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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 1
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第97話 「心配と焦り」

 洋館に向かって走る馬車の中で、アギトは不満に満ちた表情を浮かべたままだった。

それもそのはず・・・、自分が短期間でレベルアップする為にサイロンから得た「龍玉」というアイテムのせいで、リュートはその代償にどこかへと連れ去られてしまったからだ。

アギトはそれを止めることすら出来ず、リュートが連れ去られてから三日程経過しようとしていた。

オルフェはオルフェで、続きの話はリュートが戻ってから・・・と再び適当な理由を付けてさっさと別の馬車に乗り込んでしまう。

結局のところリュートが戻って来るまでは、延々と馬車に揺られながら魔物が出たら退治する・・・をただ繰り返していた。

次第にアギトの、積もり積もった怒りと不満は頂点に達しようとしている。


「つーか、オルフェとサイロンって実は裏で糸でも引いてんじゃねぇのか!?

 いっつも都合が悪くなったらあの馬鹿君が登場して、うやむやにされてんじゃん!!」


客車のソファにどっしりと座って、腕を組みながらそう豪語するアギト。

疑惑の眼差しを先頭の馬車に向けながらアギトがそう言うと、ジャックは苦笑いを浮かべながらどうにかなだめようとしていた。


「あのオルフェが、リュートが戻ったらちゃんと話すって言ってるんだから・・・信じてやれ、な?

 確かにあいつは隠し事の多い奴だけど、それにはちゃんと理由があってのことだから・・・オレ達で理解してやろう。」


「そぉ言われてもぉ〜・・・、結局あとでバカ見るのオレ達なんだからちゃんと平等に情報交換するべきだと思うんですけどぉ。」


膨れっ面をしながらアギトが再び進行方向のずっと先の方に目をやったら、何かがこちらに向かってくるのが目に映った。

一瞬魔物か何かかと思ったが、どうやら違った。

一頭の馬がものすごい勢いでこちらに向かって走って来ているように見えた。

窓の外に身を乗り出して凝視したら、先頭の馬車が急に停止したのでアギト達が乗る馬車も反射的に停止して危うく外に落ちそうになったが、なんとかジャックがアギトの足を掴まえてくれたおかげで大事に至らずに済んだ。


「なんだなんだ!?一体なんなんだよっ!!」


体勢を整えようとして一旦馬車の中に戻って、それから扉をバターンと開けて向かって来た馬がいる方へと駆けだした。

先頭を走っていた馬車の中にいたオルフェ、ミラ、ザナハがすでに外に出ていて、誰かと喋っている。

よく見たら、馬に乗っていた人物はアギトのよく知る人物だった。


「あっれーーっ!?グスタフじゃんか、一体どうしたんだよこんな所で!?」


アギトはノンキな大声を張り上げて、グスタフに挨拶した。

彼はオルフェ直属の部下で、よくチェス少尉と一緒につるんでいる男だった。

いつもは腫れぼったい目がものすごく眠たそうにしているような雰囲気をかもしだしているのだが、しかし今のグスタフの顔は少し緊張の入った表情をしていて、洋館から急いでここまで馬を走らせてきたようだ。

