第66話 「対ドラゴン戦、攻略法その1」
ドーム状の闘技場でアギトと、ドラゴンと化したサイロンがにらみ合う・・・。
アギトのレベルは38、そしてサイロンのレベルは150・・・、どう見ても勝ち目はゼロである。
「つーか、一発でもダメージ受けたら即死じゃねぇか・・・っ!!
こんなのアリかよっ!!」
後ろに下がって、サイロンから距離を取るが・・・そのあまりの巨大さに、どれだけ距離を取っても変わらないような気がした。
鞘から抜いた剣を両手に構えて、形だけはとるものの・・・あんな巨大な生物にどう斬り込んだらいいものか・・・。
(とりあえず例の作戦を実行するには、あいつとの間合いを詰めて・・・狙いを定めねぇと・・・っ!!
でも少しでも間合いを詰めたらあの尻尾攻撃を受けて、瞬殺は免れねぇな・・・どうするっ!!)
それでもアギトがドラゴンに一太刀でも浴びせるには、ドラゴンの攻撃手段をひとつでも減らすことが重要だと・・・アギトは
オルフェからそう教わった。
サイロンがじりじりと近寄る・・・、ドラゴン化して言葉が使えなくなったのか・・・グルルルルっ・・・という唸り声しか
聞こえてこない。
やがてその両目がアギトをとらえて、大きく息を吸い込んだ!!
「やべぇっ!!」
アギトはそう察して、即座にその場から離脱した。
その間一髪のところで・・・サイロンは大きく息を吸い込んだ直後に、大きな口から燃え盛る炎を一気に噴き出した!!
ゴオオオォォォッッというものすごい音と、熱気がアギトのすぐ真後ろで・・・岩をも溶かしていた。
滑り込むようにズザザザーーッと、地面を転がり・・・そしてさっきまで自分が立っていた場所に目をやる。
そこには・・・高温の熱湯でもまいたかのように、もうもうと湯気が立ち込めて、じりじりと岩や地面が悲鳴を上げていた。
「マジかよ・・・っ!!」
蒼白になりながらアギトはすぐさま立ち上がり、巨体の方へ目をやる・・・が、さっきまでいた場所に巨大な姿がどこにもなかったことに今頃気づく。
「ど・・・っ、どこ行ったっ!?」
しかし、アギトにはすでにわかっていた・・・、こういう場合・・・決まって敵はここにいる。
「上だっ!!」
そう叫んで真上を見上げると、サイロンは大きな翼で飛び上がり、またしても大きく息を吸い込んでいた!!
「くっそ・・・、炎攻撃ばっかりかよぉーっ!!」
サイロンの視線から逃れようと、アギトはグラウンド内を駆け回る。
こんなことではいつまでたっても炎から逃げ回るだけで、こちらから攻撃を仕掛けることなんて出来っこなかった。
サイロンは地面に向かって、思いきり炎を吐きながら上空を飛び回った。
(よっぽどのヨソ見でもしない限り、こっちがあの巨体を見逃すなんてことは・・・まず有り得ねぇ・・・!!
だけど向こうは、自分より遥かにちっさいアリんこを目で追いかけているようなもんだ・・・。
ましてや、ああやって炎を吐きながら追いかけ回していたんじゃ、すぐに目標を見逃しやすい。
その利を活かして、どうにかあいつが下りてくるのを待って・・・作戦1を実行しねぇと・・・!!)
アギトの予想は的中した。
サイロンは飛び回りながら上空できょろきょろとアギトの姿を探している。
アギトはグラウンドの影にある岩の後ろに身を潜めていた。
この暗がりなら余計に見落としやすいはずだと、アギトはその岩陰からチラチラと・・・見つからない程度に様子をうかがった。
(へっ、探してる探してる・・・!!さぁ・・・下りてきやがれ!!)
上空なら全体を見渡しやすいが、逆に小さいものが見えにくいという弱点があった。
うまく気配を殺してどこかの陰に隠れているのだと推察し、サイロンは仕方無く地面へと降り立った。
(・・・今だっ!!)
その瞬間を見逃さず、アギトは一番高い岩によじ登り、サイロンに向かって大声を張り上げる。
「ここだぁーーーーっ、バカ大将ーーっ!!」
岩のてっぺんまで登り切り、片手で岩のてっぺんを掴み・・・サイロンに向かって自分の居場所をアピールした。
サイロンはすぐさまアギトの居場所に向かって、口を開けていた。
オルフェの言葉を思い出す・・・。
「ドラゴンが炎を吐く時、必ず思い切り息を吸い込む為に・・・鼻ではなく、口から空気を吸い込みます。
これはドラゴンが炎を作り出す為に、大量の酸素を必要とするからです。
そして喉の奥にある炎を作りだす高温の袋に酸素を溜め込み、発火装置の役割をする喉仏で着火し、炎を噴き出す・・・。
ドラゴンの吐く炎のメカニズムとしては、こういった手順で行なわれています。」
炎ばっかり吐くお前が、その馬鹿みてぇな大口を開けるのを待ってたぜ・・・!!
アギトはサイロンが空気を吸い込む瞬間、片手に持っていた「何か」をサイロンの口の中めがけて投げつけた!!
