表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘匿の島  作者: loveclock
終章
28/28

おまけ

 驚くほどに車内は静かだった。

 平日であっても高速道路を走る車の数はそこそこに多い。もしかしなくても、ほとんどが仕事なのだろう。

 高速道路の標識に次のサービスエリアがもう間もなくであることを知らされると、本城は人差し指でウィンカーを切り車線を変更した。入り口が見えると、アクセルペダルを緩め車は減速する。

 短く細い道路を抜けると、途端に空間が広がる。広大なサービエリアには意外な数の車が停まっており、本城は店の入る建物のほど近い所に停めた。車のデジタル時計は午後の二時を表していた。

「飯でも食おうか?」本城はまっすぐ前を向いたまま言った。

 返事はない。ちらりと横を見れば、九州からずっと助手席に座っていた少年はシートに深く身を預け俯いていた。本城がじっと様子を伺うと、寝息が聞こえてきた。きっと疲れ果ててしまっているのだろう。

 あんな大雨の中を一心不乱に走り回ったのだから、無理もないと本城は頭を振った。

 高校生を一人、車内に置いていくことに抵抗もあり、迷ったが結局は窓を少し開けるとエンジンを切った。それほど暑くもないと無言で言い訳を重ねる。台風はまるで根こそぎ洗い流すかのように夏の陽気と熱気を奪い去っていった。

 自分で言い出したことだからと自身にも言い聞かせ、少年には言わずにいたが、流石に本城自身にも、かなり疲労が溜まっていた。東京と九州を自動車で往復するのは、なかなかに肩が凝る。

 適当なファストフードと飲み物を買って、車内で食べればいいだろう。本城は財布の入った鞄を持つと車を出た。一応、外から車内を覗き込むが助手席に変化はない。車に鍵をかけると駐車してある車の隙間を縫って、早歩きに道路を横断した。

 仕事関係の人ばかりなのかと思いきや、家族連れも多い。自分と同じ年齢くらいだろう男性は、両手を子供たちに引っ張られている。ベンチでは母親と一緒にソフトクリームにありつく子もいた。口周りをべたべたに汚し、呆れた様子の母親にハンカチで拭われていた。

 もしかしたら自分にも、あんな未来があったのかもしれない。

 過去についての仮定は何も生み出さない。本城が彼らから視線を切ると、鞄からわずかに振動が伝わった。中を覗き込むとスマートフォンが震えていた。

 表示されている名前を見ただけで。本城は苦笑を浮かべてしまった。

 タップしてから耳に持っていく「武田か」

「どうもっす。元気にしてましたか?」

「ああ。元気だよ。どうしたんだ急に」

「声が聞きたかったんですよ」

「露程にも思っていないだろう」

「ばれましたか」言って電話の向こうの男はへへっと笑った。「俺が渡した資料、役に立ちましたか?」

「ああ」それが本音だろうとは言わずに、本城は遠くに見える自分の車に視線をやった。「そうだな。助かったよ」

「それで、もう江古島には行ったんですか?」

「ああ。帰りだ」

「ええー」と武田は心底残念がった。「呼んでくれれば一緒に行ったのに」

「お前だって忙しいだろう」

「あんな面白そうなネタをちらつかせられて、動かない奴はいませんよ」

「そうか、それは悪かった。また今度、面白そうな話を見つけたら教えるよ」

「お願いしますよ、本当に。もう東京ですか?」

「いや」本城は建物の屋根を見上げた。「養老だ。サービスエリアに着いたばかりだ」

「じゃあ、赤福をお願いしてもいいですか。今回はそれで勘弁してあげます」電話の向こう側で、笑い声が聞こえる。

「構わないが、売っているのか?」

「そのはずっすよ」

「渡すのは、早くても明日になりそうだが」東京に着くのは、どう短く見積もっても日も暮れた頃になりそうだった。もしかしたら、日付が変わるかもしれない。

「じゃあ、また連絡しますよ。聞きたいことも山ほどありますしね」

 本城はまた自分の車の、特に助手席を見た。「それには許可がいるかもしれないな」

「許可?」

「ああ、そうだな―」本城は言葉を探していたが、結局、諦めては自分に苦笑した。とても口頭で説明できるような出来事ではない。江古島からの帰りの船で、彼に言ったのは嘘でも出鱈目でもなかった。

「何か面白いことでもあったんですか?」

「いや、そうじゃないさ。それにそんなことを考えるのは彼に失礼だ」

「訳が分からないんですけど」

「楽しみにしてるといい。いつか彼が話そうと決めたときは、俺からお前を勧めておくよ」

「それは楽しみですね」

「ああ、じゃあ―」本城は商業施設に向かって歩き出した。「―そうだ、お前の勧めてくれた通信講座のボクササイズ、役に立ったよ」

「へえ」武田は素直な声を出した。「それは良かった」

「思わぬ形で助けられた」

「その借りを返して貰うためにも、この後も安全運転でお願いしますよ。俺の飯のネタもありますからね」

「言われるまでもないさ」本城は通話を終わらせた。

 建物の自動ドアで家族連れとすれ違い、店内に入った本城を旅行者の賑わいが迎える。疲れた体には甘いものがいいだろうと、本城は土産物屋に寄っては大目に名物の和菓子を買い、自分の空腹を満たすため以上に多めにハンバーガーやらを買い込んだ。

 起きていても食べないだろうなと気付いたのは店を出てからからだった。本城がわずかに持ち上げた口角を、隣を通った幼子が不思議そうにみた。

 立ち直るにはまだ時間が掛かるだろうなと思いつつも、本城は自分の車に向かって歩き出した。

 捜索編④で本城の言っていた、「落ち着きの無い男」というのは、「ダークイーター」と「帰ってきた少女」に出ている武田耀司のことです。二人には同じ大学の他学部の先輩後輩という設定があります。時系列的に「秘匿の島」は二作の間ということになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