表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド~首都シャングリラ編~
64/302

第62話 「龍神族との交渉」

 国王との謁見中に乱入してきたサイロン達、チャイナ三人衆・・・。

勿論、オルフェを始めサイロンが何か仕掛けてくるだろうことは全員、承知していた。

表情に出さないように・・・、あたかも突然龍神族の若君が乱入してきた・・・という演技をしなければならない。

しかし・・・、このことを全く知らされていない人間がたった一人だけいた。


 サイロンはいつものように扇子を片手に、仁王立ちしていた。

国王の前でさすがにそれはないだろう・・・、とその場にいた全員がそう思っているに違いない。

ようやくサイロンが、ふっ・・・と笑い、そして大袈裟にお辞儀するような仕草で優雅に会釈した。

「突然の無礼、とりあえずは謝罪しておこう。

 じゃが・・・こちらとて急ぎ取り次いでもらいたい話があって参上したまでじゃ。」

顔をしかめる国王の様子を見て、オルフェはサイロンに向かって遺憾の意を表した。

「今、私達が謁見中です。

 失礼ですが順番を守っていただきたいのですが・・・若君?」

冷たい表情でオルフェがさらりと言った。

しかしそれに屈することなくサイロンも反論した。

「さっきも言ったであろう、余の用事も急いでおる。

 どうせお主ら、今日の真昼に執り行なわれる余興に参加する者共じゃろうが!?

 ちょうど良い・・・お主らにも聞いてもらいたいのう。我が眷属を不当に捕獲し、なおかつ見せ物にしようとするその行為!

 余は怒りを感じておる!!我ら龍族への侮辱にも成り得るぞ!?」

怒りを込めながら、それでも無礼のないように・・・静かな口調で反論した。

そしてサイロンは国王に向き直り、ようやく敬意を表すように跪くと、国王の言葉を仰いだ。

「聞かせてもらおうかの、ガルシア国王よ。」

サイロンを威圧するように見据え、そして問いに答えた。

「怒りは最もだサイロンよ、だがこれは必要な行為であることを・・・そなたにも理解していただきたい。」

国王の言葉に、サイロンはぴくりとなった。

「・・・必要とは!?」

「情報の早いそなたならもう周知のはずだが、光の戦士がこの世界に出現した。

 我らは神子の使命を一刻も早く達成させるが為に、戦士の実力を確認しておく必要があるのだ。

 その為には生半可な戦いで力を証明させても・・・何の意味もありはしない。

 世界最強と謳われる龍族であれば、その実力を真の意味で表すことが出来るだろうと・・・判断したまでだ。

 確かに龍神族に対し何の申し入れもなかったのは、我が国に非があったのやもしれぬ。

 先走った兵士にはその責任を果たすよう、取り計らおう。」

「お・・・お父様っ!?」

ザナハの顔が青ざめる・・・。

しかし国王の一睨みに・・・ザナハは委縮してしまった。

リュートは国王の言葉が信じられなかった。

ドラゴンとの決闘を至上命令として兵士を動かしたのは、確か国王自らだったはず・・・。

仮にその旨を龍神族のサイロンに伝えたとしても、生死をかけた決闘ならば恐らく認可しないだろう。

それがわかっていたから龍神族の地を侵してまで、まだ幼いサイロンの妹を捕獲したと・・・オルフェ達の話から想像できる。

国王は今、龍神族に申し入れをしなかった兵士に責任を取らせると言った・・・。

つまりそれは・・・、死を以て償わせる・・・そういうことなのだろうか!?

リュートはアギトの方を見た・・・、多分アギトも・・・さっきの国王の言葉の意味を理解して、怒っているはずだ・・・。

横暴だ・・・、こんなの・・・国を治める王がすることじゃない・・・っ!!

しかし、リュートは自分を取り巻く全ての威圧に押されて・・・、呼吸するのが精一杯だった。

サイロンは、国王の言葉に反論した。

「そんな命を捧げられたとて、何の得にもなりはせん。

 今更そんなことはどうでも良いのじゃ、過ぎたことを論議したところで・・・何の意味もないからのう。

 それよりも、じゃ。

 お主らが捕らえたのは・・・まだ幼いドラゴンなのじゃろうが!?」

「そうだ、成龍では我ら人間の手には到底及ばぬのが現状だからな。・・・それがどうしたというのだ?」

サイロンは企み笑いを浮かべて、国王に進言した。

「どうじゃ!?

