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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 1
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第90話 「食い違い」

 リュート達は、ベアトリーチェを先頭にまずはルイドを見かけた階まで下りて行った。

魔法陣で出来たエレベーターから下りると、すぐ目の前にはまるで待ち伏せしていたかのようにルイドが立っている。

その脇には、先程エレベーターで上階へ昇った時に見かけた鎧を身に纏った男が控えていた。

ルイドとは以前にも会ったことがあるので覚えているが、こちらの男の方は初めて見る人物だった。

ブラウンの髪に口髭をたくわえて、その瞳は鋭い眼光の奥に・・・どこか憂いすら感じられる。

ジャックと同じ位はあろうかと思える程の長身で、とげとげしい黒と赤が入り混じった鎧、腰には2メートルはありそうな大きな剣を収めた鞘を下げていた。

年齢でいうと大体40代前半といったところで、魔法陣から出てきたベアトリーチェに向かって跪いていた。


「ルイド、早速隔壁の間に行くからついて来い。」


ベアトリーチェの言葉に、ルイドはちらりとリュートの方に目をやって・・・またすぐ視線を戻して話をする。


「了承したのか?・・・俺が同行することを知れば、断ると思ったんだがな・・・。」


しかしそれ以上追及することはせず、武人の男と、ハルヒ、イフォン、メイロンがこの階に残って見送る。

どうやら隔壁の間という場所は限られた者しか入ることが許されておらず、最低限の人数に絞られるのだ。

ベアトリーチェ、ルイド、サイロン、リュート・・・この奇妙な組み合わせの4人だけで、最下層まで延々と下りて行く。


各階の様子が一瞬一瞬見えるので、最初はずっとその光景を眺めていたがさすがにそれが40回位繰り返されると乗り物酔いをしたみたいに気分が悪くなってきた。

別に振動などといった揺れやエレベーターに乗った時の独特の感覚などは全くなかったが、次々と・・・古い映写機のように場面が切り替わる光景をずっと眺めているだけで、揺れの激しい船に乗っている時と同じ位の胸やけが襲ってくる。

最後には目をつぶって、口に手を当てて、うつむきながら到着を心待ちにした。


(いや・・・、到着したら今度は封印っていう問題に差し掛かるから待ち遠しいってわけでもないんだけどね・・・。)


そんなことを心の中で呟きながら、リュートは一人でじっと耐えていた。

しかしリュート以外の人間は、この魔法陣エレベーターに慣れているのか・・・ノンキに会話をしていた。


「サイロン、俺はもうミズキの里に行けるはずもないが・・・伊綱いづなは元気にしているか?」


ルイドの問いに、サイロンは困ったような表情を浮かべて頭をぼりぼりとかきだす。


「う〜〜ん・・・、あれは元気と言えるのかのう??

 確かにそれなりに過ごしてはいるが、以前にも増して煙草の量は増えておる・・・。

 全く・・・、煙草なんぞ百害あって一理なしだと・・・会う度に説いておるのに聞く耳なんてありゃーせんのう。」


サイロンの言葉に、ルイドは懐かしそうに笑みを浮かべながら「そうか・・・」と小さく呟いた。

ベアトリーチェは二人の会話に出てきた伊綱という人物のことを知らないせいか、置いてけぼりを食らったような顔になり話題を

変える。


「そんなことより・・・、ルイド!

 闇の神子がすでに氷の精霊と契約を交わし終えておるのならば、この闇の戦士を使って他の精霊と契約させようとか思わんのか?

 今まで神子を使わずにいたが、この封印を機にそろそろこちらもマナ天秤を動かさねば均衡が保てんのだぞ。

 レムの奴は相変わらず躍起になって神子を人身御供にしておる!!

 奴らがマナ天秤のバランスを崩すから、アビスのマナ濃度がどんどん減少しているんだぞ。

 このままではアビスは死活問題になってくる!!」


ベアトリーチェの声がけたたましく響いたので、さすがのリュートにもその話の内容は聞き取れた。

何やら他人事ではない話題に変わっているようで・・・リュートは密かに聞き耳を立てている。


(・・・闇の神子がすでに精霊1体と契約を交わし終えている・・・!?

