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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 2
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第54話 「ザナハとアシュレイ」

 サイロン達が洋館を出た頃には、もう昼近くにまでなっていた。

とりあえずアギトの修行に関してはサイロンからもらった龍玉というアイテムで、なんとかなりそうだ。

問題は・・・眠りについているアギトが、いつ目を覚ますのか。

サイロンはたった一言・・・。

『ゆっくり寝かせて、起きたら栄養のある食事をたくさん摂ること』・・・と、それだけだった。

いつ目覚めるのか、そういった肝心なことは結局言わず仕舞いだったのだ。


 ドルチェはミラと一緒に用事があるとかで、どこかへ行ってしまう。

そしてリュート、オルフェ、ジャックは・・・、一度アギトの眠る部屋へと訪れていた。

いまだに穏やかな表情で、ノンキに寝息を立てて寝ているアギト・・・。

オルフェはそんなアギトを見て、どうしたものかと頭を悩ませている。

「ゆっくり寝かせる・・・ということは、無理に起こしたら危険・・・という意味でしょう。

 マナが大量に減少した状態のまま起こしても、これといった訓練は出来ません。

 いつ起きるかわからない以上、例え龍玉があったとしても・・・余興が行なわれる期日の4日前には、この洋館を出発しなければ

 いけません。

 レイラインの魔法陣があるこの洋館でなければ、龍玉を使用することが出来ませんからね・・・。」

両手を後ろに組んで、オルフェが悩ましそうに唸った。

「それじゃあ、最低でも明後日のルナデイまでに目覚めなかったら・・・中途半端にしか訓練出来ないということか。」

二人が悩んでいる時に、リュートは疑問に思ったことを聞いてみた。

「あの・・・、眠った状態のアギトに龍玉を持たせて移動したらダメなんですか?

 もしくは最低期日まで待って目覚めなかったら、眠った状態のまま静止世界に連れて行って・・・目覚めるまで待つとか。

 そういうのは出来ないんでしょうか?」

オルフェは、少し考えていた。

「リュート、頭いいじゃねぇか!!そうだなぁ・・・、確か移動はこの龍玉がしてくれるようなこと、言ってたな。」

リュートの背中をばんばんと叩いて、リュートは痛がったがそんなにイヤじゃなかった。

それよりも・・・、今のリュートの意見にオルフェはどう思うだろうと見つめた。

オルフェは頭がいい・・・、その彼が問題ないと言えば・・・。

「確かにそれはいいアイディアです・・・。

 ただ、『レイラインの移動には反属性でなくても構わない』・・・としか聞いていないので、確証は持てません。

 レイラインでの異世界間移動は、移動する者がマナを放出しなければいけませんからね、基本的には。

 それは何度も移動を体験しているリュートが一番よくわかっていることですが・・・。」

そう言って、オルフェはサイロンから渡された龍玉の入った袋の紐を解いて、中から龍玉を取り出そうとした。


 すると・・・、袋から白い紙きれのような物が落ちた。

リュートは何だろうと、拾い上げる。

小さく折りたたまれた紙きれを広げて、リュートは「もしや・・・」と思って紙きれを眺めた。

やっぱり・・・。

そう察して、リュートはひきつった笑いを浮かべながらオルフェにその紙きれを渡す。

「大佐・・・これもしかして、取扱説明書・・・とかいうやつじゃないですか?」

そう言って、オルフェに渡して・・・リュートには読めなかった文字を読んでもらう。

一通り文面に目を走らせて、オルフェは苦笑する。

・・・どうやらビンゴだったらしい。

「リュートの言う通りです。

 これはこの龍玉に関しての使用方法と、注意事項が書かれています・・・、龍神族の文字で・・・ですけど。」

「あの若大将・・・っ!!

