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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~首都シャングリラ編~
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第79話 「ディアヴォロの眷属」

 謎の剣士って、名前を名乗るものなのだろうか?

謎の剣士って、毎日同じ喫茶店で食事しに来るものなのだろうか?


 アギト達はオルフェに連れてこられた古風な喫茶店の女店主から、謎の剣士について・・・全く謎でも何でもないような話を

聞かされていた。

商店街の一般市民の間で、正義の味方を気取る黒衣の仮面剣士・・・彼の名前が「レイさん」だということ。

そしてこの喫茶店で必ずガトーショコラとエスプレッソを注文すること。

もうこの時点で、謎でも何でもなくなってしまっている。

しかし女店主は「それがどうかしたのかい?」という風に、全く気になっていないようだった。

アギトが最初に謎の剣士について何か知っているか・・・と聞いた時、少しだけ間があったことを思い出し・・・理由がわかった。

ようするにこの女店主にとって、黒衣の仮面剣士は謎でも何でもなかったから・・・ただそれだけのことだったからだ。


「・・・甘党なんですね。」


「いやリュート、そういう問題でもねぇだろ・・・。」


素早くつっこみを入れてみるものの、さっきまで謎の剣士に憧れを抱いていた自分が何だか馬鹿らしくなってくる。


「今日はもうここに来たの?」と、ザナハが聞いてみる。


「いや?そういえば今日はまだだねぇ・・・。

 さっき言ったように、以前なら毎日のように来てたんだけど・・・おとつい辺りからぱったりさ。」


「おとついっていったら・・・、オレ達が首都に到着した日だよな。」


ぼそりとジャックが呟く、それと剣士とどんな関係があるのかはわからないが・・・ジャックには気になることがあるらしい。


「オルフェ、オレ達が午前中に商店街で聞きこみをしていた時にな?

 奇妙な話を耳にしたんだ、何でも最近じゃ貴族が市民に対して暴虐極まりない行動を起こしているとかで・・・。

 軍部じゃどう処理しているんだ!?

 いくら相手が貴族といえども、これは犯罪だろ・・・。」


ジャックの言葉に一息ついてから、オルフェが悩ましい表情で口を開く。


「確かに、今現在軍部で一番問題になっているものです。

 貴族が魔物を飼いだしたり、無許可で市民を奴隷にしたり、中には拉致監禁といった犯罪を犯す者まで現われています。

 しかし・・・それは貴族に限ったことではないのですよ。

 市民の中にも、それまで犯罪歴のなかった者が突然殺人鬼に変わったりしています。

 捕えて牢に入れた時、様子を窺ったら正気を失っているかのような目つきで・・・まるで悪いものに憑かれたような様だったと

 報告書には書かれていました。

 もっとも、それは一番状況がひどい例ですが・・・たいていは逮捕したら突然正気を取り戻したかのように、皆・・・口をそろえ て言うのです。

 『突然神の啓示が下った、自分は選ばれた者だと信じ行動しただけ・・・、本心から望んでしたわけではない』とね。」


「なんだよそれ・・・、悪魔にでも取り憑かれていたみたいな言い方だな・・・。」


アギトは恐ろしげに感じながら、出されたオムライスを一口ぱくりとつまんだ。

思ったことを口にしただけだったが、ザナハはハッとしたように・・・青ざめた表情になって、呟く。


「まさか・・・、ディアヴォロの眷属・・・!?」


聞いたことのない単語に、アギトとリュートは「え?」となりザナハの方を振り向く。

気がつけば、両サイドの大人二人も神妙な面持ちになって・・・言葉を失っているように見えた。


「何?・・・その、ディアヴォロの・・・何とかって!?」


リュートが首を傾げながら、ザナハ、ジャック、オルフェに聞く。

ザナハは俯いて青ざめたまま、出された食事に手をつけないまま・・・固まった様子だった。

ジャックはというと、口に手を当てて・・・怖い表情をしている。

・・・リュートの質問に答えてくれたのは、オルフェだった。


「これである程度の謎は解けました。

 ・・・先程から話題に出てきた謎の剣士の目的もね。」


回りくどい言い回しに、アギトはイライラしてオルフェを揺すりながら続きを早く言うように急かす。


「何なんだよさっきから!!

 お前らが何言ってんのかこっちはさっぱりなんだから、ちゃんと説明しろっつーのっ!!

 何なんだよ、そのディアヴォロとか!?」


「ディアヴォロ・・・、それは古代文明の遺産の魔導兵器の名前です。

 数千年前の世界は、今よりももっと高度な文明を有しており・・・魔法科学が最も盛んだった時期なんですよ。

 その時期に魔法科学の粋を集めて、魔術師達が造り出した魔法力増幅装置が『ディアヴォロ』と呼ばれる意思を持った機械です。

 最初はより豊かな世界を作る為にと、魔法力を更に高める為に使われていたものなんですが・・・ディアヴォロはマナの消費が

 ものすごく激しく・・・やがて世界を食い尽す程にまでなって、ディアヴォロの機能を停止させることが決定されました。

 しかし、ディアヴォロは機械の身でありながら・・・人間に盾突く存在となりました。

 ディアヴォロはマナを吸収し、その力で魔物を生み出すようになったのです。

 それが『ディアヴォロの眷属』と呼ばれる・・・普通の魔物とは全く異なる種の、異形の怪物を生み出したのです。

 今では・・・初代神子アウラの力により封印されている状態ですが、世界に満ちるはずのマナが減少すると加護が失われ・・・

 ディアヴォロの眷属が復活するとされています。

 しかし、その復活も・・・突然異形の魔物が現れるわけではなく・・・まずは人間の心を支配することから始まります。

 ディアヴォロは闇を司る性質を持っており、その力は人間の心の中に潜む闇を操ることが可能です。

 人間なら誰もが抱く負の感情・・・、恨み、妬み、嫉み、そして欲望、そういった心に付け入り・・・増大させて心を操るので  す。端から見れば、突然正気を失った殺人鬼のように見えるでしょうね。」


オルフェが一通りそこまで説明した時、リュートは商店街で会ったある人物のことを突然思い出した。


「・・・そういえば、アギト覚えてる!?