 それじゃこっちと状況はそれ程変わらないってことじゃないか・・・、ちんたらしていたらこちらの方が先を越されてしまう。

 しかもそれにはなんだか僕まで関わっているみたいなこと言ってるし・・・、まぁ僕はこっち側につく気はないけどね。

 でも・・・、レム側がマナ天秤のバランスを崩している・・・って、一体どういうことなんだろう!?

 確か大佐達の話しでは、レムの方がマナ濃度が減少しているからそのバランスを平行に保つように・・・今ザナハが必死になって

 世界の救済っていう旅をしているんじゃなかったっけ!?

 なんか・・・、大佐の言っている話とアビスの女王様の言っている話と・・・大きく食い違っていないか!?

 どうしよう・・・、このことについて僕が口を挟んでもいいのかなぁ・・・!?

 でもすごく重要なことっぽいし・・・、やっぱり白い目で見られたとしても・・・話を聞くべきなのかなぁ・・・!?)


リュートがそんなことを心の中で葛藤していたら、サイロンが珍しくリュートの心の内を覗いたように口を挟んだ。


「お主ら、隔壁の間に到着するまでの間・・・リュートに話でも聞かせてやったらどうだ!?

 もしかしたら、いらぬ誤解が解けるやもしれんだろう?」


サイロンの提案に、ルイドとベアトリーチェの二人が・・・じっとリュートに視線を向けた。

リュートは少し緊張しながらも、サイロンナイス!!と思いながら・・・こくんっと小さく頷く。


「お前にしてはなかなかいいことを言うではないか、サイロン?

 わらわとしても、リュートにはぜひともアビス側の役に立ってもらいたいからな。

 いいだろう・・・、話してやらんでもないが・・・どうだルイド?・・・異存はあるまいな?」


ちらっとルイドに視線で合図して、ルイドもそれに応える。

全員が納得したことを確認してから、ベアトリーチェはリュートに向かって話し始めた。


「ディアヴォロの名を知っていたということは、恐らく初代神子の時代の話はあらかた聞かされていると思っていいか?

 確かレムに残された碑文は、7億年前のラ=ヴァースについて・・・そして、ディアヴォロが製造された理由についてが記されて

 いたはずじゃ。

 それで間違いはないか?」


「はい・・・多分。

 途中でサイロンさんが登場したから、最後まで話しを聞くことは出来ませんでしたけど・・・ディアヴォロが魔力を増強させる為

 に造られて・・・、そしてそれが大量にマナを消費するということで封印することが決定したと・・・。

 初代神子アウラ達で封印をして・・・、その封印の仕方や・・・その後神子達がどうなったのかはわからないままですけど。」


「結構!

