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【長編・完結済】ツインスピカ  作者: 遠堂 沙弥
異世界レムグランド編 2
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第53話 「取引成立」

 サイロンの要求に、真っ先に反対したのは勿論ジャックだった。

「それは有り得ない、却下だ!!

 人身売買は法律で禁止されているはず・・・っ、ここは物々交換か金銭だろうがっ!!」

ジャックがイスから立ち上がり、サイロンににじり寄るとハルヒが立ち上がり・・・その手はソファーの後ろに置いてあった巨大な

斧に触れていた。

それを横目で見て、ジャックは足を止め・・・そしてちらりとオルフェの方に目をやり、ちっ・・・と舌打ちしてイスに戻った。

ミラが遠慮気味に一歩前に出て、サイロンに進言する。

「恐れ入りますが、彼ももう我々の仲間・・・簡単に若君への対価としてお支払いするわけにはいきません。

 先程ジャック先輩が言われた通り、レムでは人身売買は法律で固く禁じられております。

 法の番人である我々といたしましても・・・、それを許すわけには参りません。」

会釈しながらミラが言う・・・、しかしサイロンはその言葉にすら屈するつもりは毛頭なかった。

「ならば、八百長の話も龍玉の話もナシじゃな。

 取引が成立しないのならば、余達はこれにて失礼させてもらおう。

 妹を奪い返す・・・という急務が出来たばかりだしのう。」

そう言ってサイロンはソファーから立ち上がり、帰る姿勢を見せた。

オルフェはサイロンの申し出に応えるか・・・、少し悩んでいるようだった。

早くしないと、三人共帰ってしまう。

ここで・・・今まで話したことが全てナシに終わってしまったら、最初と何も状況が変わらない。

いくら子供のドラゴンといっても、今のアギトに勝ち目がないのは目に見えている。

それにもし・・・サイロンがドラゴンを助けだして、決闘の話がなくなっても・・・リュートの死刑がチャラになるわけじゃない。

少なくともその場合には、アギトの命は助かるのかもしれないが・・・。


「待って下さい!!」


 リュートは立ちあがっていた。

立ちあがって・・・、サイロンを呼びとめて、震える体を必死でこらえながら・・・リュートは覚悟を決めて承諾した。

「いいですよ、僕と引き換えに・・・アギトが助かるのなら、僕がその対価になります!!」

サイロンは振り向いて、訊ねた。

「良いのか?

 お主もすでに気付いているはずじゃ、余が妹を救いだせばドラゴン対決はナシ、国王も余興を諦めざるを得ないとな?」

「でもそうなったら、また他のドラゴンが攫われるだけなんですよね?」

「・・・本気かえ?」

「勿論です、冗談でこんなこと・・・言えませんよ!」

「・・・随分震えておるようじゃが、怖いのか?」

「・・・っ、これは・・・っ、あの・・・武者震いです!!」

「よくある言い訳じゃな。」

「・・・う、うるさいな!!そんなことよりも・・・っ、取引に応じるんですか、どうなんですかっ!?」

サイロンとのやり取りに、オルフェが心配するような口調で囁いた。

「リュート、無理はしなくてもいいんですよ。」

「無理なんてしてません、僕は・・・、僕に出来るコトをしてるだけですから・・・っ!!

 大佐も覚悟を決めてください!!」

「だがリュート、あいつらがお前に何をさせるつもりなのかわかったもんじゃない!!

 もしかしたら闇の戦士であるお前を、ルイドに差し出す気かもしれないんだぞっ!?そうなったら、命の保証すら・・・!」

ジャックの説得に、サイロンが反論した。

「命の保証はしようぞ、それにお主ら・・・何か勘違いしてはおらんかの?

 誰が人身売買に闇の戦士をもらうと言った?

 余は闇の戦士の身柄と引き換えに・・・とは言ったが、もらうとは一言も言っておらんであろうが。」

「はぁっ!?