投げいれたのは、白く・・・野球のボール位の大きさの物体だった。
それを投げいれたことを確認して、アギトはすぐさまよじ登っていた岩から飛び降りて・・・再び別の岩に身を隠す。
サイロンは自分が何かを飲みこんだことにも気付かず、そのまま酸素を溜め込んで・・・、一気に炎を吐きだした!!
・・・しかし。
サイロンは大きな口を開けて、炎を噴き出す仕草をしたが・・・「ハァァーーーッ」と口を開けただけで炎は出さなかった。
目を丸くして、サイロンの体がぴくんっと直立したように・・・姿勢を真っ直ぐにして硬直する。
・・・サイロンの様子が明らかにおかしかった。
まるで喉の奥に魚の骨でもひっかけたように・・・、「カッ、カッ」と・・・何かを吐きだそうとしている。
しかし・・・ドラゴンの両手は短く、退化した形になっているので喉の奥まで手が届かない。
やがて・・・、サイロンの口の中から、何か白い物体が姿を現した。
アギトはその様子を見て、にやりと笑った。
サイロンの口の中に投げいれた物・・・、それこそオルフェから伝授された・・・対ドラゴン用の必須アイテムだった。
静止世界の中で地獄のような訓練の毎日、アギトの筋力アップやマナのコントロールもようやく人並みになってきた頃。
オルフェがある日、奇妙な物をアギトに見せた。
それは手の平サイズの・・・近くで見たら、まるで中華まんのように見えた。
オルフェに「はい」と渡されて、お腹が空いていたアギトは思わずそれを口にする。
「それは食べ物ではありませんよ。」
からかわれたと思って、おえっと吐きだす。
「じゃあ何だよ、これ!!どう見ても肉まんか中華まんにしか見えねぇじゃん!!」
アギトが何を言ってるのかよくわからず、全く構いもせずに説明しだした。
「それは『消火まん』という物質です。
見た目は白くて丸い・・・何の特徴もない物体ですが、それは火気を吸収し膨張するというハタ迷惑な性質を持っています。」
そう説明されて・・・、アギトはまるで興味がないという顔で、ぼんやりと眺めながら「ふ〜ん」と覇気のない返事をする。
アギトにこれ以上のものは望めないと察して、オルフェが消火まんをアギトの手から取ると・・・遠くに放った。
「見ていなさい。」
そう一言、そしてオルフェは呪文の詠唱に入り・・・アギトの目の前で炎系の魔法を放った。
その消火まんめがけて・・・。
「エクスプローードっ!!」
ドォォォォーーッンという爆撃音と共に、アギトは短い悲鳴を上げて・・・その衝撃で吹き飛ばされそうになった。
煙が起こる場所から・・・、何やら白い物体がぶくぶくと膨らんでいっているのが見えた。
「んなっ・・・!!なんだありゃあっ!!?」
消火まんと呼ばれた白い物体は、オルフェが放った炎を瞬時に吸収していき・・・その威力の分だけ膨らんでいるように見えた。
「あれが消火まんの性質です。
どんなに小さな火の気でも、熱湯でも、熱波でも・・・、高温で火気を帯びているものならばそれを吸収してしまうのです。
そしてそれを消し去ろうという本能を持っているかのように・・・消火まんは自ら膨張し、そして熱を奪い、消火する。
一時期は消防の消火活動に適用しようという案が持たれた物ですが、火の勢いと共に巨大化する為、使用不可となりました。
よって・・・今では、ただ迷惑でしかない物質として・・・一般的に使用が禁じられています。」
オルフェの放った炎の威力の凄さが証明された、その消火まんは今では山と同じ位の大きさまで膨張していたのだ。
アギトはそれをオルフェから受け取り、ドラゴンが炎を吐きだす前に取る行動・・・空気を吸い込む時に、この消火まんを投げ
入れる・・・という方法を教わったのだ。
ドラゴンは空気を吸い込んだ時に、すでに炎を精製する為の火気を喉の奥にある袋に溜め込んでいる為、喉は高温となっている。
そして消火まんは、その喉の温度だけでどんどん熱を吸収し、ドラゴンの喉で膨張するというわけである。
サイロンは喉の奥で膨張した消火まんのせいで喉が詰まったようになり、それを吐き出そうとしていたのだ。
しかし消火まんは、もっちりとしていて・・・なかなか吐き出すことは出来ないはず。
それこそ冷気で冷やし・・・膨張を鎮めて、再び収縮するまで待つしかない。
「いよーーーっし、かかったぁーーーーっ!!」
アギトの作戦は見事、成功した。
サイロンは喉の奥が詰まり、呼吸すら出来ない状態に陥って・・・半分パニック状態となっていた。
「苦しいだろ・・・!?
呼吸出来ないのがどんだけツライか・・・、オレにはよくわかるぜ・・・。」
そう言ってアギトは、がしぃっと剣を両手で構える。
サイロンは呼吸困難に陥り、暴れ回って尻尾を振り回していた。
その尻尾は、大きな岩で出来た塊ですら・・・粉々に砕く程の破壊力を持っていた。
パニックに陥って、力の加減も出来ていない・・・尻尾にだけは気をつけなければ・・・。
そう心の中で何度も繰り返し、ようやくアギトの攻撃が始まろうとしていた!!