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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~首都シャングリラ編~
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第84話 「修行の成果」

 アギト達は早速馬車から飛び降りて、既に戦闘が始まっているザナハ達と合流しようとした。

しかし突然草むらから別の魔物が飛び出て来て、二人は慌てて急ブレーキをかけるように立ち止まる。


「くっそ、なんだよこいつらっ!!」


アギト達の目の前に現れた魔物は3匹、まずは冷静に戦闘テロップを確認する。


 [コパン レベル13 HP1400 MP15]


 [チューパン レベル13 HP2750 MP150]


 [デカパン レベル15 HP3650 MP10]


コパンという名の魔物は3匹の中で一番小柄であり、片手には木の棒を持って意味もなくぶんぶんと振り回している。

チューパンは、コパンとデカパンの後ろに隠れるように配置しており、魔法使いの杖のような長い棒を構えていた。

デカパンは一番大柄で体長がおよそ2メートル近くはありそうだった、大きな棍棒を肩に乗せてこちらを見据えている。

そしてアギトとリュートの横にも、テロップが表示される。


[アギト レベル40 HP4580 MP250]


[リュート レベル18 HP2100 MP300]


アギトは早速、腰に差している両刃のブレードを鞘から抜き取って両手で構えた。

リュートは、以前オルフェから様々な武器を使いこなすことが出来るだろう・・・というアドバイスを受けており、ジャックから

多彩な武器の扱い方を教わっていた為、今日使う武器はナイフとは違ってチャクラムを装備している。

3対1というのはどうにも分が悪いと判断したアギトは、馬車にいるオルフェを呼ぼうとした・・・が、馬車の方に目をやると

オルフェはノンキに本を読んでいた。


「あいつ・・・っ!!

 戦闘の手助けする気は、さらさらねぇみたいだな・・・。」


「仕方ないよ・・・、一応敵は僕達よりもレベルが低いんだし・・・ここは自分達で倒せって言ってるんじゃないかな?」


「リュート・・・お前は甘い!

 あいつはただ単に面倒臭いから知らんぷりしているだけなんだよ!!オレ達の成長の為とか、そんなん考えてねぇよ!!」


殆ど断言に近い口調でそう吐き捨てたアギトは、コパンがゆっくりとした足取りでこちらに向かってきたのを見て戦闘に集中する。

リュートはアギトに比べたら防御力が低いので、少し後衛の位置に下がってからチャクラムを指先で回した。

デカパンは積極的にこちらへ向かってくる様子はなかったが、その後ろの方で怪しい輝きが目に入る。


「おい・・・っ、あのチューパンってやつ魔法の詠唱に入ってっぞ!!」


アギトの声にリュートはすかさず今いた位置から駈け出して、3匹がいる場所の回りを大回りするように走りだした。

コパンはアギトに狙いを定めて向かっている・・・、リュートはその隙に3匹のバックを取ってそこからチューパンに攻撃を集中

させるつもりだった。

リュートが走り出した途端に、すぐ後ろの方で小規模の爆発が起こったのがわかった。

やはり・・・チューパンはリュートめがけて攻撃魔法を放っていたのだ。

アギトの言葉にすぐさま対応して、その場を離脱した為に魔法の軌道から外れることが出来たのだ。

リュートはデカパンの攻撃範囲に入らない程度に、大きく距離を取って何とかチューパンにチャクラムを投げつけられる位置取りを

しようと努めた。

そんな中、アギトはコパンと斬りつけ合っていた・・・もっともコパンは木の棒だった為、アギトの方が攻撃の威力は大きい。

適当に棒を振り回すコパンの攻撃を剣で受けたりかわしたりして、相手がひるんだ隙に連続に斬りつける・・・そして。


双牙斬そうがざんっっ!!」


コパンの頭上から斬り下ろした瞬間すぐさま斬り上げて、コパンは後ろによろめきながら大ダメージを食らった様子だ。

その証拠にテロップには、850ものダメージを受けていた。

アギトは剣術の特技を習得していた、思えばサイロンとの戦いの時には相手があまりに巨大過ぎた為、特技を出すどころでは

なかったので、アギトが特技を出したところを見るのはリュートは初めてだった。

リュートは敵との間合いを計りながら、アギトの成長した姿を改めてその目で確認する。


(そりゃレベルが40にもなってるんだもん、特技のひとつやふたつ習得してて当然だよね・・・。)


