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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 2
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第58話 「特別な色」

 洋館の中にある訓練所、そこでリュートとザナハ・・・そしてドルチェは合同訓練を行なっていた。

準備運動とは言い難いハードな筋トレメニューの後に、すぐさま三人組み手。

それぞれ武器を用いた、問答無用のサバイバル方式だった。

リュートは飛び道具やナイフといった、主に敏捷性や器用さを活かす暗殺用の武器を得意とした。

ザナハは完璧なマナコントロールで身体能力を高めた、格闘術に・・・水属性の魔法を加えた戦法。

ドルチェは新たに加わったぬいぐるみを手に、いかに素早く装備変更して対処できるかが勝負どころだった。

戦闘状況は必ずしも1対1とは限らない、今している三人組み手はそれを想定した混戦バトルのシミュレーションだった。


 リュートは主にジャックから身体能力を高めるために、まず筋力アップが要求された。

持ち前の素早さは活かしたまま・・・、そして全ての武器に精通しているジャックから武器の性能などの授業も受けた。

それによって、リュートの能力を最大限に活かせる武器の選別、扱い方、心得、果てには術技も伝授された。

リュートは自分で思っているよりも飲み込みが早く、元々器用さがあった為か、扱いの難しい武器もすぐに慣れた。


 ザナハは希少な回復魔法、そして精霊召喚が使える・・・パーティーの中で最も貴重な存在であった。

本人の意志とは裏腹に、ミラは徹底的に魔法によるパーティーの要になる修行方法を選択した。

最低でも隊列は中衛より前に出ることは許さず、常に中衛〜後衛に位置して味方の補助、回復を優先した戦法を叩きこんだ。

勿論、敵が接近してきた緊急用の為にも、体力的な面に多少気を使ったが、それでも主となる訓練はマナに関するものだった。

精神を研ぎ澄まし、素早く詠唱して魔法を放つ技術、更なる回復魔法の習得、そして敵にダメージを与える魔法も習得した。


 ドルチェは主に二人の対戦相手として、協力した。

様々な戦法で戦えるドルチェの能力が対戦相手に最適だったからだ、それにその経験によってぬいぐるみ自体の性能もアップする。

まさに一石二鳥だったので、ドルチェのぬいぐるみは新たに能力が上昇し、更にいくつか技も編み出した。


 3人の、この地獄のような訓練に耐える精神力・・・、全ては明日戻ってくるアギトに並び立つ為だった・・・!

二人には数日しか残されていなかった修業期間、しかしアギトは最も切迫した状況にあった為、特殊なアイテムにより半年分の

修行法に取り組んでいる。

しかもその師は、レムグランド国最強と謳われる魔術の天才・・・オルフェ大佐その人だったので、その成長は誰にも予想

出来ない・・・。

焦りばかり抱いていても何の解決にもならない、しかし全員・・・切磋琢磨し合って・・・この地獄に耐えた。



 ウンディーネデイ、明日にはレムグランドの首都へ向かう為に朝早くから馬車に乗り込まなければならない。

日も暮れかけて・・・、ようやくジャックとミラは修行を終了させた。

あとは馬車の中でもできるような、簡単なマナコントロールの訓練法を教わって、それをひたすら自主的に行なうだけだった。

「3人は、特に首都へ到着しても戦闘になるようなことはありません。

 ですが、道中魔物に襲われることもあるでしょう、その時にはあなた達も修行の一環として戦闘に参加してもらいます。

 その為に疲労が残ったままでは、せっかくの修行もきちんとした状態で臨むことができなくなります。

 自己管理するのも修行の一環だと心掛けてください。」

そう言って、ようやく3人は解放されて・・・、各々自由行動となった。

女性陣はシャワーを浴びに、そしてリュートとジャックは空いたお腹を満たしに食堂へ向かう。

「今日にはアギトと大佐が戻ってくるんですよね・・・?

 一体何時位に帰ってくるんだろう・・・、僕が見違えるほど強くなったのを早くアギトに見てもらいたいのに!!」

普段の服装に、軽装という装備をするようになったリュートは、その格好にもはや違和感を感じなかった。

腰に武器を装着することにも、抵抗を感じていない様子だ。

戦闘技術よりも、その精神力の成長にジャックは目を見張っていた。

初めて会った頃・・・、自分の意見すら主張出来なかった子供が・・・今はジャックの地獄のような厳しい修行に耐えて、そして

今はたくましく・・・、戦う能力を身に付けた・・・。

(これも全てはアギトと並ぶ為・・・か。)

ジャックはぼそっとそう呟いて、ふっ・・・と笑みがこぼれた。

「ジャックさん、何がおかしいんですか!?」

笑われたと思って、顔を真っ赤にするリュート。

「いやいや?なんでもないさ、それよりも・・・アギト達がいつ戻るかわからんからな。

 とりあえず早いところメシを済ませて、マナコントロールでもしながら帰りを待ったらどうだ?」

そう言われて、リュートは異論なく食堂へと走って行った。



 ジャックの言うように食事をすぐ終えて、リュートはすぐさま地下室の魔法陣がある部屋にこもった。

座禅をするような姿勢で、ジャックに教えられた通り・・・マナコントロールの訓練をする。

それから何時間経ったか懐中時計で確認する。

もう9時・・・、まだ戻らないのかな・・・?

