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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~首都シャングリラ編~
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第76話 「謎の剣士」

 ジャックに案内されたアギト達は、念願の冒険者の入り口である商店街へとやって来た。

アギトは恐らくこの町に来て、一番瞳が輝いているように思える。

看板の文字は当然読めないがイラストや雰囲気、ショーウィンドウに飾られている商品を見て、その店が何の店かわかる。

最初は文句を言っていたザナハだが、アクセサリーなどが売っている装飾品屋の前を通ったら途端に目を輝かせていた。

しかしジャックから、今回の自由行動はアギトやリュートがこのレムグランドの首都で国民達の生活を目にし、世界を救う為の意識

を高めることが目的だと聞かされていたので、ザナハの要望が優先されることはなかった。

アギトは早速念願の「武器屋」に、まず入ることにした。


 扉を開けて中に入ると、壁際には鎧のサンプルや剣が掛けられていて、ショーケースの中には様々な形をしたナイフ類が・・・、大きな筒の中には鞘に収められたままの色んな剣が入っていて、その筒に手書きで何か書いてあったのでジャックに読んでもらったら、「よりどり2点で1200ガロ」と書いてあるらしい。

剣1本の相場を聞いたら、質にもよるが一般的なものでいえば大体800〜1000ガロはするらしい。

しかしこの筒に入ってある剣は売れ残りで、切れ味がいまいちだったり何かいわくつきだったりするから破格となっているようだ。

ジャックが小声でそう教えたら、カウンターの方から店の親父の声が聞こえた。


「おいおい、うちの商売にケチつける気かい!?」


その台詞にどきっとした三人は、ジャックの後ろに隠れた。

ジャックは懐かしい友人に会った時のような顔になり、「ははは・・・」と愛想笑いをした。


「久しぶりだなぁ、相変わらずセコイ商売でもしてんのか!?」


ジャックの声、そして姿を確認した店の親父はガンをたれた顔から、急に明るい顔へと変わる。


「おぉジャックか!?随分と久しぶりじゃないか・・・何年ぶりだ、おい!?

 お前さん、軍人辞めて山奥に越したんじゃなかったんか!?」


ジャックがカウンターの方まで歩み寄って、がっしりと二人は握手を交わす。

アギト達は、さっきの食堂のおばちゃんみたいにジャックの軍人時代の知り合いかと・・・ほっとして近寄った。

親父はジャックの後ろからついてきた三人を見て、営業スマイルを満面に浮かべていた。


「これはこれは、戦士に姫さんじゃないですかい。

 こんな小汚ねぇ店によく来てくれたもんだ、色々揃ってるから良かったら見て行ってくんなさい。」


三人は武器を買うつもりはなかったが、一応礼儀として会釈だけしておいた。

親父はそれだけ言うと、またすぐジャックの方に向き直って話を続ける・・・その間、アギト達の存在は完全に無視されていた。


「それで?首都にはどんな用事で来たんだよ、俺ぁもうあんたはこの町には近づかないと思っていたんだがなぁ・・・。」


「まぁ、色々あってな。

 今回は戦士の師匠として同行してきたんだよ。明日にはまたすぐ発つんだ。」


ジャックは少し複雑そうな笑顔で話して、それを親父はすぐに感取り・・・笑顔が消えた。

そのほんのわずかな表情を、アギト達は見て見ぬフリをしていたが・・・すぐに気付いていた。

あえて会話に割り込もうとはせず、その辺の剣を見たり・・・ごつごつしたナイフを手に取って見たりして気付かないフリをした。


「人が良いのも考えもんだぞ、ジャックよ。

 お前、前回の闇の戦士の時に手痛い目に遭ったんだろうが・・・、そのせいで・・・っ。」


そう続けようとした親父の言葉を、ジャックは片手を振って遮った。


「いや、あれはもういいんだ。

 そんなことより、最近ここらへんで変わったこととかはないか?

 実は異界から来た戦士に、町のことを色々知ってもらおうと見学中でなぁ・・・町の人間に話を聞いて回っている所なんだ。」


ジャックがそう切り出したので、そろそろ会話に混ざってもいい頃合いだと悟り、アギト達は違和感のある笑顔で振り向いた。

親父はカウンターに両手を乗せて前のめりにアギト達を窺った。


「そうだなぁ・・・、町に関しては良い印象を持ってもらう為の話題を出したいところなんだが・・・最近はめっきり物騒なことが

 立て続けに起きててなぁ・・・。」


そう言いながら、親父はさほど大変という態度は見せず・・・困ったような表情で話しだした。


「物騒なこと!?」


事件のニオイを感じ取ったアギトは、瞳に星がきらめいた。


「おっ、お前さんはザナハ姫と婚約した戦士さんじゃねぇか!!