そんなことを心の中で呟いていたら、チューパンが自分を狙っているのに気付きこちらに視線を向けてきていた。

リュートはアギトがコパンを倒すまではあまり積極的に攻撃を仕掛けることが出来ずにいる、なぜならここで闇雲にチューパンに

攻撃を仕掛けようものなら相手はそのままリュートに狙いを定めて、どこまでも追いかけてくるだろう。

それどころか、今でこそどちらにも狙いを定めていないデカパンが、チューパンの動きに合わせて2匹同時にリュートに襲いかかってこないとも限らない。

リュートは横目でアギトの様子を窺いながら、敵との間合いもつかず離れず・・・というのを絶妙にこなしていた。

アギトの方は更に追い打ちをかけるように、連続斬りから特技・・・という連携を繰り返す。

そしてコパンのHPが200以下になった時、デカパンが反応してアギトに狙いを定めていた。

まずい・・・リュートがそう思った瞬間、アギトはよろけながら後退していくコパンめがけて最後の攻撃を放つ。


魔神剣まじんけんっっ!!」


アギトは剣を力強く地面すれすれに放つと、その剣激が地面を這うような衝撃波となってコパンに命中した。

それがコパンの最期となり、全身が光に包まれて・・・そして消えていった。

コパンを倒したことによって、デカパンは完全にアギトに狙いを定めている。

そして同時にチューパンはリュートを目の前にしながらも再び魔法の詠唱に入るが、リュートがそれを許さない。

これでチューパンに攻撃しても、今では1対1の状態に持って行けたので離れた距離からチャクラムを放てるようになっていた。

詠唱中は身動きが取れないのでチャクラムはそのままチューパンに当たって、その勢いで尻もちをついている。

すかさずリュートは腰に装備していたサバイバルナイフを抜き取って、駆け足と共にチューパンに向かって技を繰り出す!!


「スナイプエアっ!!」


真っ直ぐに敵の懐に飛び込んでナイフを突き立てたと同時に、直角に斬り上げるような形でチューパンを切り裂いた。

敵に与えたダメージは180と、あまり大きくはないがリュートは全く気にしていない。

むしろリュートが考えている自分の役割は、アギトがデカパンと戦っている間はこのチューパンに邪魔をさせないようにすることと、魔法の詠唱をさせないようにちくちくとヒット&アウェイを繰り返す戦法を前提にしていた。


「アギト!!こっちのチューパンは僕が相手をしておくから、敵の魔法攻撃は気にしなくていいよ!!

 それよりもそのデカパンの方が一番強いから気を付けて!!」


「おう!!そっちもやられないように気を付けろよ!?

 こいつはオレが片づけてやっからよう!!」


二人はそれだけ言葉を交わすと、それぞれで敵の相手をした。

リュートは変わらず敵の攻撃をマトモに受けないように、敏捷性を活かした戦いをする。

ジャックから教わったこと、それは戦いで最も重要なことが敵との間合い・・・これを上手く利用し、敵の特徴や武器の性質を把握しておけば、その戦闘では約6割方は自分が制したも同然となる。

勿論、魔法に関してはその限りではないが・・・間合いを計って詠唱を中断させることが出来れば、結局は同じことだ。


(敵が放った魔法は「エナジーブラスト」・・・、初歩的な無属性攻撃魔法で詠唱時間が短いのが特徴だって聞いたことがある。

 そして相手の武器は中程度の長さの杖、あれだと一番リーチの長い突き攻撃をしたとして・・・3メートルも届かない。

 僕が今現在持っている投具は、チャクラム残り4枚、投擲とうてき用ナイフが5本。

 さっきのスナイプエアで与えたダメージが180程度だったから、持ってる投具全部で攻撃したら与えられるダメージは大体

 1600位か・・・。

 敵の今の残りHPが2570だから、・・・まだ900前後位は余力を残してしまう計算になるなぁ・・・。)


