第4話 「地下牢」
これはきっと夢だ……、夢に違いない……、てか夢でありますように……っ!!
両手を頭の後ろに回して、無抵抗の体勢を無理矢理取らされるアギトとリュート。
回りには三人の兵士、鉄の兜や鎧を身に纏った男達が二人を逃がさないように取り囲む。
そしてその先頭を歩くのは、金髪・長髪・長身・変なマントを羽織った陰険メガネ男。
いくら女の部屋を覗いてたからって、ここまでされる覚えはないっ!!
横暴だと不満をたっぷり表情に表わすアギトは、金髪メガネ男に対して殺意をむき出しにしていた。
その横で、「これ以上騒ぎを起こすのはやめてよね」と言わんばかりのリュートが目を眇めてこちらを見ている。
その視線にもちろん気付いているアギトは、渋々ながら暗黙に従う。
この辺はリュートにしか出来ない芸当だった。
金髪陰険メガネは、アギト達を建物の中に導くとそのままどんどん階段を下りて行った。
辺りが次第に暗くなっていく。
地下、あまりいい気分はしない。
つーか、地下にあるもんっていえば? と、アギトは連想した。
洗濯するところ?
ワインセラー?
……そして。
ビンゴ、地下牢。
そのままがちゃんっと、アギト達はあっさりと牢屋に連行されてしまった。
牢屋の扉に鍵をかけて、「では!」と金髪陰険ロンゲに敬礼すると、兵士達は(恐らくは)自分の持ち場へと戻って行った。
「ちょっと待てやぁぁぁーーっっ!! たかが覗きごときで牢屋に放り込む奴がどこにいんだっ!! 弁護士呼べ!! 弁護士さぁーーんっっ!!!」
牢屋にしがみついて、たっぷりと陰険ロンゲ男に向かって思い切り怒鳴るアギト。
やれやれと、深い溜め息をつくとその金髪陰険ロンゲマント男は冷ややかな視線でアギトに忠告した。
「大人しく自重してくれれば、こちらとて手荒に扱ったりはしませんよ。
それに王国が管理するこの敷地内に不法侵入、並びに王国の姫君の私室を覗いた罪。
本来ならば監獄に連行するところを、姫様のご配慮でそれを免れた。姫様に感謝なさい」
そう言うと、陰険マントメガネ男は微笑(目は笑ってない)を浮かべたまま上へと
上がって行ってしまった。
寒々とした薄暗い地下牢に残された二人は、牢屋の中で途方に暮れる。
「……これからどうする?」
すっかりいじけたリュートは牢屋の隅っこで三角座りをして、妬ましそうにアギトを見る。
その視線を痛々しく感じながらもアギトは、まだ希望を諦めたわけではなかった。
「だ、大丈夫……だろ?
さっきのおっさんも、姫さんが罪を軽く見てくれてるってゆってたしっ!!」
「覗きって、別に着替えてる最中を見たわけじゃないのにね」
「そうだそこだよ!! 服を完全に来てた女二人が部屋ん中でダベッてるとこ見て、何で牢屋にブチ込まれなきゃ なんねぇんだっつーんだよ!! つか、あのおっさん確かあそこだけワザと警備を薄くしてたとかゆってたろ!? こうなるように仕向けた向こうが悪いんじゃねぇかっっ!! オレ達ぁ無実だろっ!?」
それでも、不法侵入だけはどうしようもない。
この世界に来たばかり……いや、飛ばされたと言った方が正しいのか。
とにかくワケもわからず見知らぬ場所にやって来て、それで不法侵入がどうのと言われても知らないものは知らない。
薄暗い地下牢で、覇気も士気も元気も……この部屋に吸い取られるような錯覚に陥る。
だんだんと二人の口数も減っていき、やがて二人ともがっくりと肩を落として誰かが来るのを無言で待った。
会話がなくなると一分も一時間程に感じられた二人は、もう長いこと牢屋にいた気がした。
やがて(実際には五分程で)上から物音が聞こえて、誰かがコツコツと階段を下りてくる足音が聞こえてきた。
それを瞬時に察したアギトは、反射的に飛び起きてすぐさま牢屋の鉄格子まで駆けていき、よせばいいのに再び無駄に吠え始める。
「出せコラァーーっ!! オレ達は無実だっつってんだろぉおっっ!!」
下りてきたのは、さっきの金髪陰険マントと、金髪ナイスバディ美女と、そして姫と呼ばれた少女だった。自分達が下りてきた途端、大声を張り上げてきたアギトを見て明らかに不快感を露わにしている。リュートはアギトを止める体力も元気もないせいか、牢屋の隅っこでまだうずくまっていた。
がるるるるっと、凶暴なケモノみたいに敵意をむき出しにするアギトを他所に、三人は勝手に話を進めている様子だ。
「ーーで、彼らのどっちが光の戦士なんですか?」と、金髪美女……その顔は無表情だった。
「それは精密検査をしてみないことにはハッキリと答えが出ません」と、これは陰険メガネ。
「……」
姫は明らかにアギトに対して嫌悪感を感じていた。
アギトは例えはらわたが煮えくり返っていても、彼らの会話を聞き逃さなかった。
「光の戦士!? ハッ!! やっぱ勇者召喚とかそっち系の展開かっ!? ハイハイハイハイっ! オレ達その勇者とかいうヤツだぜ!? 正確には向こうでいじけてるのが勇者見習いで、オレはその勇者を命をかけて守り抜くカッケェ〜魔法剣士になる予定なんですけどぉーーっ!!」
「ちょっと待って、僕が勇者ってどういうことさ!? それこそ聞いてないしっ!!」
しかしアギトが勇者をやりたがらない理由は、以前から周知のことだった。
RPGとかオンラインゲームをしている時、アギトはいつも主役をやりたがらない。
普通アギトみたいな、自分が前に出るタイプは真っ先に主人公をやりたがるものなのだが、
アギト曰く勇者よりも、勇者を影ながら命をかけて守り、戦う剣士とかの方が数倍カッコイイ、ということらしい。
牢屋の向こうにいる三人は、アギトを見てワケがわからないという面持ちで首を傾げていた。
やがて陰険男が口を開く。その表情はオートでスマイル設定にされているのか、始終笑顔だ。
「残念ながら勇者募集はしていないんですがね。しかし、少し浮世離れした格好や様子を見ると、この世界の住人でないことだけは間違いなさそうですねぇ。申し訳ありませんが、あなた方の身柄をこれからどうするのかはこれから受けてもらう精密検査次第、ということにしたいのですが、よろしいですか?」
「せ、精密検査!?」
解剖とかされるイメージをした二人は、一瞬蒼白になった。
「ああ、心配いりませんよ。痛いことはしません、チクッとはするかもしれませんが。その検査結果次第であなた方のどちらかが、我らが必要としている光の戦士なのかどうか判断させていただきます」
出た、とアギトは察知した。
(やっぱりこいつら勇者を探しているんだ!! そして異世界から来たオレ達が、その勇者であることはすでに決定済みっ!! となればその検査にパスさえすれば、この牢屋から出て罪人から一気に勇者に昇格!! どうせこの世界を混沌に陥れる危険な存在。つまりドラゴンだか魔王だか魔族だかをぶっ倒せば、元の世界に戻れる!! という、決まりに決まりまくったお約束な展開である流れでまず間違いない!!)
ーーと、アギトは把握した。
一方的に。
そしてその思惑を瞬時に悟ったのか、リュートはあからさまにイヤな顔をした。