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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~首都シャングリラ編~
73/302

第71話 「君に誓う」

 ギリリリリッ・・・・。

寝入っていた為、何時なのかわからない。

眠りの浅かったリュートは、ふと急に目が覚めて・・・隣からアギトの歯ぎしりの音が聞こえてきた。

ぼんやりと目を開けると、なぜだかスッキリと頭がさえていたので・・・仕方なく起き上がって、とりあえず隣のベッドを見る。

アギトが幸せそうな顔をして、ギリギリと歯ぎしりに夢中になって寝ていた。


(そういえばここしばらくずっとアギトの隣で寝ていたから、歯ぎしりの音に慣れたみたいだな・・・。

 今こうして改めて聞いたら、ものすごく耳ざわりだけど・・・。)


 そんなことを頭の中で呟きながら、リュートはベッドに座ったままボーッとしていた。

あまりに目が冴えていたので、すぐ横にあるテーブルの上に置いてあった銀時計を手に取って、今何時だか確認をする。

夜中の・・・まだ12時にもなっていなかった。


(アギトがドラゴンと戦った後だったし、それなりに色々あったから・・・そのまま疲れてすぐ寝ちゃったんだな、僕達。)


 思ったより時間が経っていなかったので二度寝をしようと、ベッドに横になろうとした時だった。

突然・・・、リュートは自分の目に映ったモノが信じられなかった。

思わず目をこすり、幻覚ではないかと疑った程だ。

自分のベッドの・・・足元に、・・・目の前に青い鳥が留まっていた。

部屋の中は明かりがついていなくて真っ暗なはずなのに、その鳥自体が光を帯びているみたいに、綺麗な青い光を放っている。

それはとても美しく、目を瞠る程の姿だった。

その青い小鳥は、ちょんちょんっとしばらくリュートのベッドの端をつたっていたが、視線にでも気づいたのだろうか。

急にパタパタと飛んで行った。

ここは部屋の中、しかも扉も窓も閉め切っている。

一体どこへ飛んで行くんだろうと、リュートは青く光る小鳥を自然に目で追っていた。

青い鳥は羽音を立てながら廊下へと続く扉へ向かって行く。

あの勢いで飛んで行ったら扉にぶつかってしまう・・・、リュートは瞬間的に「危ないっ!!」と心の中で叫んでいた。

体が光るだけでも不思議なのに・・・、その青い鳥は扉にぶつかることはなかった。

リュートは夢でも見ているのかと本気で思った。

青い鳥は扉にぶつかることもなく、まるで幽霊のようにスーーッと扉をすり抜けて行ってしまったのだ。

一体どうなっているんだろう・・・!?

あの青い鳥はどこから来て、どこへ行くんだろう?

頭が冴えていて、青い鳥のことがものすごく気になったリュートは、そのまま靴をはいて部屋を出ていた。

アギトが起きないようにそーっと扉を閉めて、廊下の左右を見渡した。

・・・誰もいない。

すると一番奥の方に青い光が見えて、その小さな青い光が角を曲がって行ってしまった。

思わずリュートは走って、その青い光が向かった方へ追いかけて行った。

角を曲がり、またきょろきょろと探す。

まるでその青い光は自分を誘っているように、呼んでいるように、リュートが追いつく度に分かれ道の所で行先を決めている。

リュートはひたすらそれを追いかけるだけだった。

とても気になるから・・・、だって青い鳥は自分達にとってとても特別なものだから・・・。

それが何なのか何もわからないまま、リュートは右へ、左へと・・・その青い光をいつまでも追っていた。



 すると、いつの間にかアギトと探検していない場所へと来てしまっていた。

不思議なことに巡回の兵士や、見張りに誰一人会うこともないまま・・・。

こんなことってあるのだろうか?仮にも国王陛下や王子、それに今は姫だって城の中にいるのに・・・。

なおさら警備が厳重になっていてもおかしくないのに・・・、リュートは青い光に夢中になり過ぎていて今頃そんなことに

気付いていた。

見張りの兵士がいないのも、全てさっきの青い光の仕業なのだろうか?

そう考えると、急に恐ろしくなってきた。

何者かが自分をここまでおびき寄せる為に、見張りや巡回の兵士をどこかへ隠して、自分をここまで連れてきたのだろうか?