リュートは敵が詠唱を始めた時、そしてターゲットをリュートからアギトに変更した時。

その場合にのみ投具で攻撃してこちらに注意を向けるという方法を選択した、どうしても距離を取ったままで敵を倒すことは出来ないと判断したリュートは、しばらくの間はアギトの時間稼ぎをすることにしたのだ。

投具が全部なくなって、それでもアギトがデカパンを倒してこちらの援護に来てもらえなかった場合は、自分も積極的に攻撃を仕掛けるしかないと結論した。



一方アギトは、デカパンのデカさにジェラシーを感じていた。

より一層不機嫌な表情になって、アギトの怒りボルテージは徐々に上昇している。


「こいつイヤミか・・・!?

 動きはノロマなくせに、いっちょまえにウドの大木みてぇにデカイ図体しやがって・・・っ!

 こいつ気に食わねぇ・・・!!よ〜〜し、こいつから一切ダメージを受けることなく勝利してやるぜっ!!」


そう意気込んでみたものの、敵の武器は巨大な棍棒で大きく振り回せば半径2メートル半はくだらなかった。

反してアギトは小柄な上に両刃のブレードは刃渡り1メートル強、基本的に接近戦タイプである。

敵の攻撃範囲内に入ればあの巨大な棍棒が頭上めがけて振り下ろされるのは、目に見えていた。

不用意に敵の懐に近付くことは出来ないと踏んだアギトは、中距離の位置からひたすら魔神剣を放った。

しかしコパンの時とは違って、やはりデカパンの方が防御力が高いせいか・・・100前後しかダメージを与えられていないので

焼け石に水である。

このまま放ち続けても、MPの無駄遣いだと思ったアギトは5発位で魔神剣をやめた。


(待てよ・・・?

 あれだけ大きな図体をしたノロマな敵が、巨大な棍棒を持って振り回すってことは・・・。)


アギトはふとした閃きが実際に可能かどうか試す為、あえて敵の攻撃範囲内に踏み込んだ。

勿論ただ何も考えずに飛び込んだわけではなく、全身のマナを防御の方にある程度配分させていた。

デカパンが攻撃してきたらすぐに受け身を取れるように、剣で受け止められるように、十分気をつける。

真っ直ぐ突っ込んで行くのではなく、少し敵の回りを回り込むような形でフェイントをかけながら近づいた。

するとデカパンはアギトに釘付けになった状態で、片手に持っていた棍棒を両手で構えて大きく上に持ち上げた!!


(・・・やっぱり!!)


そう察して、すぐさまアギトはバックステップで敵から距離を離して後退した。

あっという間にアギトが後退したことに気付いてはいたのだろう、しかし振り上げた攻撃を途中で止めることが出来ないのか・・・

デカパンは誰もいない場所めがけて、そのまま棍棒を振り下ろして地面を抉った。

アギトは遠くからその様子を見て「ビンゴ!」と叫ぶ。


「やっぱりな・・・!!

 あれだけデカイやつは、動きがノロイし反応も鈍い。

 攻撃の間のモーションが長いから、あいつの攻撃はめちゃくちゃ避けやすくなってる!!

