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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~首都シャングリラ編~
87/302

第85話 「初代神子アウラ」

 魔物との戦闘を終えたアギト達は、再び馬車の中に戻ってソファにだら〜っと座った。

今でこそ修行の成果として普通に魔法を扱ったりしているが、習得した時の喜びは尋常ではなかったのは・・・言うまでもない。

特にアギトは魔法に対してとてつもない興味を抱いていた分・・・余計に、自分の手の平でライターの火程度の魔術を発生出来た時は、さすがのオルフェでもアギトのハイテンションを止められなかった。

アギトが習得出来た魔法は、火属性の中でも一番初歩的な魔法「ファイアーボール」のみである。

基本的にアギトは物理攻撃タイプであり、魔術のマナコントロールがさほど上手くなかったので仕方がなかった。

オルフェ自身もアギトに面と向かって、魔法使いは諦めろと断言した位なのだ。

しかしアギトは諦めが悪かった。

オルフェに諦めろと言われても、時間があればマナコントロールの基本的な訓練は余程のことがない限り毎日欠かさなかった。

あれだけファンタジーの世界に憧れており、今まさに異世界で「光の戦士」として現実の世界と行ったり来たりする二重生活が

出来ているのも、魔法が存在する世界で・・・自分も魔法を使えるという事実と向き合えたからである。

勿論そこにはリュートの存在も欠かせないが、アギトにとってはこれ以上ない幸せだった。

ゲームやマンガで得た知識を思う存分活用出来る為、この異世界で多用される専門用語などもすぐに理解することが出来た。

今は、オルフェからこの世界の成り立ち・・・世界を救う使命を背負った光の神子について、・・・そしてこの世界の脅威と

なり得る存在であるディアヴォロに関する知識を教わっているところである。

魔物との戦闘が終了した直後に、あの長ったらしくて難しい説明の続きをまた聞かなくてはいけない・・・という憂鬱さをリュートは感じていた・・・。

しかしアギトは早くこの世界に関する知識を手に入れたい・・・、そして自分が何をするべきなのかをハッキリと把握しておきたい・・・という気持ちを止められずにいた。

一息ついてから、再びオルフェがタイミングを見計らって話し始める。


「さて・・・、二人とも戦闘には随分と慣れてきたようですね・・・非常に結構なことです。

 ただし生死を賭けた戦いに慣れや油断は禁物です、ちゃんとわかっていると思いますが常に緊張感を持ち続けておいてください。

 それから・・・、アギト?

 君の持ち味は剣による物理攻撃と体力面です、いくらリュートにいいところを見せたいと言っても闇雲に魔法を使おうとするのは

 感心出来ませんね。 

 以前修行した時にも言いましたが、君が魔法を使う時は仲間が近くに数人いる場合・・・、そして残りHPが少なくなった敵が

 遠くにいて追い打ちをかける場合・・・このパターンにのみ使用許可をしたはずです。

 敵が少ないから・・・、弱いから・・・、そういった油断が・・・時に死を招くことだってあるんですよ?」


オルフェのダメ出しに機嫌を悪くしたアギトは、適当に返事をして早く初代神子についての話をするように急かした。

そんなアギトの態度に、オルフェは呆れた様子で溜め息をつくと肩を竦めながら話の続きをすることにした。

アギトの横でオルフェのダメ出しを一緒に聞いていたリュートは、嬉しそうな笑みがこぼれていた・・・なぜなら、あの時オルフェは哲学書を読んでいたから二人の戦闘は全く見ていないし聞いていないと言っていたのに、これだけ的確なダメ出しが出来るというのは、それだけ二人の戦闘を見て・・・いいところ、悪いところを指摘出来る位に観察していたということになる。

