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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~首都シャングリラ編~
77/302

第75話 「ノキア食堂」

 オルフェからこの世界のお金をもらって、アギト、リュート、ジャックは城門前に向かった。

そこでザナハと待ち合わせをしていて、そこから城下町へと繰り出すのだ。

城内は昨日で大体見て回ったから殆ど未練はなかった・・・というのも殆どが立ち入り禁止区域になっていて入れなかったからだ。

貴族、見張りの兵士、城内勤務の役人、見物に来た国民など、城内にいる人達といったら大体こんなところである。

それよりもここが一体どういった国なのか調べるにはやはり、城下町に住む人々の生活を直に見ることが最もポピュラーな調査方法であった。

国民の生活がそのまま・・・、治世者の手腕を見ることになるからだ。

城下町見物の目的は、この国が本当に命をかけて守るに値する世界なのかどうか・・・、それを問う為の大事な活動でもある。

アギトやリュートは殆ど森の中にあった、旅の拠点である洋館での世界しか知らない。

そこにはオルフェ直属の軍人や部下、メイドや使用人など・・・そういった人間としか接触したことがなかった。

これではこの世界の本質を見ることはできないと、オルフェの粋な計らいで今日一日だけ自由が許された。

本当なら一日でも早くこの世界を救済する為に、修行に専念したり・・・精霊との契約を済ませなければいけない。

しかしアギト達のゴールデンウィークは、もうあと6日程しか残されていなかった。

この首都から、異世界間を移動する為のレイラインがある洋館まで、4日は馬車を走らせないといけない。

最後の日はリ=ヴァースへ帰る日、そして今日一日。

1〜2日で大幅な戦力アップは望めないと踏んだからなのか・・・、とりあえず有意義な使い方は出来そうだった。

城門前まで行くと、ザナハが手を振って待っていた。

しかしそこにドルチェの姿はなかった。

城下町見学に行くのは4人だけらしい、ザナハと合流して城下町へと繰り出す。


 城下町はジャックが詳しいらしい。

ジャックが昔軍人だった頃、下町にある酒場や繁華街によく息抜きしたものだと話してくれた。

そこでジャックのオススメのお店を教えてもらうことになる。

お店まで歩きながら、回りの光景に目を奪われた。

回りには中世の世界にそのまま迷い込んで来たような、日本ではとても考えられない光景を目の当たりにする。

下町・・・という感じのする食べ物屋さんがたくさん並んでおり、食肉、鮮魚、果物、八百屋・・・そこで買い物をする奥さんや

旅人、兵士の格好をした男達が腰に剣を下げて道を堂々と歩いていたり、どこからどう見ても魔法使いだと思わせるようなローブを

来た老人がいたり、実に色んな人々でごった返していた。

お店が軒を連ねて並んでいるので、ここはかなり人で混雑していた。

はぐれないように背の高いジャックを目印に、なんとかついて行く。

しばらく進んでいくと、ようやく人が少なくなってきて落ち着いてきた。


「ここだ、まだあったんだなぁ。

 ここのおかみさんがものすごく良い人でなぁ!アビス人で金のなかったオレは、よくここでメシを食わせてもらったよ・・・。」


そう懐かしそうに語りながら、ジャックはガララッと硝子戸を開けて中に入った。

のれんに「ノキア食堂」と書いてあって・・・、まるで有名ラーメン屋のチェーン店みたいな入り口だった。

中には客がまばらに来ていて・・・、ふと視線をやると・・・一際目立つ客が居座っていた。


「んぐんぐっ、がつがつ・・・っ!!

 兄様ー、それあたしの肉まんネ、勝手に食べたら許さないヨ!!」


「ケチケチするでないメイロンよ、追加注文すればいいであろう!!がつがつ・・・ごくんっ!!

 おかみ!!チャーシューメンのおかわりじゃ!!ネギ多めでのう!!」


「若様・・・、これで6杯目ですが。」


「ドラゴン化して体力を消耗した後は、腹が減るから仕方なかろうが!!ごくごくごくっ!!ぷはぁーーっ!!

 ほれ、お前達ももっと食わんか!!」


「僕はもういいです、これ以上食べ過ぎたら馬鹿になってしまいますから。」


 一瞬、このまま回れ右して見なかったふりをして出て行きたかった。

しかしそうはいかないのが、世の中である・・・思い通りにいくはずもなかった・・・。

おかみさんが入店してきた客を見て、それが懐かしい顔見知りであるジャックだったのに気付いて・・・大声で出迎えてくれた。


「あらあら、もしかしてジャック坊やかい!?随分久しぶりじゃないか!!

 ほら、そんな所に突っ立っていないでいつもの席に座んな!!」


とても愛想が良くて雰囲気が良かったが、さすがにこのタイミングではその人の良さが裏目に出る・・・。

おかみさんの言葉に、チャイナ達が一斉にこちらに気付いたのだ。


「なんと、戦士の小童共ではないか!!奇偶だのう!!」


サイロンが口の回りを脂でギトギトにしながら挨拶をするので、アギトがすかさずつっこんだ。


「こんな所で何やってるんだお前らわぁーーーっっ!!

 捕まったらヤバイから、さっさと逃げろっつっただろぉーーーっ!!」


アギトの怒りに、しかしサイロン達は全く動じずにのうのうと食事を続けていた。

ハルヒやイフォンも・・・これがいつものことだとでも言うように普通に接していた。


「あたし達、せっかくレムの首都に来たネ!

