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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 1
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第89話 「邂逅」

 リュートとサイロン達は、クジャナ宮と呼ばれる女王が住んでいる城の中へ入り・・・そこの案内人と思われる召使いに女王の

部屋まで案内してもらった。

城の中はとても閑寂かんじゃくな様子で、大理石のようなもので出来た床を歩く靴音が城中に響き渡って聞こえる。

レムグランドの首都にあった城内を見学した時は、もっと官僚や兵士がうろついていたものだが・・・ここには必要最低限の人材し

かいないように思われた。

リュート達は直径5メートル程の魔法陣の上に乗るように指示されて、そこに乗ると光に包まれて上階へと移動する。

おそらくこれは、この世界で言うところのエレベーターの役割をしているのだろう。

しかし個室があったり扉が閉まったりするわけではなく、各階の同じ場所に設置された魔法陣がずっと上まで続いているのを光に包まれたまま移動するだけなので、各階の様子が丸見えなだけではなく、自分達も各階にいる人達に丸見えになっていた。


すると・・・、とある階を通り過ぎようとした時だ。

リュート達は目を疑うように、小さく声を上げてよく知った人物と目が合う。

魔法陣エレベーターはそれなりの速さで通り過ぎたが、向こうもこちらに気付いているようだった。

そこにいたのは、長く青い髪をなびかせながら配下・・・と思われる武人と立ち話をしている姿。

その青い髪をした男こそ・・・。


「ルイド・・・っ!?」


リュートは目を疑ったように、そのまま下の方へと消えていく彼に目が離せなかった。

サイロンも少し驚いていたようでリュートと同じように下の方に目をやっている。


「なぜあやつがここに来ておるのだ!?

 確か今は前線基地にいると聞いておったのだがなぁ・・・??」


サイロンはそう言いながら首を傾げていた。

見たところそれは演技には見えない・・・、恐らくサイロン自身もルイドがここに来ていることは知らなかったようだ。

不安そうにするリュートに、サイロンがまるで子供をあやすように肩に手を置きながら優しい言葉をかける。


「安心せい、ここではお主に手荒なマネはさせないと・・・余が約束しよう。

 余は約束は必ず守るからのう。

 ルイドが何か言って来たとしても、余が仲裁してやる故・・・お主は不安を抱くことなく女王と話をするがよい。」


「・・・ありがとうございます、サイロンさん。」


今のサイロンなら・・・、なぜだか信用出来る。

リュートは、本心からそう思った。


やがてしばらくしたら光が消えて魔法陣からみんなが出て行くのを見て、見よう見まねでリュートも出て行く。

2〜3分程通路を歩いたら、目の前に大きな扉が姿を現して・・・案内人が扉をノックすると中にいる人物に声をかけた。


「ベアトリーチェ様、サイロン殿と闇の戦士リュート殿がお目見えになりました。」


「よし、入れ。」


中から女性の声が聞こえて、案内人が扉を開ける。

ゆっくりと開け放たれた扉の向こうには、上質で大きなソファに気だるそうに横になっている女性がこちらを見据えていた。

真っ赤な髪に、白い肌、きわどい露出過多な衣装に身を包み、額には黒い角・・・そしてあれは尻尾だろうか?

リュートは今まで自分達と何の変わりもない人間としか接してこなかったので、その女性の容姿に少なからず驚きを隠せなかった。

勿論、サイロンにも鹿の角のようなものが生えているが・・・さほど気にしたことはなかった。

サイロンが臆することなくどんどん部屋の中に入って行き、その付き人達も従った。

リュートは戸惑いながらも彼らの一番最後尾について行って、隠れるように立ちすくむ。


「どうしたサイロン?

 随分と機嫌が悪そうだな?」


寝そべっていた体を起こし、だらしなくソファに座りながら足を組んだベアトリーチェが、笑みを浮かべながらサイロンに訊ねる。

サイロンは先程とは顔の表情を変えており、ムスッと不快な顔を作っていた。


「ルイドがここに来ていることを、余は聞いておらんぞ!?

 ベアトリーチェ、お主が呼んだのか!?」


少し荒い声で、アビスグランドの女王に向かって弁解を求めるサイロン。


「ルイドがここに来たのは本当にただの偶然だ、わらわも驚いている。

 それにしても・・・、お前はルイドの友なのであろうが!?

 今日は随分とあいつのことを煙たがるのだな!?」


面白そうに笑いながら、今度はベアトリーチェがサイロンに訊ねる。


「余は別に構わんがここにいる闇の戦士がのう・・・、ルイドがいると緊張してしまうのでな・・・。」


緊張しているのは、今でも同じです・・・。

しかしリュートは女王を目の前にそんなことは、口が裂けても言えなかった。

サイロンがリュートのことを会話に出すと、女王ベアトリーチェが興味深そうにリュートのことをまじまじと見つめている。

気が強そうな大きな瞳で見つめられて・・・リュートは更に緊張が増して、思わず視線をそらしてしまう。

そもそも女性にこれだけジッと見つめられるような経験は、残念ながらリュートには皆無に等しかった。


「なかなか可愛い坊やではないか。」


そう言われ、リュートはカァ〜〜ッと顔が熱くなって真っ赤になる。

面白そうにからかうベアトリーチェに、サイロンがたしなめるような口調で本題に入るように切り出した。

本当に・・・今日のサイロンは一段と頼りになるようなキャラになっている・・・と、リュートは失礼にも本気でそう思っている。

だっていつものサイロンは、ただのバ・・・・・・。


「ベアトリーチェ、リュートに話があって呼んだのであろうが!?