 光の戦士と決闘するドラゴン・・・、それを・・・余が最も誇る最強のドラゴンと交換するというのは?」

「・・・!!?」

全員が驚愕した。

オルフェが一歩進み出て、サイロンの言葉に噛みつく・・・フリをした。

この辺はさすがに演技が上手いとリュートは思った、恐らくオルフェ自身もこのノリを楽しんでいるように見えるが。

「一体どういうことですか?」

サイロンはオルフェの方にちらりと目をやり、得意満面の笑みで全員に聞こえるように話しだした。

「言葉の通りじゃよ。

 余が得た情報によるとその捕獲されたドラゴンというのは、まだ幼いドラゴンというではないか。

 さっきガルシア王の言った言葉の通りだがのう。

 どうせ戦士の力を計るというのなら・・・、子供より大人のドラゴンの方が明確じゃろうが?」

「しかしドラゴンといえば・・・それも若君の薦められるドラゴンともなれば、例え戦士といえども完全勝利をおさめることなど

 不可能ですよ?

 どんなに屈強な勇者や英雄でも・・・、それは容易ではないでしょう。

 戦士の敗北が見えている決闘をしたところで、何の証明にもならないと思いますが?」

オルフェは自分の意見を、あたかも国王の代弁とでも言うように・・・視線を送りながらそう述べた。

国王はオルフェの言葉に頷くでもなく、ただ黙って聞いていた。

「ではルールを変えれば良かろう?

 余興というからには、会場が盛り上がれば良い。会場に集まる見物人とてそんな細かいところまで見てはおらんよ。

 死闘を楽しみに来ている客もいるであろうが、最強のドラゴンを出せばそれだけでテンションは上がるに違いない。

 だから戦士の勝利条件に、制限時間を設けて時間内まで生存する・・・というルールに変更してみてはどうじゃ?

 もしくは、ドラゴンに一太刀でも傷を与えることが出来ればそれで戦闘終了とするか・・・。

 ドラゴンの皮膚やウロコが、鋼よりも硬く出来ておることは先刻承知しておろうが?

 一太刀でも浴びせることがどれだけ命がけか・・・、お主の意見はどうじゃ・・・獄炎のグリムよ!?」

サイロンの提案に、オルフェはしばし考え込んだ。

メガネのブリッジを中指で押さえて、小さく溜め息をもらす。

そして散々悩んだ結果・・・というような間をおいて、やがて口を開いた。

「私はそれで構いません。

 それならば十分に戦士の実力を証明することが出来ましょう。

 制限時間制にしても、一太刀浴びせるにしても、それだけで実力を示すことになります。

 陛下、いかがなさいましょうか?」

国王に頭を下げて、決定を待つ。

しかし国王はずっと黙ったままだった・・・、全員に緊張が走る。

もしここで色良い返事をもらうことが出来なかったら、サイロンがせっかくここまでお膳立てした計画が水の泡になってしまう。

「お父様、あたしも彼の意見に賛成です。

 もしこんなところで光の戦士が、万が一命を落とせば・・・私の使命は果たせなくなってしまいます!!」

ザナハの一押しにも・・・、国王はなかなか承諾しない。


「いいじゃないか親父、そいつらの好きにさせてやれば・・・。」


 全員が一斉に振り向いた。

いつの間にか・・・、その男は謁見の間の端の方に控えており・・・柱にもたれながら腕を組んで、こちらを見据えていた。

オルフェに近い長身、少し長いクセのある黒髪、これから狩りにでも行くかのような軽装に、腰には2本の長剣を携えていた。

オルフェやサイロンに劣らぬ不敵な笑み・・・しかしその微笑みには邪悪なイメージを思わせるものがあった。

俗に言う・・・不良のようなイメージそのものだった。

「これは・・・アシュレイ殿下ではありませんか。」

オルフェが口にする。

あれがアシュレイ殿下・・・、国王の息子であり、正当な王位継承権を持つ、・・・ザナハの兄。

アシュレイがつかつかと国王の側に歩いて行き、空席だった左側のイスに乱暴に腰かけて、そして足を組んで全員を見据えた。

「オレはその男の意見に乗ったぜ、最強のドラゴンと戦士の決闘・・・見物みものじゃないか。

 親父も何を悩む必要がある?