その様子にアギトも只事ではない雰囲気を感じ取って、笑顔から不穏なものへと変わる。

オルフェはグスタフから事情を聞こうとしているところだったらしい。

いつものオルフェとはかけ離れた、軍人そのものの真剣な表情で・・・背筋をピンと張らせて、両手は後ろに組んでいた。


「それで、一体どうしたんだ!?」


オルフェの言葉に、アギトから上司の方へと視線を戻すとグスタフがかしこまった姿勢で報告した。


「今朝方、オレ達が拠点にしている洋館に龍神族の若君御一行が訪れました。

 ・・・意識を失ったリュートも一緒です。」


リュートの名を聞いた途端、アギトはカッと目を見開いてグスタフに詰め寄るように迫った。


「リュートが戻って来たのかっ!?意識を失ってるって一体どういうことなんだよグスタフっっ!!」


どういうことなのか問いただそうとしたが、後ろから現われたジャックにシャツの襟元を掴まれて強制排除されてしまう。


「それを報告しようとしているんだから、黙って聞け。」


ジャックが穏やかな口調で叱りつけると、アギトは自重して口にチャックをした。

白い目で見つめるオルフェ達はまたすぐグスタフへと視線を戻すと、グスタフも気を取り直して続きを話しだす。


「若君の話では意識を失っているだけだと言っていましたが、戦士に何かあってはいけないとチェスが軍医を呼んでリュートを

 診させたんです。

 これといった外傷もなかったので、とりあえずは若君達の言うことを信じました。

 リュートを返すとそのまま彼等は去って行きましたが・・・。

 オレ達はてっきり、全員一緒に洋館へ戻って来るものと思っていましたから・・・もしかして大佐達の方に何かあったのでは

 ないかと思って・・・。

 洋館で現在部下達に指示が出来るのはチェスだけだったんで、とりあえず曹長であるオレが馬を走らせてリュートのことを報告

 しに来たんです。

 あれからリュートは部屋のベッドで休ませているはずですが・・・、大佐・・・一体何があったんです!?」


グスタフの説明に、オルフェはすぐさま答える。


「首都を出てすぐに若君がリュートを連れ出したのだ、それは勿論・・・私達の許可の下だがな。

 しかし無事ならばそれでいい、私達もこのまま洋館へ向けて馬車を走らせるが・・・。

 どうだ、お前はこのまますぐに洋館に戻れるか!?」


「オレは大丈夫ですが、馬にだいぶ無理させたんで・・・少し休憩させないことには可哀相っすね。」


グスタフは息を切らしている馬の首筋を優しく撫でながら、心配そうな表情でそう言った。

馬の様子を見て、ミラが提案する。


「ではこちらの馬と交換してはいかがです?

 首都育ちなので足は速いですし、少し前に休憩を取ったばかりですから体力面も問題ないと思いますが。」


「では至急交換しろ。

 それからチェスに洋館周辺の警備を、フェーズ3の警戒態勢を取るように伝えるんだ。

 リュートの側には常に24時間体制で監視と看護を付けて、変化があったらすぐに対処できるようにしておけ!」


「了解しました!!」


オルフェの指示に従い、馬車の御者とグスタフの二人で馬をすぐさま交換し、馬にまたがると片手で敬礼をしてそのまま走り去ってしまった。

それを見送ってからオルフェ達が再び馬車に戻ろうとした時、アギトは不安そうに聞く。


「なぁ・・・、リュートのやつ・・・本当に大丈夫なのかな!?」


馬車のステップに足をかけて、オルフェが振り向き様に声をかけた。


「大丈夫ですよ、若君はああ見えて商売人ですから・・・一度交わした約束は必ず守るでしょう。

 もしリュートの身に何かあったとしても、洋館にいる軍医より若君の方が対処法に詳しい・・・。

 その若君が大丈夫だと言うのならば、私達はその言葉を信じる他ありません。

 さぁ、こんな所でそんなことを言っていても洋館までの道程が縮まるわけではありませんよ!?

