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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界アビスグランド編 1
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第87話 「会わせたい人物」

 リュートはサイロンから「リュートの身柄を一時的に預かる」という約束を果たす為、再びドラゴンの姿となったサイロン

の背に乗って、大空高く舞い上がっていた。

以前、アギトがサイロンと闘技場で戦っていた時に観客席から見ていたが、実際に背に乗るとその大きさに驚きを隠せない。

別に乗ったことはないが、まるでクジラの背に乗っているような・・・それ位ドラゴンというのはとてつもなく巨大だった。

大きな翼を上下にはばたかせて、時折風に乗って飛行機のように横に真っ直ぐと伸ばしたりしている。

リュート、ハルヒ、イフォン、メイロンは必死にサイロンの背にしがみついている状態である。

風に吹き飛ばされそうで・・・何とかごつごつとした皮膚に手をかけて、落ちないようにするので精一杯だった。

すぐ横にいるハルヒが、大声を出してリュートに話しかける。


「もうしばらく我慢するんだ!!

 じきに次元転移するレイラインのサークルをくぐることになる!!それまで何とかしがみついていろ!!」


リュートに余裕はなく、頭を動かすことで返事をした。

サイロンがドラゴン化して飛び立った時、ハルヒが説明してくれたのを思い出す。


龍神族がなぜ、アビスやレムと違って異世界間を自由に行き来出来るのか・・・。

それは龍神族がドラゴン化して上空まで飛んで行った時、特殊な光のサークルを出現させて・・・それをくぐれば自由に3国間を

渡ることが出来るというのだ。

地上ではマナが凝縮された土地のレイライン上でなければ不可能だが、上空には更にレイラインが多数存在するらしい。

それは前にアギトのマナが暴走を起こして放出し続けていた時に、体内のレイラインを視る能力が龍神族にはあった。

上空にあるレイラインも、その目がなければ見つけることは出来ないらしい。

レム、アビスが龍神族の許可をもらわなければ互いの世界を行き来出来ないというのも、この特別なレイラインを使用しなければ

行き来出来ないと・・・つまりはそういうことなのだ。


ハルヒから聞いた説明を思い出しながら、リュートは早くそのサークルというのが現われてくれないかどうか祈っていた。

このままだと、そのサークルをくぐる前に自分は地上へ真っ逆さまに落ちていく羽目になる。


「闇の戦士ってのも・・・、全然大したことないね・・・。」


死に物狂いでサイロンの背にしがみつくリュートに、更に風の音が耳を塞いでいて・・・その言葉は聞こえなかった。

やがて目の前に大きな光の輪が見えてきて、サイロンは軌道をその光の輪の中心へと向きを変えて・・・くぐって行く。

まるでトンネルの中に入ったように急に周囲の景色が真っ暗になって、リュートは目がおかしくなったかと思った。

さっきまでものすごい勢いで風を受けていたが、サークルをくぐった途端に無風状態となる。

必死にしがみつかなくてもいいような、安定した状態になって・・・どうしたらいいのかわからない。


「サークルをくぐれば、もう大丈夫だ。普通に座っても平気だぞ。」


そう促されてリュートは、きょろきょろと3人を眺めて・・・すでにみんなサイロンの背の上であぐらをかいたり正座したりして

座っていた。

リュートもそれにならって体を起こし、座る。

それよりも気になるのがやはり回りの景色だった、まるで星の無い夜空を飛んでいるように真っ暗だった。


「ここは一体どこなんですか?」


そう聞いた途端、再び突風にあおられた。

しかしその風も一瞬だけで、目を開けたらそこはすでにさっきの暗闇ではなく暗雲の立ち込める上空を飛んでいた。


「今日は随分と穏やかな空だね。」


イフォンの言葉に、リュートは首を傾げていた。

・・・穏やか?