 この色男が!!町じゃあんたの噂で持ち切りだぜ!?姫と婚約を交わしたシンデレラボーイってなぁ!!」


親父がそうからかって、アギトは苦虫をかみつぶしたような表情に変わる。

かくいうザナハも、迷惑この上ないという顔でアギトを睨みつけていた。

リュートは・・・複雑な表情で二人を見ていたが、前のような胸の痛みはそれ程感じなかった。


「親父・・・、それは禁句だ。

 それよりも・・・、その物騒な話ってのを聞かせてくれないか。オルフェからは何も聞いてないが・・・?」


ジャックにそう促されて、気を取り直した親父が話しの続きを語り出す。


「まぁ、事件の殆どはある人物によって解決済みだからなぁ・・・軍部じゃとりわけ大きく問題にしているわけじゃないんだろう。

 何せ・・・、事件の大半は貴族の連中が起こしているからな。」


「貴族だって?」


ジャックが身を乗り出して聞き入る。


「あぁ、前々から俺達みたいな一般市民からしたら・・・貴族ってのはいけ好かない連中ばかりだからな。

 色々いさかいは絶えないもんさ。

 それが最近の貴族連中は以前に比べたら、・・・随分悪質になってきてるんだよ。

 相手が貴族なだけに、軍部も手を焼いている・・・なんせ貴族連中は全員国王陛下に媚を売るのが仕事みたいなもんだ。

 みんな国王様のコネでふんぞり返っているんだよ・・・、最近じゃ魔物をペットにして国民に襲わせるようなヤツらまで出てきて

 大騒ぎになったこともあったんだ。」


親父の言葉に、アギト達は顔色が変わる。

いや・・・一番激昂したのはザナハだった。


「なによそれっ!?そんなことが許されるの!?どうして憲兵や軍が動かないのよっ!?」


カウンターをばんっと叩きつけて、危うくカウンターを割りそうになる。

ザナハの勢いに押された親父は、後ずさりして焦りながら続きを話した。


「国王陛下が魔物をペットにすることを認めちまったのさ・・・、どういうわけかわからないがね。

 しかし国民で反対の意を唱えて、それはつい最近廃止されたところだよ。

 最初は魔物に鎖を付けているとはいえ、町中を堂々と散歩させていて・・・勿論その魔物によって怪我をする市民もいた。 

 冒険者や腕に覚えのある者がそれを見て、止めに入ったんだよ。

 しかし自分達が一番偉いと思っている貴族のやつらは、魔物を使ってそいつらを襲わせようとした・・・。」


親父の話がどんどんエスカレートしていくのに、アギトは真剣な眼差しで聞き惚れていた。

リュートは、これが過去の話で良かったと思った。

勿論、そんな風に思うのは良くないことだとわかってはいるが・・・もし今でもそんな横暴なことが行なわれていたら、アギトだけ

ではなくザナハまで魔物に立ち向かっていたことだろう。


「それでっ!?

 その冒険者たちはどうなったのっ!?魔物にやられたのか!?それとも逆に返り討ちにしてやったのか!?」


興奮したアギトは、早く続きが聞きたいのか・・・カウンターに上りそうな勢いで親父を急かす。

アギトの子供らしい素直な反応に親父は気を良くしたのか、にっこりと笑いながらまるで物語を聞かせるような口調で話しだした。


「その時だ・・・、どこからともなく黒衣のマント姿をした仮面の剣士が現われて、あっという間にその魔物を倒した!!

 2本のレイピアを使う二刀流だ。

 素早い身のこなし、鮮やかな剣さばき、華麗に舞うマントをはためかせ・・・、素顔を隠した謎の剣士は今や国民のヒーローさ!

 その謎の剣士が魔物を倒し、貴族共にひと泡吹かせてその場を治めたんだ!!