 受けたら致命傷負う位のダメージかもしれねぇが・・・、あいつの動きをよく見て・・・デカパンのやつが攻撃姿勢を取ったら

 すかさず後退してしまえば・・・今みたいに空振りさせることが出来る。

 しかも・・・、空振りした後は隙だらけときてる!!」


それだけ呟いている間に、デカパンは地面に食い込んだ棍棒を抜き取って・・・しばらくきょろきょろし、アギトの姿を見つけたら

再びこちらに向かってゆっくりとした動きで近づいてくる。


「これなら・・・あれが試せるな!!」


アギトは不敵な笑みを浮かべると、さっきと同じ手法で敵に近付いて行った。

デカパンがアギトに反応する寸前の間合いで、アギトはすかさず魔神剣を放った。

地面を這う衝撃波が的の大きいデカパンに直撃して、その間にデカパンとの間合いを詰める。

アギトが近くに接近していることに気付いたデカパンは、さっきと同じように・・・バカの一つ覚えのように再び棍棒を振り上げて思いきり下に振り下ろそうとしていた。

それを確認したアギトは、今度はバックステップを使わずにそのまま遠距離の方まで全速力で走って行った。

ある程度距離を離してから敵のいる方向に目を向けたら、敵はたった今棍棒を地面めがけて振り下ろしたところだ。

目で確認しながら・・・、アギトはすでに行動を起こしている。


『全ての力の源よ・・・、輝き燃ゆる気高き炎よ・・・!

 眼前の敵を焼き尽くせ!!

 ・・・ファイアーボーールっっ!!』


アギトは詠唱を唱えながら、右手を天高くかざし・・・その手の平に赤く小さな蛍火のような輝きが収束していく。

それが渦巻く炎と形を成していき、ソフトボール大の大きさの火球が勢いよくデカパンに向かって飛んで行った!!

火球はアギトの手の平から3発発射されて、それが大きな的に全てヒットする。

1発1発ヒットする毎に、デカパンは銃で撃たれたような衝撃を受けて後ろにのけぞった。

それは全部で900程のダメージを、デカパンに与えられた。


「たった900ぽっち!?