 商店街で、目が血走った危ない男の人に絡まれたでしょ!?

 ジャックさんが何とかその場を抑えて大事には至らなかったけど・・・、あれって今の大佐の話の内容そのものじゃない!?」


ハッとして、アギトはオムライスを食べる手が止まる。


「そういやそうだ!!

 なんかヤバイ感じがしたからジャックに任せちまってたけど、あの時ものすごい異常者みたいな感じがしたからオレ・・・いつも

 なら売られた喧嘩は買う方だけど、さすがにドン引きしてたの・・・覚えてる。」


その話を聞いて、オルフェは顎をしゃくって眉をひそめる。


「それが本当ならマズイですね・・・、もしかしたらすでにディアヴォロに心の闇を操られているのかもしれません。

 近い内に犯罪を犯す可能性がないとも限らない・・・。」


そう言うと、オルフェは突然席を立ち女店主に勘定を支払うと急いで店を出ていこうとした。


「ど・・・どこ行くんだよっ!?」と、アギトが慌てて師匠に声をかける。


「私はすぐにその男を目撃したという商店街の方へ行ってみます。

 商店街なら兵士が数人常駐していますから至急男を捜索して、状態がどれ程進行しているのかこの目で確認しようと思います。」


それを聞いたザナハが慌てて席を立ち、オルフェの後について行く。


「それならあたしも行くわ!!

 もしディアヴォロの眷属に侵されているというのなら、神子の力が必要になってくるはずよ!!

 闇を打ち払うには、光の力でないと・・・っ!!」


「姫・・・お忘れですか!?

 確かに姫は光属性を宿していますが、ディアヴォロの眷属の闇を打ち払うことが出来るのは光の精霊の力を持っていなければ

 出来ません。

 姫はまだ光の精霊との契約を果たしていない・・・、ですから姫が同行したところで男を救うことは不可能です。」


オルフェは冷たい言い方をしたが、事実を述べた。

ハッキリとそう告げられ、またもザナハは自分に力がないことを痛感させられ・・・足が止まる。

しかしそんなザナハの背中を押すように、アギトは口の周りにケチャップを付けたまま後ろについて来ていた。


「そんなモン、やってみなきゃわかんねぇだろうが。

 もしかしたら状態を和らげることが出来るかもしんねぇし、オレ達も行くぜ!!」


ザナハは目を瞬いて、アギトを見つめ・・・そしてふっと笑みがこぼれる。


「何もわかってないクセに・・・、まぁ・・・それがあんたらしいとこっていえば、そうなんだけどね。

 オルフェ、あたし達も行くわ!

 男を探すなら人手はたくさんあった方がいいでしょ!?」


アギト、そしてザナハの申し出にオルフェは溜め息交じりに笑みを浮かべて・・・反論はしなかった。


「わかりました、いいでしょう。

 しかし危ないと思ったら構わず逃げなさい、相手はディアヴォロの眷属に侵されているとはいえ一般市民に違いないのですから。

 相手を傷つけずに捕らえるのは、私かジャックに任せて・・・君達は男を探すことだけにしてくださいよ!?」


「オッケーわかった!!

 そんじゃ行こうぜ、リュート!!」


そうアギトに号令をかけられ、リュートはさっきのオルフェの説明をメモ帳にようやく書き留めて、それから席を立った。

ジャックも神妙な面持ちのまま全員店を出て・・・至急、商店街へと急いで行った。



 急に店内は静かになり、女店主はみんなが急いで食い散らかしたテーブルを片づけ出す。

カランカラン・・・、ドアの上部に取り付けた鐘が鳴り・・・客が入る。


「いらっしゃい・・・、あら・・・レイさんじゃないかい。久しぶりだねぇ!?」


ドアの前に姿を現したのは、黒衣のマントをなびかせて・・・全身黒いスーツに身を包み、顔には鷹をイメージした仮面を付け、

腰のベルトには2本の細身剣を装備した・・・少しクセのあるつややかな黒髪をした男が立っていた。


「客が来ていたのか・・・。」


「あぁ、光の戦士御一行さんだよ。

 すれ違ったねぇ・・・、光の戦士さんはレイさんに随分興味があったみたいで・・・すごく会いたがっているみたいだったよ?

 ついさっき商店街の方に慌てて行っちゃったんだよ・・・、何でも・・・ヤバイ男を見つけたとかでさぁ・・・。」


「・・・・・・っ!!」


それを聞いた黒衣の剣士は、突然踵を返し店を出て行ってしまった。

かつかつと靴音を鳴らしながら、真っ直ぐに商店街に向かって走って行く。



 

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