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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 1
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第91話 「隔壁の間へと続く回廊」

 魔法陣が最下層に到着したことで、自然と自分達の回りを覆うように放っていた光は消えてしまった。

ベアトリーチェ、ルイド、サイロン、リュートの順で魔法陣から出て行くと、目の前に広がるのは黒曜石のような黒く・・・非常に

硬そうな鉱石が全体を形作っていて、まるで迷路系のダンジョンに迷い込んだような通路だった。

いきなり左右に分かれるようになっていたが、ベアトリーチェが先頭切って歩きだす。


「ついてこい、ここは迷路のようになっておるから迷いやすい。」


それだけ言うと、すたすたと後ろを振り向くことなく進んでいった。

リュートも慌ててついていく。

通路にはいくつか扉があったが、ノブも何もついておらずリュートは不思議に思っていた。

全員ただ黙って歩き続けるのでリュートは思わず小声でサイロンに訊ねると、これらの扉は自動ドアになっているが今は誰も使っていないということなので、制御システムを停止させて扉を開けることは出来ないようになっている・・・と教えてくれた。

扉の奥には大昔の施設があったそうだが、重要そうな書類やデータは全て引き上げた後だったので入る必要はもうないらしい。

ふ〜ん・・・と、リュートはなんとなく納得しながら・・・再び黙って歩き続けた。


誰も何もしゃべらないと、余計なことを考えてしまう。

よくよく考えてみれば、理由はどうあれ・・・当初では敵として登場していたルイドや・・・その敵国の女王を目の前にして、自分は一体何をのほほんと慣れ合っているのだろう?と、改めて疑問に思い始めた。

自分個人としては、特にアビスグランドに対して恨みや悔恨があるわけではないが・・・ルイドには一度、自分の親友をけなされたという過去があるので・・・、やはり素直に心を開くことは出来ずにいる。

今でこそ優しげに接してきているが・・・、それも結局は闇の戦士である自分をアビス側に引き込む為の演技にしか感じられなかった。

そもそもなぜレムもアビスも、いがみ合うばかりでお互い歩み寄って協力し合おうとしないのだろう?

サイロン達の言葉にも、お互いの世界のマナ濃度を均等に分け合えば争う必要などないと言っていた。

それをなぜ自分達だけが独占しようなんて考えるのだろう?

そんなことをすれば、マナ濃度の濃くなった世界に反応してディアヴォロの覚醒が早まるだけだと言うのに・・・。


(あ・・・、これはアビスグランドの碑文にあったことだから・・・レムの人達はそのことを知らないんだ・・・。)


それじゃ、3国間が協力し合って碑文を公開して・・・正しい歴史を理解すればいいだけの話じゃないのだろうか?

こんなことを考えるのは、自分がまだ子供だからなのかな?

大人の事情や、国同士の威厳とか・・・そういったものがそれを許さないのだろうか?


