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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~首都シャングリラ編~
84/302

第82話 「戦士二人の要求」

 アギト達は市民達と一緒に、酒場で大騒ぎして・・・そして門限ギリギリで帰って来た。

特にオルフェが見張っているということはなかったが、時間を守らなかった場合のことを考えるとゆっくり楽しめなかった。

ジャックは色んな男達と飲み比べやら何やらしていたのに、全く酔っていないのか・・・酒臭かったが足取りはしっかりしていた。

城門前まで戻ると、ザナハとはその場で別れることになる。

何でもザナハの場合はこの後、身を清めたり国王と夕食をしたり・・・アギト達とは違って、色々とすることがあるらしい。

とりあえず「また明日」と挨拶を交わして、残った男3人は部屋へと戻った。

酒場で殆ど食事したようなものだったので、ジャックはそのまま部屋に戻って寝てしまう。

二人はこの後どうしようかと相談し合ったが、特にこの城ですることもなかった。

なぜなら、もう夜も更けているということで城内の警備は昼間よりも少し厳しくなり、遊び回ることは出来ないからだ。

オルフェやミラも今までどこで寝泊まりしているのかも、分からない。

恐らくここにはそれぞれの、家とか屋敷とかに住んでいるとは思うが、それがどこにあるのかも分からないので話をしに行くことも出来ない。

それなら・・・とアギトは、明日からまた4日間馬車を走らせることが分かっているので、リュートに相談することにした。


「馬車でオルフェから話を聞くぞ?・・・徹底的に!!」


自室にあるベッドの上にあぐらをかきながら、アギトがそう提案する。

突然の発言に、リュートはきょとんとしていた。


「・・・何を?」


「お前・・・相変わらずの天然ぶりか!?

 話っつったら、全部に決まってんだろうが!!お前だって本当は色々と謎に思っていることがたくさんあんだろ!?

 まず手始めに問題になるのが、今日の一番の話題となった『ディアヴォロ』についてだ!!

 オレ達がこの世界に来てから・・・、ディアヴォロのデの字も全く聞かされていないんだぞ!?

 それなのに、案の定オルフェもザナハもジャックもその存在を知ってたんだ・・・こんなの不公平だと思わねぇか!?」


そう豪語されて、それもそうだとリュートは頷いた。


「まぁ・・・確かに。

 特に大佐に関しては、僕達に話していないことはまだまだたくさんありそうだよね・・・。

 国王陛下からの親書の時もそうだったし・・・、戦士と神子の婚約も・・・、ディアヴォロについても・・・。」


「どれもオレ達に関わることばっかじゃねぇかっ!!

 それなのにいっつも後手後手に話を聞かされてさぁ!!あ〜〜〜思い出しただけで腹が立つ!!」


そう叫んでアギトは頭を両手でかきむしって、ただでさえクセの強いツンツン頭がさらにめちゃくちゃになっていた。

いつもならこの光景を見て「あはは・・・」と苦笑しているところだが、今はその笑いすら出てこない。

アギトの言う通り・・・、自分達は知らされていないことがあり過ぎる。

それはやはり、面白くない話だ。

あれだけ戦士としての役目を果たす為に、みんな必死になって一生懸命に修行をしたり、覚悟を決めているというのに。

その覚悟が・・・、まだ認められていないというのだろうか?

そう思うと、やはりアギトと同じように腹が立つのは当然の結果だろう。


「それを明日大佐に聞くわけ?

