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邪馬台国軍の退却も半ばを迎えた頃、ついに彼方から鬨の声があがった。
「ふはは、意外と早く嗅ぎつけおったわい」
難升米は豪快に笑うと、愛馬に跨った。
壱与も馬に跨る。
「壱与様、決して離れぬよう。そしてこの戦しっかり目に焼きつけなされ」
「はい」
「良し!行くぞ!」
難升米は叫び号令した。
配下の屈強な兵士達が、偉大な将軍の命に魂を鼓舞させる。
「とにかく、軍がこの地を撤退するまで、この地を守り抜け」
山間に挟まれた間道は幅が狭く、現有の勢力で戦うには、もってこいの地形であった。
背水の覚悟で邪馬台国の兵士は、勢いに乗る狗奴国軍との戦いに臨む。
狗奴国軍は間道に入ると、隊列を三組として突撃を開始した。
邪馬台国軍は殿隊で事にあたる。
熱と狂が入り混じり、両軍が激突する。
殿部隊が破れれば軍の壊滅は必死、難升米配下の兵士達は百戦錬磨、その辺りは熟知している。
死に物狂いで戦いに挑む。
難升米の部隊は悉く狗奴国軍の侵攻を食い止める。
しかし、多勢に無勢、少しずつ押し込まれていく。
難升米は自ら大剣を振りまわし、馬上から敵と応戦する。
「よいか、ここを死守するのだ!」
自ら戦いながら、彼は兵士達を力強く鼓舞した。
「おう!!」
戦いに身を投じる兵士達から雄叫びがあがり、全力を尽くし、敵を押し返す。
壱与は難升米の近くで、唇を噛みしめ、兵士達の生き死にの場面を涙堪えながら、じっと見ている。
間道の中で、押しては押し返され、押しては押し返されの戦いが長く長く続いた。
敵味方の兵士が次々傷つき倒れていく。
両軍入り乱れての混戦は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
そこへ駆けつける一人の兵士。
待望の知らせだった。
「将軍!全軍退きました」
殿の軍に朗報が届けられた。
「よしっ、よくやった皆。こちらも退くぞ!退けっ!」
難升米は高らかに叫んだ。
兵士たちは難升米の下知に応じ、戦乱から脱していく。
「難升米!」
壱与は、兵士達が退いているのに、その様子をじっと眺め動かない難升米に話しかけた。
「姫様も早くお逃げなさい。なぁに、私は、もうひと暴れするだけですよ
難升米はカラカラと豪快に笑った。
やがて、最後の邪馬台国の兵士が離脱した。
その頃合いを見計らい、彼は馬腹を蹴り、敵軍目掛けて単身突撃する。
「うぉぉぉおおお!暴れ足りんわ!」
狗奴国の兵士を蹴散らし、突き進む。
さらに奥へ奥へと。
「アイツか」
馬に乗り、全身を防具で身を固めている将が、兵士達の合間から見えた。
追撃を指揮する将だと確信した難升米は、恐るべき速さで狗奴兵を倒し、大剣を一閃する。
次の瞬間、将は馬から崩れ落ちた。
「ふん」
難升米は馬を翻し、疾風の速さで退避する。
ほどなくして、彼は退却する壱与達に追いついた
「難升米」
壱与の声に難升米はにやりと笑った。
「多少はやれるところも見せておかないと、後がいろいろ大変ですからなあ」
すると、今度は豪快に笑った。
卑弥呼の弔い合戦という大義を持って、挑んだ戦いは結局、邪馬台国の大敗に終わった。
また大勝利を信じて疑わなかった民達の落胆ぶりは、はかり知れなかった。
そして、その最悪の結果は壱与の身にもふりかかることになる。