 あらかた説明は行き届いているようだな。」


ベアトリーチェの言葉に、リュートは少なからずほっとしていた。

自分の味方を疑うような真似はしたくなかったが、真顔で嘘をつけるオルフェの話が・・・本当に全て真実を語っているのかどうか

・・・ほんの少しだけ疑問に思っていたことは隠せなかった。

しかし今の説明でベアトリーチェが納得しているということは、ここまでの話が共通の真実ということになる証明となった。


「7億年前の真実は、3国間に平等に保管されている。

 レムグランドには、先程言った内容が・・・。

 そしてアビスグランドには、ディアヴォロの性能や特徴・・・そして封印の仕方。あとマナ天秤の歴史に関して残されている。

 龍神族の里には、神子や戦士についての具体的な内容、精霊に関して、・・・そして聖剣と魔剣についてだ。

 どれも最高機密に属しており、他国の人間に明かしてはならないことになっている。

 サイロンは・・・、この通り放蕩龍神ほうとうむすこだから別にどうってことはない。」


そう言われて満足そうに高笑いしているサイロンだが、ようするに馬鹿だからって言われているようなものだとリュートは思った。

しかしベアトリーチェが今から語る言葉はかなり重要なことだと察知したリュートは、得意のメモ帳にメモ出来ないのが悔しかった。


「ディアヴォロはマナを消費して魔力を増強する為に造られたものだが、実際にはマナを喰らっていたそうだ。

 喰らったマナで自分の分身とも言える魔物を作り出し、人々を恐怖に陥れて、その恐怖や絶望から生まれる負の感情を更に餌とし

 てディアヴォロは自身を成長させていった・・・、まさに悪循環だ。

 ディアヴォロ自身を攻撃しても凄まじいスピードで治癒していく・・・、その治癒も周囲のマナを喰らって回復させているから

 普通の人間には手の打ちようがなかった。

 唯一、精霊の力による攻撃では治癒出来ないことが判明した・・・と記されていた。

 恐らくマナの源である精霊の力ならば、攻撃した時に治癒しようとしてもその流れを強制的に断絶させることが出来たのだろう。

 治癒しようとしたらそれを破壊の流れに強制転換させる・・・、これはマナの構成元素である精霊にしか出来ない芸当だ。

 本格的な封印には、精霊・剣・神子・戦士・・・これらが必須となる。

 まずは基本属性の精霊全てと契約を交わして、神子が上位精霊と契約を交わす。

 上位精霊の力で構成された剣を、戦士が装備する。

 レムならば光の精霊ルナの力が宿った聖剣が・・・、アビスならば闇の精霊シャドウの力が宿った魔剣・・・という具合だ。

 妾の代になってからはこの方法で上書き封印を行なっておらん。

 アビスに伝わっていた封印は、簡易的な封印の仕方が記されておった。

 王族は代々、闇属性を基本として生まれてくることが多い。

 ディアヴォロと同属性だと、隔壁の向こうからはこちらのことを自分の同族と感知するらしいのだ。

 それを利用して妾は、ディアヴォロを誤魔化し続けてきた。

 詳しい方法は隔壁の間に到着して、実際にやってみせるからここでは省くぞ?

 ・・・とりあえず、ここまでは把握できたか?」


ベアトリーチェの長い説明に、多少混乱しながらも・・・大体は把握した。

しかし・・・、基本属性の精霊と契約を交わして・・・神子が上位精霊と契約を交わすというくだり・・・。

これはオルフェから、マナ天秤を操作するのに必須の流れだと・・・そう説明を聞いたような覚えがある。

リュートは首を傾げた。


「あの・・・、マナ天秤を動かすのにも・・・同じような手順を踏まないといけないってことですか?」


リュートの質問には、サイロンが答えた。


「途中までは一緒じゃよ。

 ただ・・・マナ天秤を安全に操作するには両国間の精霊が必要となってくるのじゃ。

 そもそも両天秤に、それぞれの属性の割合が乗っていると想像してみるとわかりやすいと思うが、例えば闇の神子が天秤を

 動かそうとしたら闇属性が乗っている皿しか量を調整することが出来ん。

 しかも量を増減する回数が一回だけしかチャンスが与えられないとしたら・・・自分が天秤を動かすならば、一体どうする?」


質問されて、リュートは慌てながら一生懸命頭の中で天秤を想像する。


「えっと・・・、少しずつ量を微調整します・・・よね?」


「もし量を増やし過ぎたら?」


「・・・一回だけしか出来ないから、自分の皿が重くなった状態のままで・・・終わり、です・・・。」


「そうじゃ、だから両属性の精霊が必要となる。

 互いが協力し合って、初めてマナ天秤は均衡を保つことが出来るのじゃよ。

 しかし・・・長い歴史の間にその国同士の均衡自体が崩れてしもうての、今では自分達の世界にマナが溢れてさえいればそれで

 いい・・・という考えを持つ人間が現れるようになった。

 勿論、それを放っておけば片側のマナ濃度は薄れていく一方・・・次第に対立するようになって、マナの取り合いで戦争へと発展

 していく・・・、それが今の現状じゃ。」


リュートは愕然とした。

それが・・・、それがもし本当で・・・真実ならば、今レムグランドで行おうとしていることは一体何だと言うのだろうか!?


「マナ濃度は・・・、レムの方が薄れていってるんじゃないんですか!?」


リュートの質問に、ベアトリーチェが激昂して詰め寄った。


「お前はここに来るまでの間、一体何を見て来たっっ!?