でもそれなら目的がわからない。

まさか、これもルイドの仕業なのだろうか?

もしルイドならば、オルフェ達が言っていたようにリュートを闇の戦士としてアビスに迎え入れようと企んでいるはずだ。

自分はまんまとその罠にはまってしまった!?

そう気付いても、もう遅かった。

リュートが罠だと思って引き返そうとした、その時・・・・・・。


「どうしてそんなことを言うのっ!?」


 ザナハの声だった。

その声はとても荒々しく、悲鳴に近いような・・・、悲しみを含んだような・・・、涙声だった。

ザナハの声に驚いたような・・・安心したような・・・そして、不安をかきたてられるような・・・、そんな思いで足を止める。

盗み聞きするみたいで気が引けたが、ザナハの口調が普通ではなかったのでリュートは思わず声のする方へと歩いて行く。

いつの間にか青い鳥もいなくなっており、すぐ目の前には1つだけ扉が開けっ放しで・・・光が漏れている部屋があった。

ザナハはそこにいるのだろうか?

そう思って、リュートは足音を立てないように近づいて壁に張り付いたまま、そこで動きを止めた。

誰と話しているんだろう?

リュートは内心ドキドキしながら、扉の近くに立って出来る限り息を殺した。


「昔はそんなことを言う人じゃなかったのにっ!!

 お兄様は変わってしまった・・・っ、あたしの知ってるお兄様はそんなこと・・・絶対口にしたりしなかった!!」


「だがザナハ、これが真実だ。

 お前も見ただろうが、・・・この国は腐っている。

 こんな国を救う為にお前が命を懸ける必要なんざ、どこにもありはしない。」


「でも・・・、あたしは光の神子なの。

 あたしはこのレムグランドを平和で美しい国にする為に、マナに溢れた世界にする為に生まれてきたのよ。

 あたしが光の神子だから、この国の姫という身分を与えられた・・・っ!

 何不自由なく、毎日きちんとした食事が食べられて、綺麗な服も与えられて、家庭教師から勉強も見てもらって・・・。

 これだけの生活を保障されて、贅沢な暮しをさせてもらってるのも・・・全てはあたしがこの世界の為に命を懸ける運命を

 背負っているからに過ぎないわっ!?

 今までの特権も、全てその義務を果たす為にあったものなの!!」


「そう刷り込まれたからだ!

 それも全て、お前がそう思うように幼い頃から刷り込んで、洗脳させて、世界の生贄になることを選ばされているだけだ。

 なぜそれがわからない!?

 この世界は神子という名の犠牲を正当化させて、マナ天秤をいたずらに弄んでいるに過ぎないんだぞっ!?」


「違う・・・、違うっ!!

 マナの均衡が崩れているから、レムグランドのレイライン付近に魔物が多く出現するようになったって・・・お父様が。

 それに・・・、あたしのマナ指数は初代神子のアウラと同等数のもの・・・っ!!

 今のこの時代に・・・アウラと同等数のマナ指数を持って生まれてきたことには、絶対に深い意味があるからよ!!」


 しかし、そう主張するザナハの声は震えていた・・・、迷いがあるように聞こえた。

アシュレイが放った言葉の端端に・・・言い逃れることの出来ないような事実を突き付けられて、今までの自分の思いを否定

されそうで怖くなったのか、ザナハはただ頑なに言葉を遮っているように思えた。

恐らく、今この部屋にいるのはザナハと・・・アシュレイだけ。

二人はこんな時間に、この部屋で・・・今までどんな話をしていたのだろうか・・・!?

しかし、今さっき聞こえた言葉はとても重要なことを話しているように聞こえた。

残念ながらリュートには、言葉の全てを聞き取ることが出来なくて会話の殆どの意味がわからなかった。

ただ言えることは・・・今ザナハの心が、とても不安定にあること。

いくら兄妹喧嘩だからといっても・・・リュートがいつもしているような兄弟喧嘩と、全く種類が違っていた。

世界を背負う重たい使命を巡って、お互いの見解について・・・激しく論争している・・・そんな感じだ。

挙げ句に、中からザナハのすすり泣く声まで聞こえてくる。

リュートは・・・自分がここにいてはいけないような、そんな思いに駆られた。

ザナハが泣くと、自分もとてもつらくなる。

手を差し伸べてやりたい・・・、泣かなくても大丈夫だよって・・・励ましてやりたい。

しかし現実のリュートは足がすくみ、どうにか自分がここにいるのが見つからないようにと、どこかに祈っている情けない姿だけ。

今の自分じゃ・・・ザナハの力になってやれない。

リュートはそんな風に思っている自分がとても憎らしくて・・・、ぎゅっと服の裾を握り締めていた。


「もうこの話は終わりだ!

