17
把流の野望への衝動は即、行動へと移される。
難升米と夜邪狗は王殿に登庁する門前で、見知らぬ一団に囲まれる。
「なんだ、お前たちは!」
難升米は大喝する。
「・・・かかれっ!」
彼の声を無視し、長が叫ぶと一団は二人に襲いかかる。
一閃。
難升米の大鉄戈の一振りで、数人が倒れる。
「この程度の人数で、我らの命を狙おうとは笑止!」
夜邪狗は叫んだ。
長は難升米の恐るべき武の力に、次の命を出すのに躊躇した。
その間隙をつき夜邪狗は動く。
刹那に長の後ろに回り込み、短剣を喉元につきつける。
「首謀者は誰か・・・」
夜邪狗は表情一つ変えることもなく、短剣に力を入れる。
「言わぬ!絶対!」
長はそう叫ぶと、自らの舌を噛み切って絶命した。
「見事」
夜邪狗はその潔さに感心する。
残る者達は長の最期を見て、蜘蛛の巣を散らすかのこどく去って行った。
「夜邪狗どういう事だ」
難升米はいきなりの強襲に眉をひそめる。
「・・・はっきりとした事は分からぬが」
夜邪狗の聡明な瞳が光り、考えを巡らし呟いた。
「大乱の前触れ・・・か。いずれにしても・・・」
「いずれにしても?」
難升米は、訝し気に夜邪狗の言葉に続く。
「少なくとも、この王殿には我らの居場所はなくなったのであろう」
「それは・・・」
「卑弥呼様の時と同じ」
「・・・・・・」
「大王、狗呼の死」
「まさか!」
「有り得ないことはない・・・実際、あり得ないこと(卑弥呼の死)が起きたのだから」
「しかし、誰が!」
「・・・いずれ事を成そうと考えている人物・・・大国と敵国の誰か・・または王に身近な者」
夜邪狗は思わず、苦笑した。
それは、やろうとしていた計画を先んじて実行された自嘲の笑い。
「なせ、そう言える」
難升米は彼の含みを帯びた笑いを憮然と見つめ聞いた。
「ふふ、話は簡単だ。我らは必要が無くなったから殺されようとした。しかも、目立つ王殿の目の前で見せしめのようにな」
「むう」
「な、簡単だろ。となると、一部の限られた人間しかこんなことは出来ない」
「反乱か」
難升米の言葉に夜邪狗は頷いた。
「ならば、我らはどうすれば・・・」
難升米の問いに、夜邪狗は腕を組み、左手で顎をなで、しばし思いを巡らせる。
「情勢を見極めなければいけないが・・・しかし多少、早まったが、立つべき時が来たのかもしれん」
「・・・夜邪狗」
「ああ」
次の言葉は二人で同時に重ねた。
「壱与様を!」
夜邪狗は言葉を続けた。
「真の邪馬台国の女王に掲げるのだ」
そう言うと、二人は頷き合う。
踵を返し、森神殿へと馬を走らせた。