 そんなもんが入ってるんなら、最初に言っておけってんだ・・・ったく!!」

ジャックの怒りはもっともだが、恐らく言わなかったのはワザとだろうと・・・リュートはそう踏んだ。

しかし・・・、オルフェは『龍神族の文字』と言っていた。

こちらの世界の文字と違う・・・ということは、ちゃんと解読できるのだろうか?

自分達の世界で言うところの、日本語と英語・・・という位の違いだろうか?

「あの・・・、大佐はその龍神族の文字って、読めるんですか?」

恐る恐る聞いてみる。

もし読めないとか言われたら、サイロンの口説明だけで事を進めなければならない。

オルフェは紙きれをじっと見つめたまま・・・、少し唸って・・・返事した。

「今すぐに解読するには・・・、少し文章が長すぎます。

 少し時間がほしいですね。

 私は今すぐこの説明書らしき文章の解読に入りますから、君達は君達の訓練でも始めておいてください。」

そう言って、オルフェはすぐ立ち上がり・・・龍玉を袋に入れてポケットにしまうと、部屋からさっさと出て行ってしまった。

部屋に残されたリュートとジャックは、眠っているアギトに声をかけて・・・それからオルフェの言うように訓練を始める

ことにした。

「アギトのことは師匠であるオルフェに任せて、オレ達は訓練を始めるとしよう!!」

遂に来た・・・、どんなメニューが待っているのかはわからないが・・・。

「はい、よろしくお願いします。」

やる気のある元気な声で返事をしたかったが、ここにはアギトが眠っている為に、声は出来るだけ小さめに控えた。

両腕を組みながら、ジャックはニカッと笑うと・・・リュートに伝える。

「その前に、腹が減ったから・・・まず昼飯にしよう!!」

一瞬にして・・・、空気の漏れた風船のように・・・やる気がしぼんでいく・・・。

「はい・・・、そうですね・・・。」

この人は仮にも・・・一応師匠だ・・・、リュートはジャックに逆らうことなく・・・アギトの部屋を出て食堂へ向かった。



 ザナハは一人、部屋に戻っていた。

ぼんやりと窓から外を眺める・・・、なぜ国王陛下はあんな無駄な余興などをすると・・・言いだしだのだろうか?

そもそも・・・光の戦士の力を試すにしても、ようやく現れた光の戦士をそんな余興なんかで死なせてしまっては・・・。

全く理にかなっていない、・・・ザナハは全く腑に落ちていなかった。


(オルフェ達だってその不自然さには、気付いているはず・・・。

 従っているのは・・・オルフェ達が軍人だからだ。疑問に感じても、無益だとわかっていても、至上命令と言われればどんな

 ことでも逆らえない、抗えない・・・それが軍人だ。

 でもあたしは・・・、姫という身分を持っていながら・・・国王には逆らえない・・・。

 その点はオルフェ達と同じだ・・・。

 なんて情けないんだろう・・・、何の為に姫になったんだろう・・・。)