・・・色々なことに頭を悩ませていると、ベアトリーチェが立ち止まったので危うくサイロンの背中にぶつかるところだった。

到着したのだろうか?・・・そう思いながらリュートは、サイロンの後ろから頭を出して先頭の様子を覗くように見る。

ベアトリーチェが大きな扉の横に付いている「認識用ディスプレイ」のようなものに手をかざして、何か呪文の詠唱のようなものを唱えている。

その様子を見ていたら、なんだかアギトのマンションの入り口にあった防犯用のセキュリティシステムを思い出す。

呪文の詠唱を終えるとベアトリーチェの体中から黒に近い紫色の光が放出されて、その光・・・闇のマナが手をかざしたディスプレイに収束していった。

するとそのマナに反応したように、一瞬ディスプレイが点滅して・・・ガァーーッと扉が勢いよく開いた。


「ここから先が隔壁の間へと続く回廊になっている。

 皮肉にも、隔壁の間へと続く回廊の途中に・・・マナ天秤を操作する為のゲートがある。

 今は素通りするが・・・、いつかはジョゼと共にお前もここに連れて来てマナ天秤を操作させてやるから覚悟しておけ。」


ベアトリーチェがそう言ったが、リュートは曖昧な感じに頷いて・・・あえて返事はしなかった。

その様子にルイドは気付いていたのか・・・、横目でちらりと見て・・・、からかうように小さく笑っていた。

ルイドに笑われてムッとしたリュートはサイロンの後ろに隠れて、そっぽを向く。

大きな扉を抜けて、また再びだだっ広い空間に出てきて長い長い橋がかけられている道を歩いて行く。

その橋は大人が横に3人位しか並んで立てない位に道幅が狭く、しかも下をのぞいてみると黒い闇しか続いていなくて吸い込まれそうな感覚に襲われる。

まるであの闇が永遠に深くかのように、とてもとても深く・・・全く底が見えない闇そのものだった。

10分程橋を渡って行くと、ようやく向こう岸まで渡り終えたように再び壁に囲まれた通路が姿を現す。

今度の通路はかなり広々としていて、気のせいか黒曜石の壁にいくつか痛々しい傷跡のようなものがうかがえた。

リュートがその傷をじっと見つめているのに気付いたルイドが、顔だけ振り向いて傷について説明した。


「その傷跡は数年前の大戦の時に付けられたものだ。

 あの時も神子や戦士・・・、多くの兵士達がこの回廊で戦いを繰り広げていてな・・・。

 もう少し先まで行けば、まるで別の世界に来たような広大な空間へと出てくる。

 そこが最終決戦の場となった所だ、お前の知るオルフェも・・・ミラも、ジャックも・・・。

 戦いの最前線に立ったトップの実力者達が集い、熾烈な戦いをした場所になる。」


「ここが・・・、互いの兵士達が剣を交えた・・・場所。」


もっとよく・・・壁に刻まれた傷を見ようとする、それらの傷はどれも痛々しかった。

一体どれだけ多くの兵士の命が・・・、ここで散ったのだろうか?

今自分が立っているこの場所で、たくさんの人間が死んでいった・・・。

そう考えたら、今にでも戦いの様子が目の前に浮かんでくるような錯覚を起こしてしまいそうになる。

剣と剣が激しくぶつかり合う音・・・、掛声・・・悲鳴・・・うめき声・・・。

想像しただけで気分が悪くなってくる。

うっ・・・と吐きそうになりながらリュートは想像するのをやめた。

戦いなんて・・・、経験しないに越したことはない。

足取りが少し重たくなったリュートだったが、ベアトリーチェ達はどんどん先へ進んでいくので小走りに遅れを取り戻す。


ルイドの言う通り、それ程時間をかけることもなく広大な空間へと出てきた。

以前アギトがドラゴン化したサイロンと戦った闘技場よりも、ずっと広かった。

本当に別の世界に・・・、星の無い夜空のアルプス山脈にでも来たかのような・・・それ位に広くて、全くの別世界だった。

しかし依然と回りの壁は黒光りする鉱石で覆われた空間なので、息苦しいままなのは変わりなかった。

しばらく進むと、ちょうどこの空間の真ん中に位置するように(あまりに広くてここが真ん中かどうかも疑わしいが)大きなサークルが目に入った。

壁も床も全て真っ黒なのに、このサークルだけが異質だった。

まるでスポーツの試合をするフィールドのような大きな円が、ポンッと置かれているようだ。

真っ白い円がぽつんとあるので、さすがにこれはリュートから質問しなくても疑問に答えてくれた。


「このサークルは決闘の場の印・・・らしい。

 わらわにはこのサークルの意味が、あまりよくわからん。古文書や碑文には記載されておらんかったからな。

 恐らくこれに関しては龍神族の碑文に書かれておるのだろう。

 どうじゃ、サイロン?」


ベアトリーチェがサイロンの方に向き直って、逆に質問した。

サイロンは腰に差していた扇子を取り出して扇ぎ出した。


「もういい、何も言うな。

 お前が扇子を取り出す時は誤魔化す時と、相場が決まっている!!