 ま・・・まぁ、元々オレってば魔法攻撃力低いし・・・?これでもかなりイケてる感じ・・・だよ、なぁ?」


かなり派手なエフェクトだったが、期待に反してそれ程のダメージを与えられていなかったことに多少の不満を感じる。

やはりオルフェのようにはいかない・・・と、アギトは少し悔しがった。

修行の時は全く同じ魔法でも、オルフェの場合はレベル20位の敵に約2000程のダメージを与えていたのを覚えている。

リュートが今の魔法をちゃんと見ていてくれたのかどうかわからないが、とりあえず自慢はこれ位にしておいて攻撃方法を物理攻撃に切り換えることにするアギトであった。

黒い煙がくすぶっているデカパンは、気のせいかさっきよりも機嫌が悪くなったように果敢にこちらに向かってきているようだ。

アギトは剣を両手で構えて、器用にも駆けながら魔神剣を放って敵にヒットしている間に敵の脇に回り込んで連続攻撃を浴びせて

更に覚えたての特技を華麗に決めて見せた。


秋沙雨あきさざめっっ!!!」


瞬時に8連撃の突きを繰り出して、最後にクセの悪いアギトはオマケの如く・・・最後の突き攻撃後に敵を蹴飛ばした。

総ダメージが1200と・・・かなりの大ダメージを与えるのに成功。

しかし敵がのけぞっている間は反撃を受けないので、たたみかけるように更にコンボを決められるだけ決め続ける。

斬り攻撃、斬り上げ、払い攻撃、ジャンプ攻撃・・・。

そして最後に特技で決めようとした瞬間・・・、のけぞったままだったデカパンはとうとう地面に倒れこんで光の粒子となって消滅してしまった。


「よっしゃあーーっっ!!2匹目粉砕ーーっ!!」


剣を持った右手を高々に掲げて、勝利ポーズを決めた。

しかし喜んでばかりもいられない・・・、少し離れた場所でリュートがチューパンと接戦しているのが目に映った。

アギトは連続攻撃と特技の連発でかなり消耗していたが、すぐさまリュートのところまで疾走する。



リュートはほぼ全ての投具を使いきって、殆ど消耗戦に近い状態になっていた。

相手のHPは、まだ1000程残っている。

接近戦の苦手なリュートは、ナイフを片手に相手の懐に飛び込もうかどうしようか迷っていた。

横目で見たらアギトがデカパンを見事打ち倒して、こちらへ向かってきているのがわかった。

その安心感からか、リュートはナイフを強く握りしめて敵に向かって突っ込んでいく。

アギトはもう2匹も敵を倒しているんだから、せめてこの1匹位は・・・と思ったのだろう。

チューパンは、デカパンと違って攻撃のモーションは少々早い方だった。

リュートの接近にすぐ気付き、チューパンは棒を構えて突くように前方へと押し出してきた。

その動きを読んでいたリュートは、それをひらりとかわして・・・ゆるやかで柔軟な動きでそのままチューパンの背後を取る。


牙突衝がとつしょう!!」


敵の背後で距離を詰めたリュートは、ナイフによる素早い連続突きを繰り出してそれが全てチューパンにヒットする。

この技はジャックから教わったものだが接近戦用の特技の為、多用しないようにと忠告を受けていたものでもあった。

しかし見事に背後を取れた今ならば、敵の反撃を受けることもなくこの技をヒットさせることが出来ると確信していたリュートは

迷わずにこの特技を使用した。

リュートにとって数少ない接近戦用の特技の中では一番威力の高い技だったので、チューパンに1020ダメージを与えることが

出来て・・・遂にチューパンも光の粒子となって消滅する。


「やった・・・っ!

 僕が倒したんだ・・・!!」


ジャック達との地獄の特訓は、決して無駄に終わらなかった。

当然と言えば当然だが、リュートにとってそれは自分が成長したと実感できる・・・自信につながる瞬間でもあったのだ。

レベル差はかなり開いているが、アギトはちゃんと見ていてくれただろうか?

少し前までなら、すぐにマイナス思考に陥り・・・そしてすぐに逃げの一手ばかりを考えていたヘタレな自分が・・・。

今ではこうして武器を手に、アギト一人に頼り切ることもなく・・・自分の力で自分の身を守る程度まで成長できた。

それが嬉しくてたまらない、そしてそれを見たアギトが・・・何て言ってくれるのか!?

リュートは自分の成長した姿を、今こうしてアギトに見せることが出来たんだと・・・期待の眼差しで振り向く。

・・・・・・と。


「リュートーーーーっ!!避けろぉぉーーーーーっっ!!」


アギトの必死の叫びが辺りに響き渡る・・・。

「え・・・?」と、リュートは何が何だかわからずに視線を送ると・・・目の前にはソフトボール大の火球が自分めがけて飛んで

来ていた!!


「うわぁぁーーーーーーっっ!!!」


アギトの叫びも空しく・・・、リュートはアギトの放ったファイアーボールの3発中2発をマトモに食らって倒れ伏した。


「リュートォーー!!大丈夫かぁーーーっ!?・・・って、大丈夫なワケねぇよなぁ!!」


慌てふためいた表情のアギトは、少しだけ半泣きになりながらリュートに駆け寄る。

見たらリュートは、360のダメージを受けていた。


「倒すなら倒すって先に言ってくれないと・・・っ!!

 てっきり苦戦してると思って、魔法の詠唱してて・・・詠唱が終わった途端に倒しちまうんだもんなぁ・・・。」


リュートの横に膝をついて、アギトはおろおろとしながら手を差し伸べようとする。

すかさずその手を握って引っ張ると、リュートは空手チョップをアギトに食らわせた。ダメージは150程与えることが出来た。


「いって・・・、何すんだよ!?ちゃんと謝ってんだろうがっ!!」


そう言ってアギトがまたリュートに向かってぐりぐりと、こめかみを両拳で攻めまくった。ダメージはおよそ180位受けた。


「いだだだだっ痛いって!!大体味方に向かって魔法ぶっ放すってどういう了見だよっ!?

 てゆうか魔法の味方マーキングはどうしたのさっ!?