 レムの馬鹿共は長年、光の神子に偽りの使命を刷り込んでずっとマナ濃度をレム側のみに偏らせ続けておるのだぞっ!?

 マナ濃度の薄れていったアビスは、9年前にようやく現れた闇の神子を使ってマナ濃度を正常値に戻そうと試みたがレムの謀略に

 よって殺されてしまった・・・っ!!

 お陰でアビスのマナは失われていく一方・・・、マナ濃度が濃くなったレムに反応するようにディアヴォロは覚醒し始めている!

 マナを独占することで、今レムではディアヴォロの負の感情がばら撒かれているのだろうが!?

 このままいけば、レムに溢れるマナを利用してディアヴォロの眷属までも出現することになるんだぞ。」


「ベアトリーチェ・・・、少し落ち着け。」


そう言いながらルイドが、興奮したベアトリーチェを抱き抱えるようにリュートから距離を離してやる。

今にも殴りかかってきそうな勢いに圧倒されたリュートは、いつの間にかサイロンに支えられている状態になっていた。

息を切らしながら尻尾をばしばしと魔法陣の床に叩きつけて、ベアトリーチェは少しずつ血圧が下がって来ているようだった。


「驚かせたな、しかしベアトリーチェの言うことももっともなのだ。

 レムグランドは・・・、自分で自分の首を絞めている状態と言ってもいい。

 確かに世界がマナで溢れれば緑豊かな自然が手に入ることだろう・・・、しかし濃すぎるマナに惹かれるようにディアヴォロは

 確実に覚醒の力を強めていくことになるんだ。

 その前触れが・・・、今お前達の世界で起き始めている負の感情の暴走だ。

 善良な市民が突然暴徒と化したり・・・、今まで現われることのなかった強力な魔物が出現したり・・・。

 最終的にはディアヴォロの眷属が姿を構成するようになって、本体も隔壁を破って世界に解き放たれることになる・・・。

 それだけはなんとしても、阻止せねばならない・・・。」



なんだよ・・・、それ・・・。

どっちが正義で・・・、どっちが悪なのか・・・、これで完璧に分けられたじゃないか・・・っ!!


もしベアトリーチェとルイドの言っていることが真実だとしたら・・・、悪いのは全部レムグランドの方になる。

オルフェも・・・ミラも・・・ジャックも・・・ドルチェも・・・ザナハも・・・っ!!

一体何の為に戦っているんだ!?

何の為に厳しい修行に耐えて・・・、何と戦うつもりでずっと死ぬ思いをしてまで頑張ってきたんだよっ!?


オルフェはそれをわかってて、僕達に知られないように・・・ずっと騙して利用していたってことなのか!?

ジャックも・・・、本当はそのことをわかってて・・・あえてそれを言わずにいたってことなのか!?


ザナハは・・・っ、何の為に・・・誰の為に戦っているんだ?


頭の中が混乱してくる・・・、一体どっちの言ってる言葉が真実なのか・・・どっちを信じていいのかわからない!!

どちらの話も内容が食い違っている・・・、どちらかが嘘をついているのは確かだ・・・。

いや・・・、どっちも自分達に嘘をついていたら・・・?

自分達にそれを見極める程の知識も・・・知恵も・・・何もない・・・。


リュートは混乱して・・・、足元がふらつく。


「大丈夫かの?

 いきなりたくさんの話を聞かされて混乱しているようだのう、無理もないことじゃ。

 恐らく・・・獄炎のグリムからは、今の話とは全く正反対のことを聞かされているようじゃからな・・・。

 しかし余がこんなことを言うものではないかもしれんが、グリムへの信頼を全て失うことはないぞ!?

 あやつは国王命令に従っているだけじゃ・・・、あれは軍人じゃからな。

 しかし心の中では・・・、まぁ余にもあやつの心の内なんぞ読めはせんが・・・しかし心の底では自分達のしようとしていること

 に疑念を抱いておるはずだ。

 それに・・・お主達を巻き込むべきかどうか・・・悩んでおるところであろう。」


サイロンの言葉は一応耳には届いていた・・・、しかし心の中では別のことを考えていた。


(今の話・・・、全部アギトとザナハに話さなくちゃ・・・っ!!

