七、反転 21
壱与と十六夜は周りを取り囲まれていた。
「あなた達は何者ですか。主に会わせなさい」
壱与は静かに言った。
「今から死ぬ者の言葉とは思えんな」
一団の長らしき男が返す。
「私は邪馬台国の女王ぞ!」
壱与は一喝した。
男は高らかに笑う。
「邪馬台国女王だと!クニ一つ守れない巫女が!」
「・・・・・・」
「どうした。言い返してみろ!」
「壱与様」
十六夜は壱与の表情を見た。
彼女の決意に満ちた表情は崩れない。
「私は必ず良い女王になります。だから・・・」
壱与は、地に平伏した。
「あなた達の主と話をさせてください」
男は薄ら笑みを浮かべ、鼻を鳴らした。
「駄目だな。そんな弱い女王は認められない」
「・・・・・・」
なす術もない。
祈りを捧げる壱与。
「もう死ね」
男は壱与の眼前に立つと、剣を身構えた。
「壱与様!」
十六夜は壱与に覆い被さり、彼女を守ろうとする。
「私たちは認めるぞ!」
後方より大音声が響く。
難升米は鬼の形相で、馬を駆けやって来る。
「なっ!」
男が驚いたと同時に、難升米の大剣が伸びる。
男の右肩を貫くと、後方へすっ飛んだ。
「なんと、存命であったか・・・」
わずかに遅れをとった夜邪狗は、壱与が生きていたことにほっと胸を撫でおろした。
(良かった・・・このクニはまだ救われる)
「姫様、ご無事でしたか」
「はい」
難升米は満面の笑みを浮かべた。
長が倒れて怯む周りの一団に、難升米は大喝する。
「我は邪馬台国将軍難升米!女王壱与様に手を上げる者は容赦せぬ!」
大剣を高々と空に掲げて威圧する難升米に、一団の動揺は隠しようがなかった。
長は出血の止まらない右肩を押さえ立ち上がる。
「新しい世の為に戦えい!」
絶叫する長。
夜邪狗は背負った弓を身構えるなり、弦引き絞ると矢を放った。
唸りをあげた矢は、長の足元に突き刺さった。
「・・・・・・!」
「今は退け。退けばいずれ分かる」
「たかが二人と小娘なぞ」
「ははは」
夜邪狗は鼻で笑った。
「そなた達が対峙している男は、一騎当千の大将軍難升米ぞ。この程度の人数を滅するのは造作もないことだ」
「・・・・・・むう」
唸る長。
「それともやるのか、お主の命一つで、一団の命が飛ぶ」
「・・・・・・」
長は目を閉じた。
「退け、退けっ!」
撤退を余儀なくされる一団。
長は一瞥をくれ、その場を後にした。