 まぁ・・・、それが一番いいかもしれないよね。

 馬車での移動は確かに退屈以外のなにものでもないし・・・、魔物が出れば修行の一環としてレベルアップにつながるけど首都

 周辺じゃ魔物とのエンカウント率はものすごく低いし。

 洋館に到着したらまたすぐに次にここへ来る日程を決めたりして・・・、そうこうしている内にすぐリ=ヴァースに戻ることにな

 るのは目に見えてるからね・・・。

 馬車の中なら大佐も逃げ場はないし・・・、うん!確かにそれはいいアイディアだと思うよ!!」


試行錯誤して、珍しくアギトの意見がマトモで正しかったことに納得し、リュートはアギトの提案に賛成した。

自分の意見が通ったことに満足気になったアギトは、笑顔になりサクサクと予定を立て始めた。

普段はとても無計画でいい加減なのに、こういうことにはものすごく細かくてきっちりしているから本当にB型なんだろうか?と

疑ってしまう時がある。

勿論それは口には出さない、この辺は本当に自分はA型だなぁ・・・と思ってしまうリュートであった。

こうして二人は、時計の針を気にしながらオルフェに説明を求める内容を細かくまとめて、その為の作戦も練った。

どうせオルフェのことだから、うまい具合に言いくるめてくることはわかりきっている。

その手は食わないようにあらゆるシミュレーションを繰り返して・・・、それから二人は泥のように眠った。



 朝・・・、早朝5時起床で何とか時間に遅れず城門前に集合出来た。

夕べアギト達が酒場で騒いでいる間に、メイドが荷物を整理してきちんと準備してくれていたので忘れ物をすることもなくすぐに

部屋を出ることが出来たおかげでもあった。

まだ眠い目をこすりながら、城門前にはいつものメンバーが馬車の前にそろっていた。


「お、なんかめちゃくちゃ久しぶりじゃんかドルチェ!」


そうアギトが声をかけて、ドルチェは振り向き・・・相変わらずの無表情でこくんっと頷く。


「お前昨日とか一体どこ行ってたんだよ!?

 全然見つけらんなかったじゃんか、ジャックが何とか研究所にいるって言ってたけど・・・そこで何してたんだよ!?」


「機密事項、黙秘権を適用する・・・。」


くまのぬいぐるみを抱き抱えながら、10歳の少女の発言とは思えない言葉を突き付けて、アギトはひくひくと握り拳を突き出す。


「相変わらず可愛くねぇガキだな、おい!!

 別にいいもんね、お前が話さなくたってオルフェから聞くしぃ〜〜〜!?」


舌をれろれろと出して、両手を頭の後ろに組んで背を向ける。

アギトのその態度・・・というより言葉に、ドルチェは眉をひそめて釈然としないような表情をする。

まるで「オルフェはそんなことは絶対に話さない」・・・と、わかっているかのようだった。

すると馬車のそばでミラが、全員の席順を決めようとしていた。

咄嗟に二人はミラの前まで走って行って、制止する。


「ミラ待ったーーーーっ!!

 馬車の席順はオレ達の意見も考慮してくれ!!」


突然の叫び声に、ミラは目を丸くして首を傾げた。


「え?・・・一体どうしたんですか?」


「あの・・・僕達、大佐と一緒の馬車に乗りたいんです!!」


リュートの言葉に、一瞬で誤解が生まれた。


「おや?君達に好かれるようなマネは一切していなかったと思うのですが・・・、やはりこの魅力のせいですかね?」


「ちっげぇーよ、つかキモイこと言ってんじゃねぇっつーの!!

 好き嫌いの問題じゃなくて!!

 オレ達、オルフェには聞きたいことが山程あんだよ・・・、それはみんなもうとっくに分かってることなんだろ!?

 初代神子のこと・・・、ディアヴォロのこと・・・、マナ天秤のこと・・・、精霊のこと・・・!!

 とにかくお前達が当然だと認識していることでも、オレ達にとっては何ひとつ明らかにされていないことがあり過ぎるんだよ!!

 だからこの馬車の旅の間に、オレ達は全てを知っておきたいんだ。

 包み隠さず全部話してもらう・・・っ!!