 ザナハは、はぁ〜・・・っと深い溜め息をついて、部屋の中をうろうろした。

そして、タンスの上に置いてある数々の写真立てを眺める。


 教育係として来たばかりのミラと一緒に写っている三歳位のザナハ・・・。

「確かこの頃だっけ・・・、あたしはまだ小さかったからあんまり覚えていなかったけど・・・。

 ミラから聞いた話によれば確か・・・、伝説の神子アウラと全く同じマナ指数を持って生まれてきたあたしを・・・。

 光の神子にする為に・・・レムグランド国の王家に養女として、迎えられたのは・・・。」


 そう・・・、ザナハは正当な血筋を受け継いだ姫ではなかった。

レムグランド国では代々、光の神子という資質を持つ者を確認した場合には・・・本人の意思を仰ぐこともあるが、大体は幼くして

養子縁組が行なわれるのが一般的になっていた。

中には子供を手放したくない親が、神子の資質を持った娘を明かさず・・・そのままひっそり暮らしている場合も少なくはない。

ザナハの場合は、戦災孤児で発見され・・・その時にマナ指数を調べられて、神子の中でも最も貴重なマナ指数を持っていたので

本人の意思とは関係なく・・・養女として、レムグランド国の姫として迎えられたのだ。

それからザナハは、王宮の中で暮らし・・・ミラという教育係と共に、神子としての教育・・・そして帝王学を学んできた。

国を想う心や、憂う心、そういった教育を中心に育ってきたので、神子として国の為に働くことは当然であり、義務だと・・・

疑いもしなかった。


 そんなザナハには、義理の兄がいる。

正確にはレムグランド国の正当な血筋を持つ、次期国王という・・・王位継承権を持ったアシュレイ殿下だ。


 ザナハは隣にあった写真立てに、目をやった。

そこには・・・、オルフェと・・・ミラ、6歳位のザナハ・・・それに兄である、アシュレイ殿下が写っていた。

髪は黒く、ストレート。

肩位にまで伸びた髪は、少しクセがあり・・・大人しい高貴なイメージというよりも、ワイルドでたくましいイメージが強かった。

長身でスマートに見えたが実は結構鍛えていたらしく・・・、手をつないだ時はごつごつとした無骨な手が・・・誰よりも剣術の

練習をしたと、幼いながらに理解していた。

ザナハがまだ幼い時は、優しかった兄のことが大好きだった。


 しかし・・・、ザナハが光の神子になることを決意した日から、・・・兄は変わってしまった。

それまでは誰にでも優しく、物腰は穏やかで、凛々しい顔には知性溢れた教養ある態度・・・、それが皆の心を掴んでいた。

現国王をも凌ぐ賢王になると・・・、誰もがそう信じて疑わなかった。


 ザナハがルイドにさらわれた時も、アシュレイはオルフェを筆頭に部下を従わせ、奪還の為に全力を尽くした。

数日してすぐに帰って来たザナハを一番に喜び、優しく迎えたのも・・・他の誰でもない、アシュレイだった。

それから数年して・・・、光の神子の使命を、義務を、理解したザナハが・・・光の神子になる決意をした。

アシュレイは最後の最後まで、反対していた。

神子の使命は重く、辛く、とても厳しいものだと・・・、勿論ザナハはそれも承知の上で決意をしたのだ。

それを知ってからアシュレイはまるで人が変わったかのように・・・、人としての道を外れてしまった。


 首都へ戻るということは、あれ以来会っていない兄に対面するということになるだろう・・・。

ザナハの胸には、アシュレイに対して一縷いちるの望みを抱いていた。


 オルフェの密偵だと言っていた・・・、元々はアシュレイの密偵である諜報員の話・・・。

『アシュレイ殿下は、国の平安の為に国王に進言されました。そして余興を阻止すべく私に命令を下しました。』

国王陛下がアギトとドラゴンとの対決を余興として執り行なおうとした時、真っ先に反論したのがアシュレイだった・・・。

アシュレイにはまだ、国を憂う心が残っている・・・!

それを確かめたいという気持ちがあった。


 ザナハは静かに息を吐いて・・・、決意する。

自分が光の神子として立派に義務を果たす姿を見せられるように、自分ももっとしっかりしなくては・・・!!

その為には、もっと鍛えて・・・精霊を行使できるだけのマナのコントロールを、もっと研ぎ澄まさなければ・・・!!


 再び自分のするべきことを思い出したザナハは、こんな所でうだうだと悩んでいる場合ではないことに気付く。

アギトが龍玉を使って、3日の間に半年分の修行をして帰ってくるというのなら、自分も負けてはいられない!!

自分は更に精霊を行使した魔術を、安全に確実に扱えるようにしなければ・・・、この先に控えているイフリートとの契約で

足を引っ張るのかもしれない。


 思い立って、ザナハはすぐさまミラを探した。

ミラは確か応接室から、そのままドルチェと一緒に研究室に向かったはずだった。



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