 ここでグルメ観光しなくてどうするヨ、一番ウマイ店ここだってガイドブック載ってたネ!!」


「あらあら、お譲ちゃんはまだ小さいのになかなかお世辞が上手いじゃないか!!

 それじゃ正直者のお譲ちゃんには、この餃子!!タダで召し上がっとくれ!!」


おかみさんの計らいに、メイロンは瞳をキラキラと輝かせて口から透明なよだれが糸を引いていた。

そのよだれを、ハルヒは当然とでもいうように黙ってズボンのポケットからハンカチを取り出して拭き取った。

昨日の出来事が全く堪えていないのか、サイロン達の図太さにアギト達は頭が痛くなってきていた。


「オレ達は、この町に住んでる人達のことを知りたいだけなのに・・・。

 一番どうでもよくって、知りたくも何ともないヤツ等に遭遇してどうすんだよ・・・。」


とりあえず、朝食を食べたばかりだったので軽食だけ頼むことにした。

おかみさんには、お昼にまた改めてここに食事しに来るからと断って、アギト達は注文しだした。


「オレ・・・朝食結構たくさん食べてきたから、アイスクリームだけでいいや。」


「お主ら、通ではないのう!!

 まずこの店に来たら、特大ジャンボ餃子を頼むのがセオリーであろうが!!」


「腹一杯っつっただろうが!!

 てゆうかそんなセオリー知らねぇし!!何勝手にいきなり胸やけしそうなメニュー勧めてんだよっ!!」


サイロンのペースにハマりがちになっているアギトに、まぁまぁ・・・とリュートがなだめて他の仲間達も軽食を注文する。

簡単なメニューばかり注文したので、出てくるのが早かったからアギトは急いで食べて早くここからオサラバしようと思った。

それにしても、隣で大量にたいらげる龍神兄妹を見て・・・それだけで胸やけがしそうになってくる。

テーブルの上には、新しく出てきた食事、そして綺麗にたいらげた空のお皿がたくさん置いてあったので、さすがに驚いたリュート

が、サイロンに話しかける。


「あの・・・、一体何人前位食べているんですか?」


リュートの質問に、サイロンとメイロンは食事に夢中過ぎて答えられずにいたのを、ハルヒが代わって答える。


「次のチャーシューメンが来たら、総合計にして63人前は完食されたことになる。

 若様が41人前で、メイロン様が22人前の計算だ。」


聞くんじゃなかったと・・・、リュートはフルーツシャーベットにスプーンを突きたてようとした手が止まった。

さすがにジャックもザナハも・・・サイロン達のものすごい食欲の前に、フォークが進まない。

話題を変えようとアギトが一気にアイスクリームをかきこんで、げっぷをしながら聞いた。


「んで、お前達いつまでこの首都に居座るつもりなんだ?

 まさかオレ達のストーカーしてるってワケじゃあないよなぁ!?」


失敬な、というような仕草をするが相変わらず糸目の笑顔のままで振り向くので、実際の感情が掴めないイフォンが答える。


「たまたま行き先が同じだけですよ。

 首都位の大きな町なら仕事がたくさんあるからね、ここでしばらく荒稼ぎをしたらまたどこかに流れますよ。」


そう言って、ずず〜っと湯呑に入った緑茶をすすった。

ようやくジャックもザナハも食事を終えて、おかみさんに勘定を払う。

おかみさんが「それじゃまたお昼に!」と笑顔で見送ってくれた。

アギト達は一応サイロン達に挨拶をして、店を出て行った。

硝子戸をしっかりと閉めてから、誰からともなく呟く。


「あ〜・・・ビックリした!!

 まさか龍神族の連中が来てるとは思わなかったわ!」


ザナハがお腹を押さえながら、今まで息が詰まっていたのか・・・ようやくはぁ〜〜〜っと大きく息をついた。

ジャックもうんうんと頷きながら、バツの悪そうな顔をしている。

リュートが気を取り直そうと、次にどこを見学しに行くかの話題を振る。

アギトが武器屋とか言い出したので、ザナハがあからさまにイヤな顔をした。


「武器なら洋館の武器庫にいくらでもあるでしょ!?なんでここまで来てわざわざそんなところに行かないといけないのよ!?」


「武器自体が見たいわけじゃないんだよ!!

 お店の雰囲気とか、その武器を買いに来る冒険者とか戦士とかを拝みたいの!!

 人との触れ合いをして来いってオルフェが言ってただろうが、だから武器屋の主人やお客と話がしたいんだよっ!!」


アギトがそれらしい言い訳をして、ジャックが「それなら・・・」とアギトの言うことを信じてしまって案内することになった。

にんまりとピースサインをするアギトに、ザナハは憎らしさを覚えていた。

リュートは特に行きたい場所があるわけでもなかったので、反対はしなかった。

繁華街に行こうとした時に、ジャックが思いだしたかのように一言・・・付け加える。


「あ、そうそう。今はどうだか知らんがなぁ・・・。

 武器屋とか酒場の周辺ではよく冒険者や戦士、兵士達が喧嘩してるのが日常茶飯事だから・・・一応気を付けろよ!?

 ヘタしたら回りの迷惑も考えずに魔法を放つ危ない連中とかがいるかもしれんから、巻き添えを食わないようにな?」


それを聞いたアギトの瞳はなぜか輝いていたが、リュートとザナハは「え・・・!?」とイヤな顔になった。


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