 言っただろう、救済でも何でもどこへなりと行ってしまえってなぁ!!」


「アシュ・・・兄さま・・・っ!!」


 悲痛なザナハの、かすれた声・・・。

聞いていられない・・・、しかしリュートはザナハがこの扉から飛び出してくる・・・そう察して、どこかに身を潜めようとした。

しかし回りは何もなく、隠れるところなんてどこにもなかった。

勢い良くザナハが飛び出してくると思っていたら、静かにドアノブに手をかけて・・・涙で溢れる瞳を拭いながら、ザナハはそっと

扉をすでに閉めていて・・・廊下に出ていた。


「あ・・・・・・っ。」


 思わず声が漏れる。

誰もいないと思っていたのか、ザナハがリュートのもらした声に驚いて目を瞬いていた。

大きな水色の瞳からはとめどなく涙が溢れ、零れていて・・・悲しみに満ちた・・・とても悲痛な表情をしていた。

その姿がとても美しくて、綺麗で・・・、ザナハが悲しみに打ちひしがれているのに・・・こんな表現は不謹慎なのかも

しれないが・・・本当に、綺麗だった。

リュートは自分の心臓が早鐘を打ち、だんだんと高鳴っているのがわかって、その音が城全体に漏れていないか心配だった。

しばしの沈黙があって・・・、リュートがザナハに向かって名前を呼ぼうとした時・・・。


「リュート・・・っっ!!」


 何が起こったのか、正直全くわからなかった。

ただ・・・今わかっているのは、ザナハがものすごく近くにいること。

近くといっても隣とか・・・そういう意味ではない、泣き声を必死でこらえるザナハの声が・・・すぐ耳元で聞こえる。

リュートの胸の中で泣き崩れるザナハ・・・。

あまりに必死で声を殺すから・・・きっと泣き声をアシュレイに聞かれたくないんだと、リュートはそう悟った。

ここにいたら・・・ザナハはきっと、ずっと声を殺して泣かなくちゃいけなくなる・・・。

リュートは、ザナハの肩にそっと触れて・・・小さく、耳元で囁くように・・・ザナハに声をかけた。


「ザナハ・・・、君が思い切り泣ける所まで・・・僕も一緒に付き合ってあげるから・・・。」


 ・・・そう一言、飾りっ気のない言葉で、・・・リュートはただ心に思った本当の気持ちを、言葉にした。

その言葉に応えてくれたのか、ザナハはとても苦しそうに・・・小さくコクンっと頷いた。



 リュートは殆どザナハに連れて行かれるように、一応寄り添ってはいたが・・・恐らくザナハの私室であろう部屋に案内された。

ドアを開けて中に入る。

暗くて部屋全体をハッキリと見渡すことは出来なかったが、今は部屋の感想を述べている場合ではない。

ザナハはベッドに座って、ひっくひっくと・・・再び涙が溢れてきたようだった。

リュートは正直どうしたらいいのか全くわからなかったが、自分の弟や妹が泣いている時にしていたことを思い出す。

しかし・・・それはあくまで弟や妹にしていたことなので、まさかザナハを抱き締めるわけにはいかない。

相手が自分と同じ年の異性である場合の対処法は、残念ながら未習得のままだった。

とりあえず側まで歩み寄って、ズボンのポケットに手を入れると・・・入れっぱなしだったハンカチを発見。

ハンカチの存在にほっとしてリュートはそれを取り出し、ザナハの前にひざまずいて・・・それを差し出す。

ザナハが泣いていて自分も悲しいからって、自分まで泣きそうになってたらダメだ。

安心させる為にも・・・自分は笑顔でいなければ・・・!

そう言い聞かせてリュートはザナハに声をかける。


「泣きたい時は思いきり泣いた方がいいよ。

 これ・・・、使っていいから。泣きやむまで・・・ずっとここにいるから・・・。」


ザナハは泣き顔で崩れた顔をリュートに向けて、恥ずかしそうに首を横に振った。


「もういてくれなくていいってば・・・っ!!