 リュートはこう見えて忙しい身なんじゃから、用件は早く済ませてもらいたいんだがのう!?」


「あ〜わかったわかった!!うるさい奴め・・・。

 どれ・・・、リュート・・・と申したか?妾の隣に座ってじっくりと話し合おうではないか・・・、ん?」


ベアトリーチェの手招きに、サイロンが間に割って入るような仕草をしてリュートをかばう。


「リュートを誘惑しようとしても無駄じゃぞ!?

 こやつの心はすでに、光の神子にぞっこんなんじゃからのう!」


「サ・・・ッ、サイロンさんっっ!?いきなり何を言っているんですかっ!!」


突然何を言い出すのか、この人わ・・・っ!!と、リュートは真っ赤な顔が更に真っ赤になってサイロンの服の裾を引っ張る。

しかしサイロンはなぜリュートの反感を買っているのかわかっていない様子で、首を傾げていた。

なんとか目で訴えようとするリュートであったが、サイロンが空気が読めないランキング堂々第一位であることを忘れていた。


「とにかくじゃ、余はリュートの安全面を確保する役割がある故・・・リュートの側を離れはせんぞ、よいな?

 話をするならこのままの立ち位置で何の問題もないであろうが。」


そう言うと、ベアトリーチェが「ちっ、面白くない・・・」と呟いて・・・すこし頬を膨らませていた。

しかしすぐに気を取り直すと、本当の本当に・・・やっと本題に入ってくれた。


「さて・・・、サイロンの説明にもあったとは思うが・・・一応自己紹介をしておくとしようか。

 妾の名は、ベアトリーチェ・オズワルドレイク・・・このアビスグランドの女王だ。

 実はサイロンに頼んでお前をここに連れて来てもらったのには、ワケがある。

 お前がどれだけこの世界・・・、アビスグランドとレムグランドについて知っているのかは・・・妾にはよくわからん。

 ひとつ質問するが、お前・・・ディアヴォロという名を聞いたことはあるか?」


リュートはぴくりとした。

それなら、今はイヤという程に聞いたことがある名だった。

ディアヴォロ・・・、7億年前に初代神子が封印したと言われる魔力増幅装置という危険な代物・・・。

マナを食らうその機械の為に、世界は大きく揺れたと・・・オルフェから聞いたばかりだった。


「はい・・・、あまり詳しくは知りませんが・・・確か大昔に作られた魔力増幅装置という機械で・・・、初代神子によって封印

 されることになった・・・とても危険なものなんですよね?」


ベアトリーチェの顔色が、面白がるような笑みから・・・真剣な表情へと変わる。

あまりの変わりようにリュートは、何か間違えてしまったのだろうかと戸惑った。


「そうだ・・・、ある程度なら知っているようだな。」


そう一言呟くと・・・、ベアトリーチェの瞳は更に射るような眼差しになって・・・言葉を続けた。


「そのディアヴォロは・・・、このクジャナ宮の一番下の・・・最下層区域に安置されている。」


「・・・・えっ!?」


リュートは心臓がドクンっと、大きく跳ね上がった衝撃を強く感じた。

この下の・・・、自分の足元のずっと下に・・・オルフェの話にあったディアヴォロが・・・!?

思わず2〜3歩後ろに下がって、リュートは足元がふらつく。


「レムでは知られていないことだが、ディアヴォロは今もなお地下深くで稼働しているのだ。

 アビスグランドの王族は代々・・・、クジャナ宮に安置されているディアヴォロを管理し・・・永久に幽閉することを

 義務付けられている。

 初代神子が施した封印が弱まれば、王族がその封印を上書きする。

 王の力が弱まった時には、闇の戦士の力を借りることもしばしばあった。

 そして今まさに・・・、妾だけでは上書き封印するのに・・・力が及ばなくなってきているのだ・・・!

 そこでリュート・・・、闇の戦士であるお前の力を借りる為に、サイロンに頼んでここへ呼んだのだ。

 闇の戦士としてのお前の力・・・、ディアヴォロの封印の為に借りるぞ・・・。」


「あの・・・っ、ちょっと待ってください!!

 確かに僕には闇の戦士としての資質があるのかもしれませんけど・・・、いきなり歴史上に出てきた危険物の封印をしろって

 言われても・・・、僕にそんな力があるとは思えませんよっ!!