 そんなモン、もらうって言ってるようなモンじゃないのよっ!!」

握り拳を突き上げて、ザナハが反論した。

「それは・・・お主らが最後まで話しをちゃんと聞かんからじゃ!!」

ザナハの言うことの方がやはり正しかったのか、サイロンは苦しい言い逃れをした。

「それでは・・・、一体どういった条件の元で引き換えるのですか?」

オルフェが確認するように聞いた。

「まぁ・・・そうじゃな。

 一定期間の間だけ、借りる・・・という意味じゃ。

 今すぐというわけじゃなくても良いが、一度だけ・・・闇の戦士を借りたいという条件を飲むなら、先程の取引に応じよう。」

そう言ったサイロンの言葉に、リュートは眉根を寄せた。

「・・・そんなことでいいんですか!?」

「お主は自分の価値を知らな過ぎるのう、もっと自分の存在に自信を持つが良い。」

サイロンの激励のような言葉をさえぎって、ジャックが詰め寄った。

「惑わされるなリュート、一定期間だけでも危険だ。

 タイミングを見てお前をアビス側に引き込む作戦かもしれない、あいつがルイドの親友であることを忘れるんじゃないぞ!」

確かにジャックの言う通りではある。

サイロンは、異世界からやって来たであろう闇の戦士であるルイドの親友だ。

ルイドを見つけ、闇の軍勢の首領となるように導いたかもしれない人物だった。

それでも・・・、このドラゴンに関して・・・サイロンの協力が必要だということだけは、揺るぎようのない事実だ。

「ジャックさん、ありがとう。

 でも僕はサイロンさんのこと、信じてみようかと思います。

 仮に僕をアビス側に引き込もうとしても、僕にその気は全くありませんから大丈夫ですよ。」

そう笑顔で言って、リュートは自分が取引の対価になることを引き受けた。

オルフェは黙ってリュートを見つめていた。

その顔は、申し訳ないという謝罪と・・・何かを含んだような顔で、よく読みとれなかった。


 そんな回りの人間の空気も介せず、サイロンは再び向き直り笑顔で言い放った。

「では取引成立じゃ、物分かりの良い戦士でお主ら大助かりじゃのう!!」

その言葉に、ジャックがぴくりと怒りをあらわにしたのは、言うまでもない。

勿論、サイロンはそんなことは一切お構いなしに言葉を続ける。

「余興当日のことは余に任せておくが良い、それからこの龍玉はお主に渡しておこう。」

サイロンは黄金に輝く宝石のような石を、オルフェに渡した。

「それはレイライン上に描いた魔法陣の中で使用可能じゃ。

 それを2つに割って、弟子である光の戦士と、師匠であるお主がそれぞれに持つが良い。

 反属性同士でなくてもその龍玉が異世界間の移動を可能にするのじゃ。

 静止世界に辿り着くと、その時点でその龍玉はゆっくりと溶けて行くように形が段々と小さくなっていく。

 完全になくなってしまえば、強制的にレムに戻るようになっておるから、その辺は安心するがよい。

 静止世界は、パラレルワールドになっておる。

 つまり時の止まった状態のこの洋館に辿り着くようなモンじゃ、姿形は全く同じじゃが時が止まっていて、人間も

 移動したお主らしか存在せぬ。

 それと・・・移動した時点での状態が、そのまま向こうの世界に影響するようになっておる。

 食糧などは十分に確保してから移動することをオススメするぞ?

 滞在期間は、半分に割ってしまった場合には、静止世界では約半年、こちらでは約三日間向こうの世界に

 滞在することになろう。

 半年もあれば、戦士のレベルもだいぶ上がっておることを期待しておるぞ?」


 それだけ説明すると、サイロンは付き人を引き連れて応接室から出て行こうとした。

「あの・・・、僕は一体いつ頃サイロンさんにレンタルされてしまうんでしょうか?」

リュートが聞いた、そのまま帰ろうとしていたので・・・せめて自分がいつ拉致されるのかを聞いておきたかった。

振り向いて、サイロンはリュートに告げた。

その顔は・・・、いつもの笑顔がなく・・・まるでものすごく重たい使命を背負って苦しむような、そんな憂鬱そうな顔だった。

「それはまた近い内に告げよう。

 安心せい、一応前もって伝えてから連れ帰る。

 再会してすぐ連れて行くようなマネはせんからのう、そんなマネをしたら光の戦士がうるさいじゃろうが。」

後半にはいつもの嬉しそうな笑みを浮かべ、高笑いをしながら・・・そして部屋から出て行ってしまった。

いつもそうだが、サイロンがいなくなった後の部屋は・・・ものすごく静かに感じられた。

「おい、本当にこれでよかったのかリュート?」

ジャックが心配そうに声をかける。

「はい、きっと大丈夫ですよ。

 仮にも龍神族は中立の立場なんですよね?戦争に発展するようなことはしないと思いますから・・・。」

リュートのその言葉に、オルフェも同意なのか・・・ゆっくりソファーから立ち上がって言葉を添えた。

「そうですね、恐らくリュートの言う通り・・・一方的にルイドに差し出すようなマネはしないと思いますよ?

 あくまで龍神族の代表であり、次期族長の若君・・・なのですからね。」

だがしかし、ソファーに座ったまま・・・いまだ浮かない顔をしたザナハが、独り言のように呟いた。

「オルフェ・・・、どうしてお父様はこんな余興を思いついたのかしら。」

その質問に、オルフェが視線をそむけながら答える。

「親書にもあったことですが、陛下は余程・・・今回の光の戦士に賭けているように見えますね。

 それだけアギトの成長に力を入れなければならない、という忠告も含んでいるのかもしれません・・・。」

それだけ聞いてザナハは、疲れたからもう休むと・・・一言だけそう言って、応接室から出て行ってしまった。

多分・・・こんなことになったのも、全部自分の父親が言ったことが原因だから、その責任を感じているのだろうか。

リュートはそう思うしか出来なかった。


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