 でなけりゃオレ達、事と次第によっちゃ・・・戦士をやめるかんな!?」


沈黙となる・・・、アギトの力強い言葉に全員が聞き入っていた。

オルフェの顔からも皮肉めいた笑みがなくなっていたのが、その証拠である。

そしてミラが少し困ったような、なだめるような口調で沈黙を破った。


「私達は別に、君達にわざと事実を話さなかったわけではなくて・・・、事態は複雑なので順を追って説明を・・・っ。」


「だからそれを今から、順を追って説明してもらうんですよ・・・。

 今は理解出来なくても・・・理解出来るように努力しますから・・・!!

 ですから・・・もう昨日みたいに突然問題が降って来て、その対処の仕方がわからずに取り乱すのは、もうイヤなんです!」


二人は「これだけは譲れない!」という真剣な眼差しでミラを、そしてオルフェを見据えた。

ここで引いてしまったら、きっとこれから先もずっと詳しい話をしてもらえないままになってしまうのが十分わかっていたからだ。

それだけは、ごめんだった。

すると、オルフェがいつもの溜め息を大きくついた。

アギトはその表情を見て・・・それが恐らく、困っているが何とか応えよう・・・という溜め息だと悟った。


「・・・仕方ありませんね。

 確かにこの馬車での旅はかなりの日数がかかる為、じっくりと話し合うには丁度良い期間かもしれません。

 ところで・・・、二人の台詞やタイミングが随分と段取り良くこなされているように見えますが?

 さては二人でじっくり作戦を練りましたね?」


アギトとリュートはどきりとしたが、悟られないように「あははは・・・」と作り笑いをするが、それが返って逆効果となった。

しかしそんな二人のやり取りは無視して、ザナハが眉根を寄せながらオルフェに詰め寄っていた。

明らかに怪しい囁き声で・・・。


「オルフェ・・・っ!?

 まさか全部話す気じゃないでしょうね・・・!?」


「うぉ〜い、聞こえてっぞ〜〜!?」


アギトがわざとらしく口元に手を当てて、つっこんだ。

さすがのリュートも、今のザナハの態度には明らかに不快な気分になった。

どうしてそうやっていつも何かを隠そうとするのか・・・?そんなに自分達は信用されていないのか?そんな気分になってくる。

しかしオルフェは、笑顔で・・・あっけらかんと答えた。


「彼らが知りたいと思うことなら・・・、お話しようと思っていますが?

 そうですね・・・、ザナハ姫の心配も考慮して話す範囲は限らせてもらいましょう。」


「おいっ!それじゃあ意味がないんだよっ!!

 オレ達はもう、知らないまま言いなりになるのはイヤなんだってば!!」


オルフェの突然の裏切りに、アギトは真っ赤になって怒り・・・オルフェの服を掴んだ。

掴み寄るアギトに視線を移し、オルフェは上から見下ろす形で声を落とした。


「誰にでも言えない話のひとつやふたつ・・・あるでしょう?

 君にだってあるはずです。

 例えば・・・そうですね、私は君のご両親について色々と聞かせてもらいたいのですが・・・どうです?」


それを聞かれて、アギトの表情が固まる。

ぐっ・・・と、言葉が詰まって口をへの字に曲げたままアギトはオルフェを見上げていた。

そしてそのまま・・・オルフェの服を掴んでいた手の力が抜けて行って・・・、だらんっと下におろした。

アギトの様子がおかしいことにリュートは気付いたが、あえて触れずにいた。

確かにアギトは、リュートにさえ自分の家族のことは一切・・・何があっても話そうとはしなかった。

まるでそれがタブーのように、アギトはわざとらしく家族つながりの話題には一切触れようとはしてこなかったのだ。

だからリュートもそれには今までずっと・・・、触れずにいた。

今のオルフェの言葉から・・・、アギトを救いだす術をリュートは持っていなかった。


「わかりました・・・、だったら話せる範囲でもいいから・・・出来るだけ全部話してくれると約束してください・・・。」


自重したリュートの言葉に、オルフェは満足そうに微笑んだ。

ザナハもどこかほっとしたような表情になって、どうやら文句はないらしい。

なんとなく気まずい空気が流れて、再び沈黙が押し寄せる。

そんな時、勢い良くパンッと両手を叩いて空気を変えようと・・・ジャックが割って入って来た。


「さぁさぁ!!交渉が済んだなら、馬車の席順を決めようぜ!!