 ・・・ということだ、リュート。

 このサークルの・・・、決闘の場という意味は不明・・・というのが答えじゃ。」


「は・・・、はぁ・・・。」


「はぁ〜、切ないのう。」


自分の出番をカットされたサイロンは、残念そうにそう呟くと扇子で口元を隠しながら深い溜め息をついた。

リュートはルイドの方をちらっとだけ見た。

もしかしたら・・・ルイドならこのサークルの意味を知っているんじゃないかと思ったからだ。

しかしルイドは答える素振りを見せることもなく、ベアトリーチェが歩き出すと何もなかったかのようについて行った。

歩き出した時・・・、ちらっとだけ・・・ルイドの横顔が見えた。


激しい苦痛に耐えるかのような・・・そんな激情を押さえた、・・・表現がとても難しいと思ったリュートは、ルイドのその顔が

目に焼き付いてしまって・・・頭から離れようとはしなかった。

ルイドのあんな顔を見たのは初めてだったからかもしれない・・・、とにかく・・・一瞬見えたルイドの顔はとても悪の首領とは

思えない・・・そんな表情だった。

リュートは戸惑いながらも・・・、とりあえず何も見ていなかったという素振りでついて行った。


広大な空間にも終わりはあるようで、再び壁が見え始めて・・・また広い空間をした通路をひたすら歩いて行く。

そんな状態が約1時間程続いた。

ようやく今までと違う空間に出てくる。

今度は明かりがうっすらとついた空間へと出てくる、今までは壁も床も黒いままで目がおかしくなるかと思っていたところだ。

自分がどこに向かって歩いているのかわからなくなる位、同じような通路ばかり歩いて発狂したくなる。

しかしやっとさっきよりはずっと明るく感じる場所に出てこれて、少しほっとした。

リュートがはぁ〜っと安堵のため息をついたのを、ベアトリーチェは見逃さず・・・キッと睨みつけた。

自分がなぜ睨まれたのかわからないまま、リュートはビックリしてびしっと顔の表情に緊張を走らせる。


「安心してどうする、ここからが最も危険な場所になるという感覚がないのかお前は!?

 ここから先がディアヴォロが安置されている隔壁の間だというのに・・・、妾なんか恐ろしさで足がすくんでしまいそうじゃ!」


そう言ってルイドにもたれかかるが・・・、あっけなく押し戻されて舌打ちする。

自分こそもっと緊張感を持ってください・・・と、リュートは心の中でつっこんだ。

気を取り直したベアトリーチェが、こほんっと小さくせき込んで・・・再び表情を引き締めらせて歩きだす。

一体どれだけ歩けば辿り着けるのだろう・・・?と、グチをこぼしたくなってくる。

こんなに奥の方まで行かなければ辿り着けないというのだから、それだけディアヴォロが危険な物体である証拠だと思った。

少し歩いた先に、再び奇妙な文様が刻まれた扉を見つけてまたしてもベアトリーチェが扉のロックを解除するような仕草をする。

今度は扉全体が妖しく光って・・・、扉が開くというよりも・・・文様の刻まれた扉自体が消えてなくなってしまった。

気にすることもなく、全員中に入って行く。


中に入って進んでいくと・・・、まるで突然雪山にでも放り込まれたかのようにゾクッと寒気がしてぶわぁっと鳥肌が立った。

自分の回りにたくさん目が付いていて・・・それがじーーっと自分を見つめているような、不安で押しつぶされそうな感覚が突然

リュートを襲ってきた。

そしてその感覚と共に、まるで巨大な生物に丸飲みにされたかのように・・・部屋全体が脈打つようにドクンドクンっと、心臓の鼓動のようなものが全体を通して聞こえてくるようだった。

それらを五感全てが感じ取るように、リュートは神経過敏になったような錯覚を起こし・・・突然、激しい鬱が襲ってくる。


苦しい・・・っ!

