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狗奴国との戦端が開かれた。
女王を弑逆された報復の戦いを大義に邪馬台国は攻めに攻めた。
一方、狗奴国にとって青天の霹靂、寝耳に水の出来事であった。
卑弥呼が斃れた事さえ、知らなかった狗奴国王は、この戦いを邪馬台国の暴挙として激怒した。
序盤は虚をついた邪馬台国の軍勢が破竹の勢いで狗奴国を攻めたてた。
しかし、狗奴国領内の奥に入ると状況は一変する。
狗奴国は守りを固め、迂闊に野戦に応じようとはしなかった。
両者、睨み合いを続け、膠着状態が一か月以上過ぎた。
そんな最中、狗奴国王はその報に狂喜した。
「まことか!」
「はい、間違いありませぬ。呉より軍勢五千到着とのことです」
「これでこのクニは守られた」
「はっ!」
「しかし、この度の戦、どうしてくれよう。このままでは済まさんぞ」
狗奴国王は歯ぎしりをする。
「王よ」
呉の大使、鄭華が進み出る。
「呉の軍は屈強。これを契機に一気に邪馬台国を奪ってしまうのはいかがかと」
「・・・・・・」
王は沈黙し、思慮深く考えを巡らす。
「この倭をひとまとめにする好機でありますぞ」
側近も大使に同意する。
「うむ、悪くない・・・が、すべてはこの一戦。邪馬台国の脅威を一蹴して後、状況をみて計ろう」
「はっ!」
「すべての是非は、この戦いに在り。退ければ、おのずと道が開けよう」
王は静かに言った。
夕刻が過ぎ、世界が闇に覆われようとしていた。
王は対峙する邪馬台国軍の方角を睨み、勝利への自信を滲ませていた。