 遅れてやって来た憲兵に現状を突きつけて、国家に対して物申した。

 その後に魔物をペットにするという許可は取り消されたんだよ。

 しかし貴族達の横暴は後を絶たなくてな、いまだに貴族の嫌がらせはあるが・・・たまに謎の剣士が現われて助けてくれるのさ。

 だから憲兵や軍人の出る幕はなし・・・、みんなその剣士に頼っちまってるからな。」


アギトは瞳を輝かせて、恐らくその剣士に会いたいと・・・そう思っているんだろうとリュートは推察した。

タイミングが良すぎるその謎の剣士に、不審さを感じたジャックが追及する。


「その剣士の正体は誰も知らないのか!?」


「まぁ・・・貴族の嫌がらせがあれば、拝めるんじゃないか?」


意味深な言い回しに、アギトはぐずった。

しかし・・・貴族の嫌がらせはない方がいいのではないか?とリュートは思う。

ジャックは謎の剣士の正体よりも、貴族の横暴の方を気にしていた。


「貴族の嫌がらせってのは・・・、いつから始まった?」


「あんまり覚えちゃいないが・・・、ザナハ姫が神子として出立されて・・・しばらくしてから、かな?」


ザナハも考え込む・・・、無理もない。

ザナハはこの国の姫という立場、この国の貴族がした過ちは国を治める者が正さなければならないことだ。

しかしザナハの表情はまるで「今の自分にはそんな力はない」と、言っているように見えた。


他にも武器屋の親父から色々聞きたかったが、話の内容は殆ど「謎の剣士」に関してばかりだったので、適当な所で切り上げた。

店を出て、他にも防具屋・・・道具屋と、聞いて回ったが聞ける話はどれも似たり寄ったりだった。


貴族の横暴が過激になり、国民に被害をもたらすようなことまで起こるようになったこと。

そして、その騒ぎが起こる度に黒衣のマントを着た仮面の男が現われて・・・市民の味方となり、事態を収拾させること。


「なんか・・・、町の良いトコ探しのつもりが・・・事件のニオイのする方向へと向かってるような気がするんですけど・・・。」


リュートがぼそりと呟いた。

しかしアギトはそれこそ願ってもないことだと言うように、リュートの言葉に「なんで!?いいじゃん!!」という顔を向ける。


「知らなかった・・・、まさか町の人間同士でそんないさかいがあったなんて・・・。

 あたし、神子としての役割にばかり気を取られて・・・姫としての自覚が足りなかったわ・・・。」


がっくりと肩を落とすザナハに、ジャックが肩をぽんっと優しく叩いて励ます。


「そんなことはないさ、神子としての務めを果たすことはこの国に住む全ての人間の為になることなんだ。

 それにこの町のことなら、その謎の剣士とやらが市民の為に尽力してくれてるそうだから、そんな気にすることじゃないだろ。」


「にしても、一体そいつの正体は誰なのかなぁ〜!!

 黒いマントをなびかせて・・・、剣を振るって悪を斬る!!・・・かっけぇ〜〜〜っっ!!!」


「お願いだからワザと騒ぎを起こして、その剣士を呼ぶようなマネだけはやめてよね・・・?」


念のために、リュートが釘をさしておく。

しかしリュートの注意をアイディアだと聞き違えたアギトは「その手があったか!」という顔をしたので、軽く小突いておいた。

ジャックは先程から、剣士のことより貴族の非道の方を気にしているようだった。


「あの・・・ジャックさん、貴族の人達と市民の人達って・・・昔から仲が悪かったんですか?」


あまりに気にしているようなので、本当は武器屋の親父の話にあった「以前の闇の戦士・・・」という話を聞きたかったのだが、

そのことには触れないようにして別の話題にしておいた。

いつもなら、ジャックは話してもいいような内容だったら包み隠さず何でも話してくれた。

しかし今回は、リュートの目からしたらあまりにもあからさまに言葉を遮っていたように見えたので、聞いてはいけないことだと

思った。

だから・・・きっといつか、話してくれると信じて・・・。


「まぁ・・・、そんなに良くはなかったな。

 大体貴族ってのは、市民のことを見下してる節があるからな。

 それに呼応するかのように市民の方も、貴族のことをいけ好かない連中だと忌み嫌うようになった。

 中には慈善事業として市民に尽くす貴族もいたが、今ではどうなんだろうな。」


それを聞いて、アギト達は少なからず貴族と市民の関係に・・・納得していた。

勝ち組と負け組なんて・・・、どこの世界でも同じなんだと・・・そう感じたから。

金持ちでプライドが高く、自分より下の者を見下す貴族・・・。

貴族に見下され、反発心を持つようになり、ひがみ根性のついてしまった市民・・・。


ジャックのそんな格差的な言葉に、ザナハは胸を痛めているようだった。

本当に・・・、神子としての責任を果たし・・・この世界のマナ天秤を正常にすることで、平和が訪れるのだろうか?

それでこの国が本当の意味で救われたと・・・、本当に言えるのだろうか?


そんな不安だけが、ザナハの心に渦巻いていた・・・。


『この国は腐っている・・・、こんな国の為にお前が犠牲になる必要なんか・・・どこにもない!』



兄から言われた言葉が・・・、再びザナハの胸を抉った。


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