 ミラ、オレはどっちの馬車に乗ったらいいんだ!?まだ眠くて・・・早くもうひと眠りしたいんだよ・・・。」


そう言ってジャックがわざとらしく、あくびして見せた。

ミラは即興で馬車を指定する。

先頭車両には、ザナハ、ジャック、ミラ、ドルチェが乗ることになった。

2番目に走る馬車には、アギト、リュート、オルフェが・・・。


「魔物が現れたら私達の方が先に迎撃しますので、そちらはゆっくりと話をしていてください。」


ミラがそれだけ言い残すと、先頭車両に乗るメンバーはさっさと馬車に乗り込んで早速出発してしまった。

そういえばと・・・、リュートは辺りを見回す。


「どうしたんだリュート?」と、アギトが不思議そうに眺めながら聞いた。


「いや・・・、ザナハが洋館に戻るってことは・・・またしばらくの間この首都には戻ってこないってことだよね?

 国王陛下とか・・・殿下とか・・・、見送りはないのかなってさ・・・。」


「そういやここの国王も王子も、随分と偉そうなヤツだったよなぁ〜!

 戦士と神子が救済の旅に出るってのに、挨拶も激励も手向けも餞別もないなんてな!!」


まるで聞かれてもいいと思っているみたいに、アギトはわざとらしく大きな声で暴言を吐いた。

止めても無駄だと思ったオルフェは頭を押さえながら、悩ましい表情を作っている。


「さぁ、私達も出発しますよ?早く話が聞きたいのでしょう?」


オルフェにそう促されて、二人は慌てて馬車に駆け乗り・・・そして馬車が走り出した。

早速話しを聞きたいところだったが、オルフェは城塞都市を出るまではまだ始めないと言ったので、不思議がった。

やがてその理由がわかってくる。

城から貴族達の住むエリアを抜けると・・・、市民達が住む住宅街や商店街、繁華街を通った時、たくさんの人達が見送っていた。


「姫様ーー、戦士様ーーーっ!!

 オレ達の世界の為に、救済の旅頑張ってくれよなぁーー!!」


「旅がツラくなったらいつでも帰っておいでよーーっ!?

 元気が出るようなとびきり美味しい料理を、たくさん作ってやるからさぁ!!」


「ひめさまーーがんばれーーっっ!!」


「ちっちゃいせんしさまも、がんばってーーっ!!」


「誰がちっさいだ、コラーーーっっ!!」


アギトが馬車の窓から上半身一杯に身を乗り出して、さっきの言葉を訂正させる。

しかしアギトのことを面白がっているのか、身を乗り出して怒声を浴びせても聞こえてくるのは楽しげに大笑いする声だけだった。

そんな笑い声に、アギトも思わず怒りが消え失せて・・・笑みがこぼれる。

そして両手を一杯に振って、ここに見送りに来ている市民全員に向かって約束した。


「この世界はオレ達が守ってやるからよぉーーっ!!

 大船に乗ったつもりでいろよなーーっ、光の戦士様は無敵だかんなぁーーっ!!」


アギトのその言葉に、リュートも思わず笑みがこぼれる・・・。

同じことを思っているからだ、きっと。

この町には、いい人がたくさんいる・・・こうやって見送ってくれる人達が・・・気のいい人達が、確かにたくさんいたんだと。

オルフェもそれを二人が理解してくれて良かったと、ソファに座りながら小さく口の端で笑っていた。


やがて馬車は首都を出る門をくぐって、再び森に囲まれた洋館に向けて走り出す。

洋館に到着するまでの4日間・・・、それらは全てアギト達にまだ明かされていない真実を話す為の日数となる。

その内容がどんなものなのか・・・、どれ程の絶望が待っているのか・・・アギト達はまだ、何も知らない。





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