見回すと目の前には黒い雲が夜空を覆っていて、時折雲の中でピカピカと光っている・・・恐らくあれは雷雲だろう。

サイロンが速度を落として飛んでいるせいだろうか・・・、風がさっきよりもずっとゆるやかになっているのは確かだ。

しかし・・・空の状態を見た限りでは、そこがどうしても「穏やかな空」という表現には程遠かった。

やがてサイロンは徐々に下降していって・・・、サイロンの背の上からでも地上の様子が目に入るようになってくる。


 そこはとても荒れ果てており、殆ど干乾ひからびた荒野に近かった。

森や川といったものは一目みた限りでは見つけることが出来なくて、その代わりあちこちに風車がたくさん回っていた。

しばらく飛んで行くと、目の前にものすごく刺々しい建物が見えてきた。

辺り一面暗闇が覆っているせいか、その建物がより一層怪しく見える・・・、その一番大きな建物の回りにはようやくぽつぽつと

人が住んでそうな建物、テントなどが立ち並んでいる。

その「町」に入る手前の荒野にサイロンはゆっくりと降り立って、ズズーンという音を立てながら着地した。

ハルヒ達はすぐにサイロンの背から降りて、ドラゴンの姿から再び人間の姿へと戻って行く。

あらかじめ用意していた大きな布で全裸のサイロンを隠して、イフォンが着替えを手伝う。

なんだかじ〜っと見てはいけない光景のような気がしたリュートは、目のやり場に困りながら周囲を観察するように見回す。

目の前には少しさびれた感じのする町・・・その向こうに大きくそびえたつ城・・・、後ろは果てしない荒野・・・。

空は常に真っ黒い雲が立ち込めていて、雲の隙間から見えるのは闇のように深い真っ暗な夜空だけ・・・。

リュートは不安になりながらも・・・ここが一体どこなのか・・・、なんとなくわかってきたような気がした。

ごくん・・・とツバを飲みこんで、もう一度よく町の様子を目に焼き付けるように観察した。

人々はみんな細々と生活をしているように・・・、活気がなかった。

レムグランドの首都にあった商店街とは・・・、雲泥の差だ。


『アビスグランドは、元々資源に乏しい国』・・・、誰かが言った言葉を思い出す。


今、眼前に広がる光景を目にしただけで・・・それは十分に理解できる。

レムグランドに当然のようにあった、水・・・、光・・・。それらの加護は・・・この国にはない。

あるのは枯れ果てた大地と・・・、どこまでも続く深淵の闇だけだ・・・。


「ショックが大きいかの?」


突然背後から声をかけられて、リュートはパッと後ろを振り向いた。

そこには、いつものように豪華で派手なチャイナ服に身を包んだサイロンの姿があった。

言葉を失っていたリュートは、どんな表情をしていいのかわからない。

ただ・・・、確かにレムグランドとは明らかに違うこの国に・・・、少なからず衝撃を受けていたのは事実だった。

サイロンがリュートの横に並んで、優しくポンっと肩に手を置く。

そして諭すように・・・、サイロンは語る。


「お主も既にわかっておるように、ここは闇の国・アビスグランドじゃ。

 この世界を構成する属性は、氷、風、土、闇・・・、豊かな自然を生み出すには偏った属性だと思わんか?

 水の加護がない為、この世界に雨が降ることは殆どない・・・。

 余が行商人としてこの国に何度も植物の種を与えてはいるが・・・、光合成する為の太陽光がない為、滅多に育つことはない。

 この国の北部にある雪山から氷や雪を運んで、かろうじて水だけは得られておる。

 しかしこの国の人間はたのもしいぞ?

 それだけ貧しい環境にありながら、皆それらのわずかな資源を大切にし・・・そこから新たなものを作り出す。

 この国の人間のモットーはリサイクル・・・、エコ生活を基本としておる。

 ・・・この言葉は、ルイドからの受け売りじゃがな。」


そう言いながら、サイロンは嬉しそうに微笑んでいた。

その笑顔はレムグランドにいた時には見たことのなかった・・・、とても優しげな笑顔だった。

リュートは、サイロンのその笑顔を見るまでは・・・彼の目的が何なのか考えていた。

もしかして自分にこの国の現状を見せて、同情を誘うつもりだったのだろうか・・・?

この国の方がよっぽど厳しい環境の中で必死に生きているんだと見せつけて、アビス側に引き込もうと企んでいるのだろうか?

・・・そんな考えが真っ先に頭の中をよぎった自分が、とても心のさもしい人間のように思えて自己嫌悪に陥る。

少なくとも、こんな表情をする人間が・・・そんなことを考えるとは、到底思えない・・・。

それ程、サイロンの笑顔はとても穏やかで・・・、とても憂いと寂しさに満ちていたからだ・・・。


「さて、お主に会わせたい人物がおる。

 早速行こうではないか!」


そう切り出されて、リュートはどきっとした。

その会わせたい人物というのは・・・、もしかしなくても・・・。


「・・・ルイドですか!?」


歩を進めていたサイロンの後方から、リュートは一歩も動いてない状態で呟いた。

サイロンは後ろを振り向いてきょとんとした顔をしている、ハルヒ達も怪訝な表情で見つめていた。


「最初から・・・、僕をルイドに会わせるつもりで取引を持ちかけて・・・ここに連れてきたんですか!?」


リュートは全身で否定的な態度を取った。

確かにこの国の惨状にはとても心を痛めたし、何とかしてやりたいという気持ちさえあった。

しかし・・・それとこれとは全く違う話だ・・・、自分を完全な闇の戦士に仕立て上げる為に仕組まれたことならば酷い話だ。

完全に警戒態勢を取ったリュートに、サイロンは「う〜〜ん」とあさっての方向を見つめながら・・・扇子で扇ぐ。


「ルイドは随分と嫌われておるようだのう?

 だが、余が今会わせたいと思っておる人物はルイドではないぞ?

 多分今頃ルイドは前線基地にいるはずじゃ、ここはアビスグランドの首都『クリムゾンパレス』という名の城下町。」


「え・・・?ルイドはここにいないんですか!?

 それじゃあ・・・、僕に会わせたい人物って?」


「ベアトリーチェ・オズワルドレイク、・・・アビスグランドの女王じゃ。」


 


リュートは頭の中が真っ白になった。





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