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「さすがだな。夜邪狗」


 難升米は言葉一つで、敵を追いやった夜邪狗の弁舌に感心した。


「いや、無益な戦いは無用だ」


 夜邪狗はそう言うと、馬を降り壱与に深々と平伏した。


「よく、ご無事で壱与様」


「夜邪狗。ありがとうございます」


 壱与は丁寧にお礼を言う。


「しかし、此度の突然の暴挙、どういう事なのでしょうか」


 十六夜は不安な表情を隠そうとしない。


「おそらく・・・」


 夜邪狗は喋るのを一旦止め、思案しながら続ける。


「大王狗呼はもう・・・この世にはいないでしょう。これから邪馬台国はさらに激動の時代となりましょうぞ」


「壱与様」


 夜邪狗は言った。


「壱与様」


 難升米も続いた。


「このクニの為に、一命を投げる覚悟はおありか!」


「はい」


 壱与は決意に満ちた表情で即答した。


「良し!」


 難升米は喜びで破顔した。


「そうと決まれば、まずはクニを離れましょう」


「クニを離れるとは?」


 十六夜は夜邪狗の言葉に訝しがる。


「力を備えるという事ですか」


 壱与は言った。


「左様、邪馬台国傘下のクニグニを壱与様の元に結集させ、いずれ・・・いや必ず邪馬台国を奪還します」

 

 夜邪狗の言葉に難升米は大きく頷いた。


「わかりました」


 壱与は即答する。


「しかし・・・」


 夜邪狗は呟いた。


「どうしたのだ」


 難升米は首を傾げる。


「いや、よい今は。とにかく急ぎましょう」


 壱与、十六夜は難升米、夜邪狗の後ろへ、馬の背に乗り駆ける。

 深い森をひたすら駆ける。

 辺りが開け、森を抜けると、まもなくクニ境へと近づく。



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