少しだけ不安がよぎる。

するとふいに、なぜかは知らないがふと・・・アギトの言葉を思い出した。


 アギトとリュート、二人は交じりっ気のない・・・正真正銘の日本人だった。

両親、兄弟姉妹・・・親戚中・・・、その誰にも似なかったこの「青い髪」と、「青い瞳」・・・。

アギトはあまりハッキリと口に出したことはなかったが、自分とそう対して変わらない人生を歩んできたはずだ・・・。

青い髪という異形の姿を持って生まれてきた子供が、どんな扱いを受けるのか・・・。

リュートはそんな青い髪を心底憎んでいた。

この髪の色がリュートの人生全てを台無しにして、狂わせたからだ。

絶対好きになれなかった。

しかし・・・、初めて会ったアギトは、開口一番にこの青い髪が好きだと・・・一番の自慢だと言い放った。

憎しみを抱いていたリュートにとって・・・全く信じられない言葉だった。

てっきり自分と同じように憎んでいるかと思っていたのに・・・。


 そんなアギトと知り合って、そしてお互いに・・・ハッキリと言葉で交わさなくても、確認しなくてもわかる・・・。

二人はこれ以上にない親友同士だ・・・!

次第に心を開いたリュートが、アギトに聞いたことがあった。


「アギトはどうしてこの、青い髪を自慢できるの?・・・なぜ好きになれるの?」


 そう聞かれたアギトの顔は、全く理解できないという風な顔で「なんでそんなこと聞くんだ?」という表情をしていた。

そしてどうしても答えが知りたかったリュートは、何度も聞いた。

アギトは面倒臭そうだったが、ちゃんと答えてくれた。


「あのな、『青』って実はものすごく特別な色なんだって、お前知ってっか?

 この世で最も美しい色で、・・・ホラ、海の色だって・・・空の色だって・・・、地球の色だって、みんな青が基調だろ!?

 人間だけでなく、どんな生物も・・・もしかしたら宇宙人だって、『青』は特別美しい色に見えるんだってさ!!

 それに赤い薔薇とか、ピンク色の薔薇とか、品種改良で色んな色の薔薇が開発されたりしてるけど・・・、青い薔薇だけは

 どうしても作れないっていう話を聞いたことがあるんだ。

 それから奇跡を呼ぶ象徴として、青い薔薇っていう風に言われるようになったんだってさ・・・。

 薔薇にとっても・・・、青い色っていうのは・・・ものすごく特別な意味になるんだよ。

 それに幸せの代名詞でも、『青い鳥』っていって・・・幸せを運ぶ青い鳥っていう童話だってあるじゃん。

 だからオレはこの青い髪の色が大好きなんだ、自分が特別だって思わせてくれる・・・!!

 いつか・・・、奇跡を呼んでくれる・・・、幸せを約束してくれる色なんだ・・・って!!」


 小さな子供みたいな表情で、アギトはからかう風でもなく・・・本気で、無邪気な顔でそう言った。

それを思い出す度に、それまで大嫌いだった青い髪が・・・好きに思えてくるから不思議だ。

自分が青髪じゃなかったら、こんな風にアギトと親友同士になれなかったのかもしれない・・・。

そう・・・、例え小さなことだとしても、アギトは自分にいつだって奇跡を呼んでくれたし、幸せを運んでくれた・・・!

アギトがいればなんでもできる、変わることだってできる・・・、そういった気持ちにさせてくれた、信じさせてくれた!

次第にリュートにとっても、青い色は・・・それだけ特別な色に変わっていた・・・。


 リュートはおもむろに、父親から誕生日プレゼントとしてもらった銀色の懐中時計を開けて・・・腰からナイフを取り出した。

その蓋の内側に・・・、アギトとの約束の言葉を刻んでいく。

ゆっくりと・・・、丁寧に・・・、ナイフの刃先を使って。


『BLUEBIRD 08.April』


 アギトと初めて出会った日、そして・・・自分に幸せを運んでくれた青い鳥、「ブルーバード」と・・・リュートは刻んだ。

これは自分の宝物・・・、銀時計を見て微笑み、そしてまたポケットにしまった。

・・・と。


バシューーーッッ!!


 突然魔法陣が光り出したかと思うと、中心から風と・・・白い煙を巻き上げて、二つの影が姿を現す・・・!!

リュートはとっさに立ちあがり・・・、その影を見据えた。

懐かしいシルエット・・・。

風により煙が四散して・・・、その姿が浮かび上がる・・・。


「大佐・・・、アギトっ!!・・・・・・お帰りっ!!」


 傷だらけの顔から、懐かしい不敵な笑みが見える。

少し髪が伸びた・・・アンテナのようなツンツン頭に、少し刃部分が大きいものに変わった両刃の剣を肩にとんっと乗せて、

得意満面に、アギトは叫んだ。


「光の戦士、六郷りくごうアギト・・・たったいま帰ってきたぜぃっ!!」


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