 マーキングしてれば味方が放った魔法ダメージは受けないようになってるのに、な・ん・で・僕はダメージ受けてんのっ!?」


リュートの反論にアギトは、ぐっ・・・となって急に口をつぐんだ。

冷ややかな眼差しで見つめるリュートは、もしやと思ってアギトの代わりに答えてやる。


「まさか、大佐からマーキングの仕方を教わってない・・・とか、言わないよねぇ?」


ますます小さくなるアギトに、これ以上責め立てても仕方がないと悟ったリュートは大きく溜め息をついた。


「全く・・・、大佐も大佐だよ。

 マーキングの仕方も教えないでアギトに炎の魔法を習得させるなんて・・・、被害が僕だけだから良かったものの・・・。

 とにかく、さっきのはなかったことにしてあげるから・・・。

 ほら、顔を上げてよ・・・今治すから。」


「え・・・??」


アギトはリュートの言葉の意味がわからず、きょとんとした表情で顔を上げた。

するとリュートは魔法の詠唱を始めていて・・・、周囲から緑色の光の粒子が二人を包み込んでいた。

その光は優しく・・・さわやかな風を感じた。


「優しき癒しの風よ・・・、ヒールウィンド!!」


リュートの言葉と共に光の粒子は二人を包み込んで、さわやかな風が全身をなでるように吹き抜けていき・・・受けたダメージや

疲労までが一緒にいずこかへと消え去って行くような感覚がした。

不思議とアギトはさっきまでの疲労がすっかり消えており、むしろピンピンしていた。

リュートも同じように、アギトの魔法で受けた火傷がすっかり癒されて傷一つ残っていない。


「お前・・・、回復魔法を使えるようになったのか!?」


「うん、まぁね。

 僕ってあまり戦闘の役に立たないような技ばかりだからさ、せめて味方の補助的な役割位出来るようになった方がいいかなって。

 大佐から風属性の魔法に関する本を借りて、それをジャックさんやドルチェに訳してもらって何とか習得出来たものなんだ。

 ジャックさんは魔法が苦手な上に土属性だから、魔法を教わることが出来なくて・・・。」


リュートが照れながら説明し、アギトは呆然とした表情でそれを聞いていた。

アギトの反応があまりに薄いので、リュートは少し不安になって恐る恐る口を開く。


「えっと・・・、アギト?・・・どうかした?」


リュートの不安とは逆に、アギトは突然笑顔に溢れた表情に早変わりしてリュートの両肩をがっしりと掴んだ。


「お前・・・ホントすっげぇーよ!!

 オレなんかさっきのファイアーボールを習得するのに向こうの世界で1週間はかかったんだぜっ!?

 お前はそれを3日位で習得したんだろっ!?それって魔法の才能があるってことじゃんか!!く〜〜羨ましい限りだぜ!!」


思っていた以上の反応に、リュートは余計に戸惑って・・・更に照れた。

まさかこんなに褒められるとは、内心思っていなかった。

むしろアギトの方が長期間の間修行をしていたのだから、自分なんかとは雲泥の差があると思っていた位である。

確かに魔法に関してはリュートの方が習得するのが早かったのかもしれない、しかしそれ以上にアギトは剣士としての能力が

目ざましい程に成長しているのは間違いなかった。

現に、アギトは例えレベル差がかなりあったとしても敵2匹を相手にノーダメージで倒すことが出来るなんて大したものである。


二人はお互いのレベルアップを素直に喜んでいた。

わいわいと修行話しに花を咲かせている間に、ザナハ達の方も戦闘がとっくに終了しているようだった。

魔物を難なく撃退することに成功した一行は、再び馬車に乗って・・・走りだした。

客室のソファに戻ったアギトとリュートは先程の戦闘の感想を、早速オルフェに聞いてみた。

しかしオルフェから返って来た言葉は、二人のテンションを大きく下げる・・・とても残念な言葉だった。


「すみません、哲学書に夢中になっていて何も見てないし、何も聞こえていませんでした。

 でもまぁ・・・、怪我はないみたいですしその調子でいいんじゃないですか?」


思い切り他人事かつ無関心な態度に腹を立てた二人は、オルフェが食べようとしていたバスケットの中に入っているクッキーや

チョコレートといったお菓子を、全て二人で横取りしてたいらげてしまった。



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