帰りたい・・・、こんなところにいたくない・・・っ!!

どうして僕がこんなところに来なくちゃいけないんだ!?・・・早く家に帰りたいよ!!


ばんっ!!


「・・・っ!!」


突然、背中に衝撃が走って我に返る。

すぐ横に目をやるとサイロンが厳しい表情で立っていて、リュートを見下ろしていた。

その手はリュートの背中を叩いた後で、今は優しくさすっている。


「サイロン・・・さん?・・・僕っ!?」


「負の感情に飲まれかけておった。

 ディアヴォロが安置されておる隔壁の間の近辺にまで来ると、心を強く保っておらねば・・・皆こうなる。」


「負の・・・感情?・・・これが!?」


救いようのない絶望感・・・、自分はこの世でたった一人だけなんだという孤独感に襲われて・・・激しいまでのマイナス思考に陥る。

不安で不安でたまらなくなって、寂しくて、辛くて、苦しくて、今すぐにでも逃げ出したい気持ちで一杯になる。


「孤独や不安で心が押しつぶされ、やがてどうでもよくなってしまう。

 自暴自棄に駆られて・・・最終的には自我を失い、ディアヴォロの負の感情に支配されてしまう。」


そうルイドが付け足した。

リュートはレムグランドの首都で、ディアヴォロの負の感情にあてられた人間を見たことがある。

その男は貴婦人と思われる女性を捕らえ、喉元にナイフを突きつけて・・・大声で意味不明なことを叫んでいた。

自暴自棄になって自分が何をしているのか、わけがわからなくなっている状態・・・、あれが!?

リュートは突然恐ろしくなってきた、勿論今感じている感情はディアヴォロにあてられたものではない。

正真正銘、今自分が実際に感じている本当の気持ちだ。

負の感情に支配されるということが、こんなにも恐ろしいものだとは思わなかった。

本当に・・・、本気で・・・、自分が誰からも理解されない・・・たった一人ぼっちの孤独であると確信していた。

リュートは血の気が引いたように青ざめて、微かに体が震えるのが自分でもわかった。

サイロンがリュートの状態を見て、ベアトリーチェとルイドに目線で訴える。

しかし二人はそれが出来ないと・・・、真顔のままサイロンの訴えを却下した。


「サイロンさん・・・、大丈夫っ・・・です。

 先を急ぎましょう・・・。」


気丈に振舞おうとするリュートだが、正直ものすごくキツイのが本音だった。

しかしここで引き返したい・・・なんて言えるはずもない。

・・・言いたくなかった。

ルイドを目の前にして、弱音は吐きたくなかった。

リュートは口では大丈夫だと言いながら、それでもサイロンの腕の裾に掴まって何とか自分の力で立つのが精一杯だった。


(動け・・・っ!!!

 こんな所で立ち止まっているわけにはいかないんだよ!!・・・頼むから!!)


そう自分の体にムチ打つように叫ぶと、一歩・・・また一歩と、何とか歩き出して・・・それを確認した二人は先へと進んだ。

なんとかサイロンに掴まりながらも二人の後をついていき、気が付いたら目の前に・・・今まで見たことがない位大きな扉が威圧感のあるオーラを放ちながら立っていた。

魔法陣のような文様、羅列された古代文字、壁画にあるような絵文字、その扉を見ているだけでも圧迫感が十分伝わる。

横幅が30メートル程・・・、縦には・・・30階建のマンションを見上げているようだった。

その扉に背を向けたベアトリーチェが、神妙な面持ちで・・・声を落としながら告げる。


「ここが最終地点、隔壁の間・・・。

 この扉の向こう側に・・・世界を未曽有の破滅へと導こうとしたディアヴォロが眠っている・・・!!」



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