それに気が付いたリュートは、オルフェも案外いいところがあるなぁ・・・と思っていた。

もっとも、オルフェはアギトの師匠なのだからもっとアギトに指導するべきなのでは・・・?という思いも勿論あったが。

ジャックとオルフェを比べるのは良くないと思いつつ、リュートは決して口には出さないがいつもそんなことを考えていた。


「さて・・・それでは続きを説明するとしましょうか。

 創世時代の人間達が、自ら作り出した魔力増幅装置「ディアヴォロ」を今後どうするか・・・というところからですね。

 詳しい対処方法は残念ながら、レムグランドにある古文書には記されていませんでした。

 ただ・・・ディアヴォロを完全に廃棄処分するには、無限の可能性を宿すマナ指数を持った人間だけがその力を得ることが

 出来る・・・と、とあるシャーマンが高位精霊から啓示を受けたとありました。

 それが恐らく光の神子の始まりだったのでしょうね。

 創生時代の魔術師や錬金術師達が力を合わせて、ディアヴォロに対抗する為の武器を作り・・・それを使って神子を守ると

言われている『ガード』というのが・・・今でいう光の戦士と闇の戦士のことだと・・・、それが我々学者の間での説と

 なっています。

 魔術師達はまず、アンフィニを宿した神子を探す為に・・・それこそ世界中を捜索したとありました。

 888という数値の人間は、そうそう現れるものではありません。

 例え精霊の加護を受けた創世時代でも、アンフィニは何百兆分の1という・・・ごくごく稀な確率でしか誕生しないのです。

 アンフィニ捜索が開始されて数百年が過ぎた頃・・・、一人の少女が・・・とある農村で誕生しました。

 それがマナ指数888を有するアンフィニ、後に初代神子として世界を救った『ウィザアウラリース・ロディクラウド』

 という名の・・・戦う力どころか、剣を持ったこともない・・・ごく普通のか弱い少女だったのです。」


「・・・剣を持ったことも、戦ったこともない女の子が・・・世界を救ったんですか!?」


リュートが信じられない・・・という表情で、オルフェの話に聞き入っていた。

オルフェはそれが当然の反応だろうとでも言うように、平然とした表情で一息つきながら外を眺めている。

初代神子というのだから、てっきり僧侶とか神官職に元々就いていた人間とか・・・もしくは特別な環境で育っていたり、

実は旅の冒険者だったり・・・、そういった境遇の人間だとずっと思っていた。

それが・・・、普通の農村で生まれて・・・剣を持ったことも、戦ったこともない・・・ごく普通のか弱い少女だった。

そんな少女が、一体どうして・・・どんな理由で世界を救う英雄となり得たのか・・・!?

リュートは息を飲んで、オルフェが続きを話してくれるのを待っていた。

やがて馬車の外に視線を向けていたオルフェが、再びアギトやリュートの方に視線を戻して・・・話を続けた。


「アウラ・・・という名の少女を見つけたのは、宮廷魔術師であり・・・800台のマナ指数を持っていた一人の青年でした。

 彼の名は『ミリアロギレスカ・ヴィアンティ』、青い髪をした闇の戦士です。

 ロギはディアヴォロ推進派出身であり、魔術師達から武器を授かっていました。

 その武器を手にディアヴォロの眷属と戦いながら、必然的にアウラと出会ったのです。

 彼はアウラを説得して・・・彼女を戦いの中心へと導きました、全ては世界のマナを救う為に・・・です。

 この頃、推進派の間ではディアヴォロの完全廃棄を否定していて・・・廃棄派との話し合いで折り合いを付ける為に、

 ディアヴォロの力を利用するわけでも廃棄するわけでもなく・・・、『非常停止』させるという結論に達していました。

 つまり・・・、封印です。

 完全廃棄であっても封印であっても、世界を構成する精霊の力を借りることは必須となっていました。

 神子アウラと闇の戦士ロギは、精霊との契約を交わす旅を続けながら・・・その中で光の戦士としての資質を持った青年と

 出会います。

 それが『デレクリューガレイ・フィールド』という名の・・・、遊牧民で羊飼いをしていた青年です。

 彼等は3人一組となって、基本属性である火・水・風・雷・土・氷の精霊との契約に成功しました。

 この時・・・光の戦士であるリューガが火・水・雷の精霊と契約を交わし・・・、闇の戦士であるロギが風・土・氷の精霊と

 契約を交わしています。

 ・・・これがどういうことか、君達にわかりますか?」


突然話しを振られて、アギトとリュートは思い切り油断しており「えっ!?」と声に出しながら心臓が飛び出しそうな位驚いた。

じっと冷たい瞳で睨むように見据えるオルフェを見て、冷や汗をたっぷりかきながら今さっき聞いた話を思い出そうと必死になって

頭の中をフル回転させる。

確か・・・、精霊との契約を交わす旅に出掛けたのが神子であるアウラ、光の戦士リューガ、闇の戦士ロギの3人。

精霊との契約を交わしたのは、リューガが火・水・雷の精霊と・・・、そしてロギが風・土・氷の精霊と契約を交わした・・・。

ここで何がわかるか・・・!?

