとう。」
「虹…。」
「え?」
君が見上げる先を見る。
大きな虹が出ていた。
「キラキラだな。」
「うん。キラキラだね。」
「君も。」
「…私より、そっちの方が眩しくて。」
二人で虹を眺めながら、無言になる。
「……」
声にならない二文字が君の耳に届いたか。
5年前に書いたオリジナル小説を自ブログから転載しました。




