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壱与と十六夜は森の奥の奥へと進んだ。
やがて鬱蒼とした森の視界が開けると、一際大きな巨木が聳え立っていた。
壱与は巨木の前まで足を進めると止めた。
「これは・・・」
十六夜は呟いた。
「昔、お母様と来たことがある」
壱与はそっと巨木の幹に手をあてた。
それは幼き頃のおぼろげな記憶。
卑弥呼に手を引かれて、この巨木に立っていた。
懐かしい思い出。
「・・・壱与様」
十六夜が心配そうな顔をして呟く。
壱与は、そんな彼女の気持ちを察して、
「大丈夫。きっと」
と言い、振り返り頷く。
それから木へ向き直り静かに目を閉じた。
巨木は静かに揺れた。
壱与は、刹那、世界が暗転したかのように感じた。
ほんのわずかの間に、永い長い記憶の物語が紡がれ溢れ出す。
巨木が語る物語の最後には、卑弥呼が現れて微笑みかけた。
彼女の閉じた瞳から涙が溢れだす。
それから・・・。
ゆっくりと目を開く。
「壱与様・・・」
十六夜は声をかける。
壱与は、より強い決意の光を瞳に宿し言った。
「戻りましょう」
渡された思いとともに、壱与は再び走り出す。
敵のいる真っ只中へ。