 それに封印する方法だってわからないのに・・・、いきなりそんなことを言われても困ります!!」


無礼を承知で、リュートは一歩前に出てベアトリーチェに向かって声を張りあげた。

無理なものは仕方がない・・・、確かに多少は戦う力をジャックに教わってきたが、それとこれとは内容が違い過ぎる。

だがしかし、ベアトリーチェは屈しない表情で引き下がらなかった。


「その辺は安心しろ、すでにルイドに封印の仕方を教えてやるように言ってある。

 お前はルイドの言う通りにすれば、何も問題はないぞ!?」


いや・・・だから、そういうことじゃなくて・・・っ!!

リュートは完全に困った表情でひきつった、どうしてここの世界の人達って他人の話をきちんと把握・理解してくれないのだろう?

そもそも・・・やっぱりここでルイドと関わり合いになるのは必然っぽかった。


「あの・・・念のために聞いておきたいんですけど・・・?

 もしその封印に失敗でもしたら、一体どうなるんですか?・・・何回でもやり直したりは出来るんですか?」


恐る恐る聞く、もし何回でもやり直しが利くならば・・・何とか挑戦してみないでもない・・・とリュートは思っていた。

だがその台詞を聞いたベアトリーチェは、眉根を寄せて少し不快な表情になる。

あ・・・、やっぱダメみたいだ・・・とリュートは一瞬で理解した。


「・・・そういえば、今までそんなことを聞いてくる奴はいなかったな。

 多分大丈夫なんじゃないのか?・・・今まで失敗なんぞ、妾はしたことがないからよくわからんがな!?」


えぇ〜〜〜〜っ!?と、リュートは自分で質問しておきながら、いい加減な答え方はやめてほしいと心の中で叫ぶ。

サイロンに視線を送って助けを求めるが・・・、果たして彼にこのアイコンタクトを理解する頭脳があるのかどうかが、不安だ。

ちらりと視線に気付いたサイロンは、あさっての方向に視線を泳がせて・・・何かを考えているように見える。

お願いですから・・・、たった一度でいいから空気を読んでください!!・・・懇願するリュート。

腰の帯に差していた扇子を取り出して、扇ぎながら・・・ようやく口を開いた。


「ベアトリーチェよ、百聞は一見にしかずじゃ。

 とりあえずルイドと共にディアヴォロが幽閉されておる隔壁の間まで行かぬか?

 交渉はそこで詳しい説明をしてからでも、遅くはないじゃろう?」


サイロンにそう促されて、ベアトリーチェはこくんっと頷いて納得した様子だった。


「では案内しよう。

 ルイドも途中で捉まえられるだろうからな、よし・・・ついてこい。」


そう言ってベアトリーチェがソファから立ち上がり、すたすたと扉の方へ向かって歩き出した。

あれ・・・?なんだかさっきよりも更に物語の進行というか、展開が先送りされているみたいなんですけど?

リュートは、サクサクと進む展開におろおろしだした。


「あ・・・あのサイロンさんっ!?

 なんだかこのノリって、僕が封印するのを了解したバージョンの展開になってませんか!?」


リュートがサイロンの服の裾をぐいぐい引っ張って、サイロンがリュートの訴えにあっけらかんとした表情で答える。


「ん?・・・なんじゃお主、ベアトリーチェの説明が難しすぎるから・・・話をするよりも実際にディアヴォロを封印する

 場面を見てみたいと訴えておったんじゃないのか!?」


「全っっ然違いますよっっ!!

 大体さっきの女王様の説明、どこも難しい箇所なんてなかったでしょうが!!そう感じたのはサイロンさんだけですって!!

 僕が言いたかったのは、僕にディアヴォロの封印をするのは無理だから丁重に断ってほしいっていう合図だったんですよ!!」


「なんじゃ・・・、それならそうとハッキリ言わんか。

 全く・・・、お陰でベアトリーチェは封印させる気満々になってしまったではないか。

 お主もなぁ、ちっとは空気を読んで・・・言いたいことはその場でびしっと言うようにせぬといかんぞ!?」


「あんたに言われたくないわ!!」


はぁはぁ・・・と、一気に疲労全開になったリュートは・・・これ以上サイロンに空気がどうのと言っても無駄であることは火を見るよりも明らかだった。

それは付き人2人の表情を見ても、十分に理解できることだ。

とにかく・・・、だんだんとピンチになってきていることに変わりはない。

扉の前でベアトリーチェが自分達を急かしているのが目に入る。


リュートは大きく溜め息をついて、とにかく・・・タイミングを見計らって自分には無理であることを告げなければいけない。

ベアトリーチェをがっかりさせることになるだろうが、封印の失敗がそう何度も許されるなんて思えなかった。

それが許されるならば、わざわざレムグランドにいる自分を・・・サイロンに頼んでまで呼んだりはしなかったはずだ。

それどころか・・・、封印ならばなぜルイド一人に頼まないのかが不思議でならなかった。

青い髪は戦士の資質を有する者の証・・・、ルイドはこのアビスグランドの闇の戦士なのだ。

自分よりもずっと強いし、魔力だって凄まじいことは・・・戦ったことのないリュートにだって理解できる。

そんな彼がここに来ているのに・・・、それでもリュートに封印をさせるという根拠がわからない。


そんな疑問を持ちつつも、リュートはベアトリーチェ達と共に再び魔法陣エレベーターに乗って下へ降りて行く・・・。



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