 一刻も早くリュートの状態を確認したいのならば、さっさと馬車に乗り込んで馬を走らせた方が有益です。」


「・・・うん。」


オルフェらしい励まし方にアギトは小さく頷くと、言われた通りすぐ馬車に駆け乗って・・・馬車は走りだした。

アギトの落ち込みようにジャックは隣に座るドルチェと視線を交わしながら、様子を窺う。

アギトはいつも前向きでくよくよと落ち込んだりしたところを見たことがなかった為か・・・、この場合の対処法がわからないでいた。

とりあえず何か話題を変えた方がいいかもしれないと思ったジャックは、アギトのリュックから見え隠れしている冊子に気が付く。


「なぁアギト、そのバッグの中にある本みたいなものは一体何なんだ!?」


ジャックにそう聞かれて、アギトはちらりと自分のリュックに目をやった。

のそのそとリュックからその本を取り出すと、ジャックに渡して説明する。


「オレ達の世界の雑誌だよ、メンズのファッション雑誌。

 ファッション誌なんて買ったことねぇんだけど、前にメイドからオレ達の世界のファッションに合わせた衣装で装備品を新調して

 くれるって言ってたから、それの参考にって持って来たんだよ。

 オレが持っててもしょうがないし、欲しけりゃあげるけど・・?」


そう言われてジャックは雑誌を手に取ってパラパラとページをめくって一通り目を通す。

ドルチェは何の参考にするつもりなのかは知らないが、ジャックと一緒になって雑誌を見つめていた。

雑誌を見ながらジャックは色々と文句を言ったり、誰も聞いてないのに感想を述べたりと・・・大きな独り言を連発している。

「こんな格好じゃ戦えないだろう!?」とか、「こいつらは貴族なのか!?こんな装備じゃ大怪我するぞ」など・・・。

結局のところ・・・、ジャックとドルチェは雑誌に夢中になって、アギトを慰めるという作戦はすっかり忘れ去ってしまっていた。

小さく溜め息をつきながら、アギトは馬車の窓から遠くに見える山や空をぼんやりと見つめて・・・早く洋館に到着しないかどうか

・・・ただそれだけを考えていた。



 洋館に近付くにつれて、魔物の出現の回数も増してくる。

森の中に入って行ったからというもの、これで一体何度目の戦闘になるのか・・・アギトはうんざりしていた。

今は一分一秒でも早く洋館に辿り着いてリュートの様子を早く見たいのに、どうしてこんな時に限って魔物との遭遇で時間を取られなければいけないんだろう・・・と、アギトは明らかに焦りを感じていた。

焦りは剣を鈍らせる、それにいち早く感づいたオルフェがアギトに注意を促した。


「アギト、リュートの身を心配する気持ちはわからないでもありませんがね。

 戦闘中に気が散っていては、真剣に戦っている私達の邪魔になります。

 魔物との戦闘も修行の内だと言ったはずです、ここから先はどんな雑念も許しませんよ。

 さっきから見ていれば今の君の剣筋は、当初のものと寸分変わりがなくなっています。

 次に今のような無様な太刀筋を見せた場合には、君から剣を取り上げますからそのつもりでいなさい、いいですね!?」


全く笑顔の無い表情のオルフェに説教されたアギトは、ふてくされた表情のまま・・・小さく頷いただけで戦闘が終わってすぐに

馬車に駆け込んでしまった。

そんなアギトの態度に、オルフェはやれやれと肩を落として同じように先頭車両の馬車に乗り込む。

溜め息を漏らすオルフェに向かってザナハが声をかける。


「オルフェ・・・、アギトじゃないけど私だって一体どうなっているのかすごく気になるんだけど・・・。

 リュートは本当に大丈夫なのよね!?

 みんなあえて口にはしないみたいだけど・・・、やっぱりリュートはアビスグランドのルイドの元に連れて行かれたのかしら?」


ザナハの心配に、オルフェがにっこりと微笑み返しながら肯定する。


「連れて行くとすればアビスグランドに、まず間違いないでしょうね。

 ただ・・・会わせる人物がルイドとは限らないかもしれませんよ?

 憶測で話しをするのはあまり好きではありませんが、可能性として言うならば・・・アビスクィーンとの面会というのも考えられ

 ないことではありませんし・・・、どうなんでしょうね?

 それも洋館に戻って、目を覚ましたリュートに聞いた方が早いと思いますよ。」


「結局はそうなるのよね・・・。」


オルフェは窓の外に視線をやって、可能性を考える。


(闇の戦士であるリュートを、ルイドやベアトリーチェにただ会わせるだけ・・・とは思えませんね。

 私達の元からリュートを連れ去って約三日・・・。

 有り得ないことでもないが、精霊との契約をさせてアビスが優位に立つ為に利用している・・・という線もあります。

 今のリュートならば同属性である風の精霊との契約位は可能かもしれません、シルフとの契約さえ交わしてしまえばあとの残り

 の精霊は、闇の神子一人でも十分に上位精霊との面会の権利を得ることが出来る・・・。

 そうなればマナ天秤への道が開かれる・・・と同時に、レムとアビスの間にも道が出来るから・・・。

 これはこれでこちらにとっても計画が前倒しすることになりますから、まぁ・・・都合が良いですけどね・・・。)


オルフェはほくそ笑んで・・・、途中だった本の続きを再び読み始めた。

それから約数時間後、ようやくアギト達は洋館へと辿り着き・・・急いでリュートが眠っているという部屋へと駆けて行った。


 

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