弐、激流 3
弐、激流
「壱与様、きちんと禊をしないといけません」
壱与に従う巫女の十六夜が溜息をつく。
「だって・・・寒い」
「そんなのは理由になりません」
「えー」
壱与は頬をふくらませて抗議する。
「駄目なものは駄目です」
十六夜は壱与の手を引くと、真冬の泉に入っていく。
「うわ~、冷たい」
片足だけ、水につけた壱与は、そこから動こうとはしない。
「どうしたのですか、壱与様、最近、変ですよ」
「・・・・・・」
壱与は無言となる。
十六夜は分かっていた。
卑弥呼という大きな存在が亡くなって、寂しさ、悲しさ、いろんなものから逃れるために甘えが出ているのだと。
だが、十六夜は心を鬼にする。
おまけには、自分は寒い泉に全身を浸かっているのに、壱与はそうでないという状態も許せないのだ。
「う~ん」
十六夜は壱与の手を引っ張る。
「い~」
踏ん張る壱与。
互いに譲らない・・・その果てには。
壱与は足を踏み外し、よろめきながら、十六夜に被さり二人して泉の中に倒れた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
泉の側で焚火を囲み二人は対峙していた。
お互いに無言で、長い間、話そうともしない。
壱与は枯れ木を火の中へくべた。
続いて、二本、三本ぽんぽんとほおり投げる。
黙って見ていた十六夜は、ついに我慢できなくなり、
「壱与様、そんなに入れたら火が消えてしまいます」
「・・・・・・」
ふくれっ面の壱与。
「・・・壱与様!」
「分かっています!」
壱与は苛立ちを抑えきれずに立ち上がると、素裸のまま、さっさと神殿の方へ歩いて行った。
「・・・・・・卑弥呼様・・・ふう」
十六夜は去っていく、壱与の後姿を見ながら、深く溜息をついた。