アギトとリュートは必死になって考えを巡らせた、その時・・・アギトがある共通点に気が付いた。


「光の戦士と闇の戦士が契約した精霊の属性が・・・、レムグランドとアビスグランドそれぞれが持っている精霊の属性と

 同じだってことか・・・!?」


それを横で聞いていたリュートが、「あっ・・・!」と声を洩らす。

オルフェは正解だと言うように、小さく頷いて・・・話に戻った。


「当時、創生の国ラ=ヴァースでは全ての属性が1つの世界に存在していたので・・・この世界では光属性と闇属性がハッキリと

 区切られていたかどうかは定かではありません。

 ただ・・・それぞれの戦士が契約を交わした精霊の属性と・・・今現在のレムとアビスの属性を考えたら・・・、なんらかの

 因果関係があるようにしか思えないのです。

 しかし7億年前という気が遠くなりそうな過去の出来事を調べようにも、歴史を紐解くにはその年月は余りにも膨大すぎます。

 よって、古文書や碑文から読み取れない内容となると・・・学者達は様々な仮説を立てたがります。

 確証を得るには当時からの生き字引である龍神族の現族長のパイロン殿に訊ねるのが早いと思いますが、それが不可能と

 あっては・・・なかなか結論付けることが出来ません。」


「・・・?

 どうして不可能なんですか!?」


「パイロン殿は7億年以上もの歳月を生きておられる方・・・、その負担は余りに大きい。

 若君から聞いた話によれば、パイロン殿は今・・・時間軸が全く異なる世界で養生しているそうなのです。

 そこは以前、私とアギトが行った『静止世界』と同じような場所ですね・・・時間の流れ方は全く逆だと思いますが。

 私達普通の人間が自由に行き来出来るような場所ではないので、話どころか会うことすら難しいのですよ・・・。

 龍神族の生態は私達の想像を遥かに超えたものです、老衰や寿命というものがあるのか・・・我々人間と比べてどれ位の

 時間差があるのか・・・、それは解明されていないんです。」


「ふ〜〜ん、まぁ・・・あの馬鹿君の思考回路も永遠に解明されねぇだろうけどな・・・。」


アギトの失言に、リュートは思わず吹き出しそうになった。

しかしオルフェは同感という笑みを浮かべて、満悦そうだった・・・この辺はやはり師弟似た者同士なんだとリュートは思う。


「基本属性の精霊と契約を交わすことに成功した後、アウラは高位精霊との契約を果たします。

 その時アウラが契約を交わした精霊は、光・闇・時の上位精霊だったと記録にはありました。

 ここから先の記録は、レムグランドには残されていません。

 恐らくアビスか・・・龍神族の里のどちらかで保管されていると思います。

 世界がなぜ3つに分断されてしまったのか・・・?

 ディアヴォロの封印はどうやって行なわれたのか・・・?

 封印後、神子や二人の戦士はどうなったのか・・・?

 その全ての記録がない以上、我々レムグランドの学者たちは更なる仮説を立てて来ました。

 世界が3つに分断されたのは、世界の均衡の保ち方を新しい方法で行なう為にそれぞれの次元を歪めてしまったという仮説。

 あるいは、精霊の啓示に従わなくなった人間の傲慢さに怒りを感じて、世界が分かたれてしまったという仮説もあります。

 その研究は今現在も王立大学院で魔術師や学者達が、日々研究に勤しんでいます。

 それよりも大きく課題として残っているのは、ディアヴォロがアウラによって封印されているにも関わらず、なぜ未だに

 光の神子は救済という名目の旅に出なければいけないのか・・・?

 そしていつから、どんな理由でマナ天秤というものが存在し始めたのか・・・?

 光の戦士と闇の戦士の役割は何なのか・・・?

 それが今・・・、君達が知りたい内容なんですよね。」


オルフェの促すような言葉に、二人は大きく首を縦に振った。

言ってみればここからが本番のようなもの、自分達は一体具体的に何をする為にこの世界に現れたのか・・・?

そしてザナハが必死に自分の本当の役割を隠そうとするのは、なぜなのか・・・?

二人は緊張した面持ちでオルフェを見据える、そしてオルフェもいつもの皮肉な笑みを現すことなく二人を見据えた。


「それでは・・・。」


ぎゅっ・・・と、かしこまった座り方をしている二人は両手を膝の上に置いて、ズボンを強く握る。


「・・・・・・そろそろお昼にしましょうか!」


「おいーーーーーーーーっっっ!!!」


人差し指をぴんっと立てて屈託のない笑顔で言い切ったオルフェに向かって、アギトは勢い良くソファから立ち上がりつっこんだ。

リュートはがっくりと、全身の力が抜けてソファからずり落ちている。


なんとなくそんな気はしてたんだ・・・、あの勿体ぶった言い回しは絶対何かあるって思ったんだ・・・。


急激に期待感を殺がれた二人は、ひくひくと虚ろな目になりながら・・・小さく乾いた笑いがこぼれていた。




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