 龍神族の者がこの余興を認可して、ドラゴンを正式に貸してくれるって言ってんだ。

 これ以上の好条件はないだろうが?」

父親にすら好戦的に、アシュレイは半ば強引に承諾させようとした。

「陛下、これは龍神族との親睦を深める良い機会ではありませんか?」

オルフェのその言葉の裏には、敵であるルイドの親友・・・サイロンを、こちら側に引き込めるかもしれない・・・という可能性を持っている・・・、そういった意味を含んでいた。

勿論、裏取引を交わしているオルフェとサイロンにとっては、それは取引を超えた内容なので、意味を成さないが。

やがて重たい口を、国王は開いた。

「・・・いいだろう。

 ではすぐにでも今捕獲しているドラゴンと、そちらが薦めるドラゴンと・・・真昼までに交換しておくがいい。

 ルールは、ドラゴンに一太刀浴びせることを条件とする。

 これで今日の謁見は終わりだ、皆は早々に退室しろ。」

それだけ言って、国王は不機嫌な表情になり・・・玉座から立ち上がって、奥の部屋に引っこんでしまった。

オルフェはやれやれ・・・と肩を竦めて、サイロンと視線を送り合う。

サイロンは満足そうに、扇子で扇ぎながらアギトに向かって言葉をかけた。

「・・・ということじゃ、小童・・・せいぜい気張れよ?」

そう言われ、アギトは国王がいなくなったことによって、まるでかせを外されたかのように態度が元に戻った。

「何余計なことしてくれてんだよっ!?

 せっかくちっさいドラゴン相手だったのに、それをなに突然現われて強いドラゴン推薦してんだよっ!!

 お前馬鹿か!?お前本格的なバカだろっ!!」

ぎゃあぎゃあとアギトがサイロンに食ってかかるが、サイロンはそんなアギトをからかうのが面白いらしく、全く動じていない。

勿論アギトの暴言に、ハルヒは割って入ろうかどうしようか・・・という態度をしていた。

「やれやれ・・・、実際どうなることかと思いましたけど、どうやら上手くいったようですね。」

回りに誰もいないことを確認してからオルフェが呟いた。

そしてオルフェは正面に居座っているアシュレイに向かって、笑顔でお礼を言った。

「これもアシュレイ殿下の助言あってのことですね。ありがとうございます。」

アシュレイはそんなオルフェの言葉を心底嫌がっているように、片手でしっしっと払いのける仕草をして顔を歪めた。

「お前にお礼を言われるのは、キモイ、ウザイ!いいからさっさとドラゴンの交換でも何でもしてこい。」

それだけ言って、アシュレイは立ちあがり、出て行こうとした。

そこにザナハが意を決して・・・という思いで、声をかけた。

「アシュレイ兄様・・・っ!

 あたしからも・・・、お礼を・・・、あの・・・。」

ザナハが戸惑いながら、言葉に詰まっていると・・・アシュレイは横目でちらりと見るだけで、うっとうしそうに言葉を投げた。

「お礼を言われる筋合いなんざねぇよ。

 オレはどちらかといえば、この決闘で戦士が死んでくれた方が良いと思っている位なんだ。

 わかったらさっさと世界を救う旅にでも何でも行ってこい。」

「・・・・・・。」

アシュレイの冷たく言い放った言葉に、ザナハは落ち込み・・・うつむく。

その光景を目の前にして・・・、オルフェも、ミラでさえ・・・、誰も何も反論しなかった。

そしてそのまま席を外そうとしたアシュレイに、もう一人・・・空気の読めない、いや・・・読まない人間が叫んだ。


「さっきから何だテメー偉そうにっ!!

 オレがドラゴンごときを相手にして、死ぬわけねぇだろうが!!ざけんなよコノヤローっ!!