 大佐のことを全面的に否定することはないってサイロンさんは言っているけど・・・、だからといって完全に信用出来る状態でも

 ない・・・、少なくとも・・・今は、だけど。

 女王様の話の中に、光の神子は偽りの使命を聞かされているって言ってた・・・。

 それがもし本当ならザナハも被害者だ・・・、あんなに命を張ってまでやるようなことじゃないって説得しなきゃ・・・っ!!

 アギトだってきっと僕と同じ意見のはずだ、悪の片棒を担がされるのはイヤだってハッキリ言ってたし・・・。)


リュートに今一つ反応がないことに全員気付き、一旦話を中断した。

これ以上更に混乱させるようなことをすれば、自分達の信頼すら得られないかもしれないと踏んだからだ。

3人共、互いに目を合わせて・・・黙した。


静かになって、次第にリュートの思考が冷静さを取り戻していく。

さっきはいきなりたくさんのことを聞かされて、確かにものすごく混乱した。

しかし話を整理して・・・、順序良く物事を考えてみた。

ここで聞いた話だけではなく・・・このアビスグランドに来る前のことも含めて、記憶をたどる。


オルフェは・・・自分を信じるって言ってた。

なぜ・・・?

自分がアビスグランドに行くことは・・・あの時点で殆どわかっていたようなものだ。

サイロンは行く先については語らなかったが、あのオルフェのことだからきっと目的地がアビスであることはわかっていたに違いない。

それならば余計に、オルフェが今まで自分達に言い聞かせてきたことの殆どが偽りであったことを・・・アビスで聞かされるということは明白ではないだろうか?

現に今がそうだから・・・、ベアトリーチェやルイド・・・そしてサイロンの話を聞いてオルフェ達の説明してきた目的内容がどれだけズレているのか。


それなのに・・・、オルフェは言った。


『私は、リュートは絶対に私達を裏切らないと信じていますよ。』


その自信は?

真意は?

根拠は?

ルイド達の話を信じないと思っているから?・・・いや、オルフェに限ってそんな曖昧な理由で信じたりはしないだろう。


その言葉の裏は・・・?


オルフェ達が偽りの内容を話していたことに気付き、それを理解した上で戻って来ると信じているから?

それはつまり・・・、真実の奥に気付かせる為・・・。

自分が今こうやってオルフェの言葉の裏を読み取ることすら計算して・・・、それで信じると言った・・・。


リュートは一瞬、寒気がした。

まるで自分の行動心理を全て把握されているように感じて、鳥肌が立った。

もし本当にオルフェがそこまで計算して、あの言葉を使ったというのなら・・・なんて恐ろしい人だろうとリュートは思った。

だがそれは結構正しいのかもしれない。

なぜなら・・・、優柔不断なリュートはついさっき会ったばかりの人達から聞かされた話に、完全に揺れまくっている。

今まで信じようとしてきた者達にすら、一瞬にして疑惑の念に駆られた。

オルフェのあの言葉を聞いていなかったら・・・、覚えていなかったら・・・、言葉の意味を深く考えようとしていなかったら。

自分はもしかしたら本当にルイド達の話を信じてしまって、アビス側に寝返っていたのかもしれなかった。

そう考えると、恐ろしい。

しかし・・・、彼らが本当に敵対するべき人間なのかどうかは・・・疑わしいままだった。

もしかしたら、話しあえば理解し合えるかもしれないというのに・・・。

自分がその橋渡しになれないだろうか?

一瞬そう考えたが、それを自分の一存で決められる程・・・リュートは心の強い人間ではない。

まだ今ひとつ自信のないリュートは、とりあえずここでの用事を済ませて・・・またレムグランドに無事に帰ることが出来たら

・・・まずは相談することから始めようと決めていた。


実に、頼りない・・・情けない決断だが・・・、本当に橋渡しという役割を果たしたいのならそれが一番良い方法だと・・・、

思うようにした。


そして、リュートが帰ってからの自分の行動を決めた時・・・長かった移動が終わって、ようやく隔壁の間へと到着する。



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