7
壱与達が降殿してから二日後、彼女は卑弥呼が斃れた神殿魂座に立っていた。
正確には立たされたのだ。
隣に狗呼がいる。
剣を掲げ民達に大号令を発していた。
壱与はそれを心ここにあらず、うわの空で聞いている。
何故、自分はここに立っているのだろうか・・・。
止めどなく同じ事ばかりか思い浮かぶ。
そんな自分の心に言い聞かせる。
女王だからここにいるのだと。
狗呼の号令は続いている。
「ここで立ち上がらなければ、我がクニはクニであらず・・・」
(これが、お母様の弔いなの?でも、お母様はきっと望んでいない)
「敵国狗奴国を討ち滅ぼすべし!」
新王の言葉に民達は熱を持って歓声をあげる。
狗呼は満足そうに頷くと、壱与の方を向き、恭しく一礼をする。
「これは新女王壱与様の意志でもある。亡き女王の志を受け継ぎ、我らを導かれる為に、我らと共にある事を決め、自らの意思で森神殿を降りられた」
(違う!)
と、壱与様は言葉に出せなかった。
民達はどよめき、そして一部からは喝采の声があがった。
「さあ、壱与様」
狗呼は民達の方へ手で指し示して、彼女へ言葉を促した。
事前に黙って立っているだけでいいと、狗呼から伝えられていたので、突然のフリに彼女の頭は真っ白となる。
幼い壱与にはこの濁流に抗う術を持たない。
狗呼は壱与の耳元で囁いた。
「言うのです・・・我と共に、亡き女王の無念、クニの為に戦おうと」
(・・・嫌)
「さぁ」
狗呼の威圧、民達の熱狂に押され、抗えず壱与は叫んでいた。
「我と共に、亡き女王の無念・・・クニの為に戦おう!」
幼い新女王の決意に、民達は震える。
自分の意思に反して、出た言葉は自分でも驚くほどの大きな声だった。
狗呼の口角が歪む。
壱与は自分が傀儡に担がされたことを思い知った。
彼女はその心に、自身を嫌悪した。