 自分の妹がお礼言ってんのに何だよその態度はっ!!テメーみてぇな天上天下唯我独尊人間はムカつくんだよっっ!!」


 アシュレイ殿下に向かって指をさし、大きな態度でアギトが堂々と文句を言った。

オルフェを始め、ほとんどの人間は頭痛でもするかのように頭を抱えていたが・・・リュートは止めようという気持ちがなかった。

サイロンは勿論、面白そうに他人事の如く笑っていたし、殆どの者はアギトの態度に唖然としていた。

アシュレイはぴたりと・・・、アギトの暴言に足を止めた。


・・・と、瞬間だった。


「う・・・っ!!」


 アギトのノド元に、腰に差していた2本の剣を十字にして・・・アシュレイが間合いを詰めた形で、その状態のまま剣を止めた。

このまま2本の剣を下に引けば・・・、アギトの首は綺麗に斬れて床に転がっていたことだろう。

(動きが・・・全然見えなかった・・・っ!?)

アギトは心の中でそう呟いて、首の皮スレスレにある剣にこれ以上触れないように、体全体を動かさずじっとした。

すぐ目の前にある冷たい・・・歪曲した性格を思わせる歪んだ笑み、その好戦的な瞳に・・・アギトは目をそらせなかった。

「言葉には気をつけることだな、ガキ・・・。」

「ぐ・・・っ!!」

反論したいが、・・・この男の瞳を見ていたら本気でこのまま剣を下に引き下ろしそうな気がしたので、口に出さなかった。

アギトの自重した態度に、蔑むような笑みをふっと浮かべて・・・アシュレイは剣をゆっくりと離して、鞘に収めた。

「真昼の決闘、一応オレも見学させてもらうぜ?お前が苦しみあえぐ姿を見に・・・、だけどな・・・!?」

そう言って、アシュレイはそれ以上何も言わず・・・退室した。

アギトは動けなかった自分に、悔しそうにしていた。

その額には汗がにじんでいて・・・相当な威圧感を感じたのだと、リュートはそう思った。

自分だって離れていたのに、その威圧感をマトモに受けたように・・・竦んでいたからだ。

オルフェは肩を竦めて一応、アギトに注意した。

「彼はレムグランド国の正当な王位継承権を持つアシュレイ殿下です、お願いしますから殿下にだけは逆らわないようにお願い

 しますよ?

 弟子のしつけがなっていないと、私がクビにされちゃいますからね・・・。」

アギトはうつむき、聞いてるのか聞いていないのか・・・返事はなかった。

そしてそんなアギトに向かって、ザナハがこつこつと歩み寄って来た。

「・・・!?」


ばしぃっ!!


 アギトの前に立って、思いきり平手打ちを食らわせた!!

「んなっ・・・!?」

何が起きたのかワケがわからず、アギトは叩かれた頬に手を当てて、ザナハを睨んだ。

「何すんだお前わっ!!・・・・・・っ!?」

そう言いかけてアギトは、ザナハが泣きそうな、悔しそうな、そしてつらそうな顔で見据えているのが目に映った。

「馬鹿っ!!あんたアシュレイ兄様になんてこと言うのよっ!!」

「ば・・・、馬鹿とは何だよっ!!オレはお前があんなこと言われて黙ってっから・・・っ!!」

「だから馬鹿だって言ってんのよっ!!

 あんたが兄様に逆らって、もし本当にあそこで殺されていたらどうするつもりなのよっ!!?

 本当に殺されていたかもしれないのよっ!?

 あたしなんかの為にそんなことしないでよ・・・っ!!本気で・・・っ、本当に・・・怖かったんだから・・・っ!!」

沈んだ口調に変わっていって・・・、アギトはザナハに対する怒りが一気に消し飛んでしまった。


・・・泣いてる!?


 ザナハはそれ以上耐えられなかったのか、そのまま走って謁見の間から出て行ってしまった。

アギトが止める間すらなく・・・。

全員重苦しい空気に変わってしまった。

しかしこれ以上こんな所にいても仕方がないと、オルフェが皆を促し、謁見の間から出て行った。

サイロン達はドラゴンの所へ、オルフェとミラは真昼の決闘に向けての段取り、そして他の者は再びジャックの部屋に集まって、

真昼に備えて・・・英気を養った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