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邪馬台国軍が退却を開始したのは、明け方の事だった。
夜中の撤退を選ばなかったのは、夜襲を恐れたこと、地理に疎いことがある。
それに士気が著しく落ちた状態での撤退は、かなりの危険がともなうことも要因の一つだった。
だが、狗奴国はその動向をいち早く知ることが出来た。
夜襲を行う部隊が撤退の動きを察知したからだった。
狗奴王はすぐさま、追撃を命じた。
朝焼けの薄靄煙る中、邪馬台国軍は粛々と退却する。
その光景を壱与は眦一つも動かさずに見つめている。
「辛いですか、壱与様」
「はい」
難升米は尋ねる。
「はい」
壱与はしっかりと答えた。
「ならば・・・強く・・・強くおなりなさい」
「はい」
壱与は、そのすべてを心に焼きつける。




