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壱与は唇を噛みしめていた。
戦で軍議でも何も出来なかった自分に、悔しさが波のように押し寄せていた。
「姫巫女よ」
狗呼は言葉に憤りを乗せて言った。
「はい」
狗呼の重い声にびくりと反応する壱与は、俯いた顔を不安気にあげた。
「そなたも行くのだ」
「・・・・・・」
壱与の身体は恐ろしさで硬直した。
「此度の戦の大犯はそなたにあるのだぞ!」
壱与は理不尽さを覚えながらも、邪馬台国を勝利に導くことの出来なかった責任を重く
感じていた。
戦に関わるという事はそういうこと、壱与は重々承知している。
しかし、彼女は足がすくんで動けない。
「早く行け!己が汚名を少しでもそそぐのだ」
狗呼の冷たく突き放す言葉に、壱与はすくむ足を、無理矢理一歩ずつ、一歩ずつ歩みを進めた。
壱与は陣を出る。
外には難升米が控えていた。
「壱与様!姫様の命は、この難升米が命をかえてもお守りします」
壱与の両目から滂沱と涙が溢れだし止まらない。
しゃくりかえる声で、
「ありがとう」
と何度も呟いた。
かくして、決死の撤退がはじまったのだった。