 あたしの泣き顔ものすごく汚いしっ、泣き声だってうるさいし・・・っ、一晩中泣いてるかもしんないし・・・っ!!」


否定するザナハに、リュートの心は折れなかった。

今こんな状態で一人にするのは良くない、きっとマイナス思考に陥って・・・悪いことばかり考えてしまうに決まってる。

自分が・・・そうだから。


「そんなの、僕は平気だよ。」


リュートの・・・言葉は少ないが、妙に説得力を感じさせる強い言葉にザナハが戸惑う。

受け取ったハンカチで涙や鼻水で濡れた顔を拭いながら、ザナハは次の言葉を考える。

声は泣き声で、喘ぎ喘ぎだったが・・・どうにか泣きの本番が来る前にリュートを出て行かせようと、涙をこらえていた。


「あんたは平気でも、あたしは平気じゃないんだってば・・・っ!!

 こんな姿見られたくないのっ・・・、ものすごく恥ずかしいんだから・・・っ!!

 もう・・・、どうしてこういう時に限って、あんたは頑固なのよ・・・っ!!」


そう言われて、自分でも不思議だった。

いつもならきっと、ザナハが「もういい」と言った時点で「はい、それじゃ」と、素直に従っていたところだ。



ただ・・・今は、ザナハの側にいたかった。


一人で悲しませたくなかった、・・・ほんの少しでもいいから、その悲しみを自分に分けて・・・ラクになってほしかった。


そしていつも見せてくれる笑顔を、見せてくれるように・・・。



その時・・・自分の本当の気持ちを、今感じている想いを・・・リュートは、ハッキリと感じ取った。

あぁ・・・そうか、僕はザナハのことが・・・こんなにも大切で、いとおしかったんだ・・・。



君が嬉しい時には・・・、僕もすごく嬉しかったし・・・一緒に微笑んでいたかった。


今こうして君が涙に暮れている時には・・・、僕もとても悲しくて・・・君を一人にしたくなかった。



リュートはザナハの隣に座って、正面から抱き締めるのではなく・・・後ろを向いた。


「それじゃ、泣いてる姿は見ないでおくから・・・。

 その代わり胸を貸すんじゃなくて、背中を貸すよ・・・涙でも鼻水でも何でも付けていいから、僕の背中に向かって思い切り

 泣いて・・・。

 我慢しないで、泣いて・・・、泣いて・・・、泣くのに飽きてきたらさ・・・またザナハの笑顔を見せてよ。

 それまでずっと、・・・待ってるよ。」


・・・そう、ずっと待ってる。


そう囁いて、次にザナハがどんな台詞で反論してくるのか構えていたら、とんっと・・・背中に何かが当たった。

両手でリュートの服を握って、・・・震える手で強く握って・・・泣いている。

ザナハが肩を震わせているのがわかる。

わかるだけに・・・リュートも、その悲しみが伝わってくるようだった。

そして一生懸命に我慢していた緊張の糸が途切れたのか・・・、ザナハは声を出して・・・大声で泣いていた。


「うわああぁぁぁぁっっ!!

 兄さ・・・っ、の・・・っ、バカァーーッ!!」


ザナハが一体どれだけのものを背負っているのか・・・、自分には想像も出来ない。

こんな・・・涙に崩れて震える小さな肩に、どれだけのものを背負わされているのか・・・、自分にはわからない。

ただこれからは、その背負っているものをほんの少しだけでも、自分が代わってやりたいと心から願う。

それでほんの少しだけでも、ザナハの笑顔を守れるのなら・・・。

例え誰を敵に回しても、自分だけが・・・ザナハの味方でいてあげられるように・・・。



苦しみを一人で抱えて、涙に押しつぶされてる君に・・・、僕は誓うよ・・・・・・。


君を守るためなら、僕はなんだってしてあげるから・・・。


約束するよ・・・、今の僕には・・・君に面と向かって言う勇気はないけれど・・・、でも・・・約束しよう。


君が・・・望むなら・・・僕は、悲しみから君を守る盾になるよ・・・。


君が望むなら・・・、世界中を敵に回しても、僕が全ての苦しみから君を解き放ってあげる・・・。



そう、君が・・・・・・、望むなら・・・・・・。



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