八、奪還 25
八、奪還
馬脚を翻し、森へ再び戻り王神殿を目指す。
電光石火の作戦だ。
なりふり構わず、馬を走らせる。
やがて、陽もとっぷりと暮れ、ただでさえ薄暗い森が真っ暗となってしまう。
しかし、火を使えば見つかってしまうので、夜目の利く十六夜を頼りに馬を走らせる。
森を抜けた頃には、完全に夜の帳が降りていた。
四人にとっては、それが好都合で夜陰に紛れて王殿を目指す。
神殿が近づくにつれ、怒号や鬨の声が聞こえてくる。
戦が行われていた。
「誰が・・・」
難升米は呟いた。
「誰とは・・・あの方しかおるまい」
「張政殿か」
「左様」
にやりと笑い、夜邪狗は指さす。
その先には魏の旗が翻っている。
「こうしてはおれぬ。壱与様」
難升米は後ろの壱与に言った。
「はい」
「この千載一遇の好機、逃してはなりませぬ」
「はい!」
「しっかりと捕まられよ。はっ!」
難升米は手綱を引き、馬を加速させる。
「難升米、推参!」
自慢の大剣を振りかざし、戦の中へ割って入り、一気に敵を蹴散らす。
「張政殿!」
混戦の中、難升米は大音声で叫ぶ。
「おお、難升米殿」
女傑張政は自ら戦場の真っただ中で、指揮し把流の軍を押し込んでいく。
「無事か」
「無論」
張政は戦いの最中、ちらり難升米を見た。
後ろには壱与がいる。
「これは・・・」
彼女は一人呟き、思わず笑みがこぼれる。
そして、
「行かれよ!邪馬台国の女王壱与よ。我らに道を示されよ」
張政の甲高い声が、壱与の心に響いた。
「はいっ!」
壱与は叫び、決意を固め、前だけを見据える。
「壱与様」
難升米は彼女を促す。
大きく頷く。
壱与の全身に力が漲る。
ほとばしる思いとともに発した。
「我は邪馬台国女王壱与。女王の名において命ず。道を開けよ!」
どこまでも通る、凛とした声。
戦場は一瞬で静まり返った。
戦いの場が割れて王殿への一筋の道が出来る。
壱与と難升米はその道を駆ける。
兵士達はただ、その姿を見つめ続ける。
それは、刹那であり、皆の目に強く焼きついた。




